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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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紅蓮の傍に寄り添うのは


目を開くと、少し黄ばんだ天井が見えた。
上半身を起こし眠たい目を擦ると、アルカは1番近くの窓に手を伸ばしカーテンを開けた。眩しい光に目を眩ませながら、寝癖の付いた赤い髪をガシガシと掻き回す。
当時5歳の少年がやるには些かおじさんっぽい仕草だが、父親を見ていていつの間にか身についてしまったのだから仕方ない。
着古したパジャマを脱ぎ、黒いジャケットを白いトップスの上から着る。これは2つ上の姉ミレーユが自分用に買ったものだ。何故それを弟のアルカが着ているかというと、「買ったはいいけど着る機会があんまりない」と貰ったからだったりする。サイズも問題ない。
何より、アルカは父が黒いコートを着ている時の後ろ姿が好きだった。色鮮やかなクリムゾンレッドの髪に黒いコートという出で立ちはとても様になっていて、コートではないが色は同じジャケットをアルカは愛用している。

(……静かだな)

ジャケットの袖に腕を通しながら、アルカは違和感を覚えた。
いつもなら、よく喋る姉の声や母が朝食を作る時の―――――例えば熱したフライパンに卵を流し入れる音やトースターの音が聞こえるはずだ。イレイザー家は小さくはないが、大きくもない。毎日そんな音が家中に響いているような環境である。
まだ寝てるのか、とも考えたが、すぐにその考えは消える。時計が示すのは午前9時。この時間なら母が起きているはずだ(平日も休日も7時起きするのがアルカの母である)。

(全員出かけた…訳じゃないだろうし、本当に起きてないのか?)

……妙だ。
何の音もしない。料理する音も、話し声も、足音も。
違和感を抱えたまま部屋を出て、階段を下りる。階段に行くまでに姉の部屋があり試しにドアをノックしてみたが、返事はない。「姉貴ー、寝てるのかー?」と声もかけたが、反応なし。

「親父ー、母さーん、起きてねーのかー?」

両親の部屋は1階だ。階段を下りつつ声を掛ける。
いつもなら、リビングのソファに座った父エストが新聞から顔を上げて笑みを浮かべる。
いつもなら、キッチンに立つ母シグリットが振り返って寝癖の付きやすい赤髪を撫でる。
いつもなら、自分で髪を結べない姉ミレーユが慌てたようにアルカを見つけて駆け寄る。
それがアルカの“いつも”であり、今日だってその“いつも”が繰り返される――――それ以外に考えられなかった。

「おーい、聞いてんのかー?」

アルカはよく“あまり怒らない子供”だと言われる。
別に全てを怒らず許す訳ではなく、怒るのは家族の事を何か言われたり、大切なモノに対して何か言われたりする時だけ。それ以外はどんなに苛ついても声を荒げないし、大抵は笑って済ませる。
その理由は至って単純で、怒って声を荒げた後の空気が嫌いだからだ。ギスギスして、誰に何を話しかけていいのか解らない。だから全員が沈黙する、重たくて肩身が狭くなるあの空気が。
あの空気で嫌な思いをするくらいなら怒りを抑えていた方がマシだ、と考えているのだ。だから、という訳かは解らないが、アルカは姉とあまり喧嘩をしない。勿論両親とも、だ。
が、声を掛けても無視をされるのには流石に腹が立つ。それが1人だけならまだしも、家族全員に無視されているなんて堪ったもんじゃない。

「聞いてんのかって……」

言ってんだよ、と続けようとして、止まる。
リビングには、誰もいなかった。
素早く周囲を見回すが、ソファに父親はいない。キッチンに母親はいない。慌てて駆け寄ってくる姉の姿もない。
あるのは昨日の夜見たのと変わらない家具と、ラップが掛かった1人分の料理、テーブルの上に置いてある二つ折りの紙だった。
手を伸ばし広げると、そこにはただ一言書かれていた。






―また会えるのなら、その時まで―






たった一行の文章の下に、3人の名前が書かれている。
父の名は、どこか角ばった字で。母の名は、緩やかでのびのびとした字で。姉の名は、女の子らしい丸い字で。
アルカの見慣れた文字が綴る一行の意味を、アルカは時間をかけてゆっくりと理解した。
本当はすぐに解っていた。彼等が何をしたのかも、解っていた。それでも理解したくなくて、理解出来ないフリをした。
それでも、自分をずっと騙し続ける事なんて出来ない。
いずれは理解しなければいけない事だ、と自分に言い聞かせて、アルカは廊下に置いてある通信用の魔水晶(ラクリマ)を繋げる。

「……ああ、じーちゃんか?オレだよオレ、アルカ。親父と間違えた?確かに似てるし無理もねえな」

そう言って、笑う。
笑っていれば全てが解決する。ふつふつと湧き上がる怒りを抑える事だって出来るし、悪くなりかけた空気をよくする事だって勿論可能だ。
孫からの連絡に嬉しそうに目を細める祖父を安心させるかのように、アルカは笑う。

「それでさー……1つ、言わなきゃいけない事があんだけど」

ポリポリと頬を掻きつつ、それでも笑う。
心の中で苦しんで、泣いて、どうしようもない怒りをどうすればいいか解らない本当のアルカンジュ・イレイザーを無理矢理押し潰して、ただただ笑う。
これから言うのは自分でだって認めたくない事実。それでも、言わなければならない。
震えそうな声も、今にも泣きだしてしまいそうな表情も、突然襲い掛かってきた寂しさも全てを封じて、へらりとした笑みを崩す事なく、アルカは言う。






「……オレ――――――捨てられたみたいだ」









アルカの中で、何かが音を立てて壊れた気がした。













「あー、つっかれたあ!」

ひっくり返るようにその場に座り込んだクロノは天を仰ぐ。
評議院の制服が汚れようが皺になろうがお構いなしのその姿からは、先ほどの戦いで見せた強さは欠片も感じられない。
まあ見た目がどうであれ、ジョーカーは気絶しているし勝ったのは間違いないのだが。

「もうダメだ、オレこのままじゃ限界。しばらく寝る」
「ちょっ…ここで寝るの!?」
「……」
「もう寝てるし!」

ぽてっと横になったかと思えば3秒と立たずに爆睡しているクロノに、レビィがツッコみを入れる。
確かにここまできて休みを入れずに戦ったのだから疲れているのも当然とは言えるが、こんな突然に爆睡するほどではない気がしなくもない。

「おーい!お前等ー!」
「そこで寝てるバカは…クロノか」
「スバル!ヒルダ!」

と、そこにスバルと、彼に肩を貸すヒルダが戻ってきた。
裾やら袖やらがボロボロになったスバルとは対照的に、ヒルダはほぼ無傷といっても間違ってはいない。
そんなスバルの脇腹と左足の怪我に気づいたのだろう。ウェンディが慌てたように駆け寄る。

「スバルさん、その怪我……!わ…私、急いで治癒魔法を……」
「ん?あ、これか。少しミスっちまってさあ」
「アレのどこが少しだバカ。私が来なければ死んでいたクセに」
「ぐっ…何で解んねーかなー女に助けられたっての男のプライドが許さねえってのにさあ」
「?……私はお前の事を男として見た事は1度もない」
「な、何ぃっ!?」

ウェンディの治癒魔法によって左足の怪我を治してもらっているスバルがボソボソと呟くと、不思議そうな表情のヒルダがポツリと呟いた。
“男として見た事は1度もない”という言葉がよほどショックだったのか、スバルは思わず大声で叫び、ヒルダは迷惑そうにジロリと睨む。

「…うるさい」
「わ、悪ィ。けどさ、男として見た事ねえってのは……」
「……?当たり前だろう?」
「当たり前なのかよ…」

何言ってんだコイツ、と言いたげにこちらを見つめるヒルダから目線を逸らし、スバルは溜息をつく。
何かもう泣きたくなってきた…とか何とか考えていると、ヒルダがもごもごと呟いた。

「お前の事は……“スヴァル・ベルテイン”としか見た事がない」
「……っ」

目を逸らし髪で顔を隠しながら呟くヒルダに、スバルは言葉を失う。
現在16歳の彼女は、最近女性らしくなったと思う。同チームのサルディアに比べると男勝りな面もあるが、こうやって時々心臓に悪い事を言うのだ。

(コイツは…これで無意識だったらタチ悪ィにも程があるだろ!ちっとはこっちが男だって事をしっかりはっきり認識してくれませんかねえ、ったくよォ……)

はぁ、と溜息をつくスバル。
その発言が無意識ではなく、相手がちゃんとスバルを男だと認識している事には全く気付いていないのだった。










「どーだハッピー!勝ったぞ!」
「あい、流石だね!」

一方、太陽の殲滅者(ヒート・ブレイカー)の異名を持つシオ・クリーパーを倒したナツは振り返ってハッピーに目を向けた。
てくてくと歩み寄るハッピーを、ナツはじとりと睨むように見つめる。

「お前…さっきティアがどうとか言っただろ」
「言ってないよ?」
「いーやっ!絶対言った!オレの耳は誤魔化されねーぞ!」
「ティアと聞き間違えてる時点で誤魔化されてるよね」

ビシッ!と指を突き付けて叫ぶナツに、やれやれとハッピーは首を横に振る。
と、そこに足音が近づいてきた。

「ナツさん!ハッピーも!」
「アラン」

駆け寄ってきたアランは呼吸を整えると、額の汗を手の甲で拭った。
確かアランはナツ達が入った塔の3つ隣の塔に入っていったはず。そこから走ってきたのならかなりの体力を消費している。
が、アランは呼吸を整えただけで十分だったらしく、ナツの手をぐいっと引っ張った。

「おわっ」
「来てください、下にエルザさんとヴィーテルシアさんもいます。他の皆さんはいないんですけど…ナツさんの鼻なら出口も解るんじゃないかと思って」

それだけ早口で説明すると、アランはナツの手を引っ張ったまま駆け出した。








「……ミラ」

息を切らしこちらを見つめるミラを、アルカは驚いたように見つめていた。
それでも零れた声は震えていて、見開かれた目は縋るような光を宿して、いつだって傍にいたミラは今のアルカの状態にすぐに気づく。
今の彼は壊れそうだ。少し、あと少し精神的な痛みを受けてしまえば脆く崩れてしまう。

「何で、ここに」
「私だって戦える…私も、ギルドの為になりたいの」

まだ接収(テイクオーバー)を取り戻したばかりだから、と。
皆がフルールに向かう際に、エルフマンに言われた言葉を思い出す。
やっと魔法が使えるようになって、ようやく自分の力不足に泣く事だって無くなったのに、久しぶり過ぎて上手く扱えるか心配だから、と。
確かにその通りだった。いくら魔法を取り戻したとはいえ2年のブランクがある。こんな戦いでは、かつてS級魔導士として活躍していたミラも足を引っ張ってしまうかもしれない。
その辺りを考えてエルフマンはそう言ったのだろうが、ミラは納得出来なかった。

「アルカ、下がってて。私があの人を倒す」
「だけど」
「大丈夫。私なら、大丈夫だから」

――――聞いてしまった。
――――聞こえて、しまった。
先ほどのアルカの悲痛な叫び。“こんな再会なら会えない方がマシだ”と我を忘れ叫ぶアルカの姿を、見てしまった。
いつもの、どことなく掴めないような笑みを浮かべるアルカはいなかった。
今まで抱え込んだ全てを感情に任せて吐き出すアルカが、そこにはいた。

「…大丈夫」

だから、ミラが代わる。
たとえ力不足でも、足を引っ張ってしまう可能性があったとしても。
あんなに辛そうに叫ぶアルカの辛さを少しでも和らげられるのなら、ミラは出せる限りの限界までを発揮する。

「ミラ」

よろよろと後ろに下がったアルカに呼ばれ、ミラは振り返る。
アルカは何かを言いかけたように口を僅かに開いたが、すぐに躊躇うように閉じ、「何でもない」と呟いた。
それを不思議に思いながらもミラはエストに向き直り、一瞬にして悪魔へと変身する。
銀髪を逆立て両腕を異形へと変えた悪魔ミラは、睨むようにエストを見る。

「…ミラ嬢、だったかな。君はアルカンジュの…恋人、なんだろう?」
「そうよ」
「……そうか」

ハッキリとした答えに、エストは目を伏せた。
その仕草はミラが見慣れたアルカのものと全く同じで、血の繋がりを強調しているかのようだった。

「!」

―――――とミラが思ったのとほぼ同時に、エストが杖を向ける。
展開した魔法陣から勢いよく炎が噴き出し、ミラはそれを飛ぶように回避した。咄嗟に後ろにいるアルカの身の危険に気づき振り返るが、それはいらない心配だった事にすぐに気づく。
アルカは炎の魔導士だ。大火(レオ)を使えば全ての炎を制御する事が出来る。薙ぎ払うように振るわれた右腕から何かが放たれたように、炎が消え失せた。

「オレは問題ない!…悪ィけど、任せる」
「任せて」

漸く聞こえた“任せる”に微笑みながらミラは答える。
アルカも力なくではあるが微笑み、こくっと頷いた。
それを視界に入れると、ミラは両手をエストに向ける。

「イビルエクスプロージョン!」
「水流」

両手から放たれた紫色のビームのような一撃を、エストは杖の先から放つ水で相殺する。
消えた水の奥、先ほどと変わらず立つエストの目を見たミラは一瞬行動を止めてしまった。
悲しそうで、寂しそうで、深い愁いを帯びていて―――――それを望んでいる目。そしてその目はミラを見ていない。見ているのは、その後ろに立つアルカ。
つまり彼は、アルカと戦う事を望んでいる。先ほど、あんなに謝罪の言葉を並べたにも拘らず。

「っソウルイクスティンクター!」
「くっ……落雷!」

紫の光の砲撃のような一撃を放つ。
足元に直撃したその一撃にエストは表情を歪めると、くるりと杖を回してミラに向けた。
それを舞うような軽い動きで避けると、ミラはアルカの前に着地する。

「アルカ、あの人の使う魔法は何?」
「……夢を描く者(ドリーム・ペインター)。頭の中で想像したものを魔力で構築して放つ魔法。大体万能だが、この世にあるもの全部を“描ける”訳じゃねえ。さっきから炎や水みたいな属性そのものしか使ってないから、扱えるのはそのくらい……だと思う」

曖昧で悪ィ、と片目を閉じて両手を合わせたアルカに、十分だと言うように頷く。
キッと前を見据えると、エストはピクッと肩を震わせる。何故震えるのかは解らないが、その一瞬だけだったので大した事ではないのだろう。

「……すまないね、ミラ嬢」
「?」

突然出てきたのは謝罪だった。
眉を顰めると、エストは杖を床に突き付ける。

「!」

それと同時に、ミラの足元に魔法陣が展開した。
そこから魔力の鎖が伸び、ミラの腕を絡め取る。両足にも鎖が巻き付き、動けなくなる。
僅かに開いたエストの口から囁くような声で何かが唱えられているのは解るが、何を言っているのか解らない。

「アルカンジュの恋人である君にこんな事はしたくないんだが…これも私達とティア嬢の為。許してほしい」
「ティアの為……!?」

どこが、と叫ぼうとした。
捕らえて、苦しめて、それのどこがティアの為になる?
ようやく気付いた。ティアが“この間の仕事の依頼主から”といっていたあの手紙。あれはシャロンからの“早く帰って来なさい”という手紙だったのだ。
いつもはハッキリと言うティアが珍しく言うのを躊躇っているようで妙だとは思ったが。

「違う!あなた達のやってる事はティアの為なんかじゃない!」
「……だとすれば、それは君達がやっている事もそうだろう」
「え…?」

その声に僅かな怒りが含まれているのに気がついて、ミラは戸惑う声を出す。
鏡に映したかのようにアルカにそっくりなその顔は、黒いつり気味の目に怒りを宿して静かに告げた。





「ティア嬢が孤独を望んでいる事を、君達は誰よりも知っているはずだ」





吐き捨てるかのような言葉には、怒りがあった。
更に、エストは告げる。

「それなのに、君達は“ティア嬢の為に”と交流を続けた」

魔力の鎖から、ビリビリと震えるような魔力を感じる。術者であるエストの怒りに反応しているのだ。
展開する魔法陣が禍々しく輝き、ミラは脱出を試みる。が、鎖はピクリともせず、ミラを拘束するという役割を忠実に果たしていた。
後ろから聞こえた小さい声に出来る限り顔を向けると、アルカも両腕を鎖に拘束されている。

「確かにそれは君達なりの優しさなのかもしれない、けれど」

そして、エストは最後に呟く。
鋭い目を迷う事無くミラに向けて。




「その優しさは、ティア嬢の事を何にも考えていないね」




その瞬間。
ミラの足元に展開した魔法陣から、目も眩むほどの光が溢れた。









「!」
「うわっ、何この魔力!?」

術式と現在も格闘中のルーシィ達は、上から感じた魔力に思わず顔を上げた。
すると、しばらく黙っていたパラゴーネが「リーダーか」と呟く。

「リーダー…って、エスト?」
「肯定する。この魔力はリーダーしかいない」
「凄い魔力だねー…」
「うむ。その魔力の数多は小倅のアルカンジュ様に継受されたのだろう。だから……」

そこから先を、敢えてパラゴーネは言わなかった。
何が続くのか、ルーシィ達は悟ったから。3人の表情が暗くなったのに、パラゴーネも気づいたから。
そこまで言って沈黙して、パラゴーネは術式に目を向ける。

(……謝罪する、師匠)

術式からグレイに目を移す。
彼女の視線に気づかないグレイは、暗い表情で俯いている。
パラゴーネは微笑んで、俯いて、紅蓮の瞳を伏せて、何かを決意するかのように拳を握りしめた。

(私は―――――もう、どうしようもないよ)








(だから、こんなどうしようもない私を許してくれ)










「あ…ああ……」

接収(テイクオーバー)が解けた。
ドサッと倒れ込むと、エストが冷たく見下ろしているのが見える。その目には先ほどまでの愁いはなく、ただただ怒りが凍りついたようにこちらを見ていた。

「ミラ!」

鎖が消えたのか、倒れるミラにアルカが転びそうになりながら駆け寄り、その体を抱える。
心配そうなアルカの表情と鮮やかな赤い髪が目に飛び込んできて、こんな状況ながらミラは少し安心した。

「大丈夫……だから…」
「バカ!何が大丈夫だよ!どこをどう見たって大丈夫じゃねーだろうが!オレの目はそんなバカじゃねえよ!」

その黒いつり気味の目が潤んでいるように見えて、その顔が今にも泣きだしそうにくしゃりと歪んでいるように見えて。
思わずミラが呟くと、喚くようにアルカは叫んだ。
ポタリ、と額に落ちたのはアルカの涙だろうか。

「こっからはオレがやる。何があってもオレが……!」

ミラを離しエストへと向き直ろうとしたアルカの腕を咄嗟に掴む。
ぐい、と腕を引かれた事で動きを止めこちらを見るアルカに、ミラは紡ぐ。

「ダメだよ、アルカ……あの人は、アルカのお父さんなんだから」
「違う!あんなの…あんなの父親だなんて認めねえ!」
「そうだとしても、あの人はアルカと戦うのを望んでないよ。アルカだって、こんな再会望んでないんでしょ?」

その言葉に、ハッとしたようにエストを見る。
エストはびくっと肩を震わせて、真っ直ぐにこちらを見ていた目を下に逸らした。まただ、と苛つく。あの男はどうやったって、アルカと目を合わせようとしない。

「だから、私がやる。私だって、アルカに守られてるだけじゃ嫌だよ。私だってアルカを守れる。……たまには、頼って。守らせてよ」

ありったけの力を込め、立ち上がる。
ここで倒れたらアルカが辛い思いをする、と自分に必死に言い聞かせる。それでも痛みも何も変わらないけれど、ミラの中で決意が更に固くなった。
そしてそのまま接収(テイクオーバー)を使おうとして――――――

「ミラ」

名前を、呼ばれた。
真横から聞こえた声に顔を向けると、ぐいっと腕を引かれ、ぽすりとアルカの腕の中に納まる。
炎の魔導士だからか、常人よりも温かい体温が滲むようにミラの体に染み込んでいく。

「降参」
「え?」
「だから、降参だって言ったんだよ。……そうだよな、ミラだって守られてるだけじゃ終われねえよな」
「うん」
「でも、認めたくねえがアイツは強い。“魔人”でも勝てるかどうか解らねえ」
「……うん」

それは解ってる。
先ほどの一撃をもう1度使われたら、今度こそミラは立ち上がれない。何が起こったのか今でも解らないあの一撃は強力で、今のミラでは耐える事も出来ない。

「だからな」

そんなミラの心境を悟ったのか、アルカは抱きしめたまま口を開く。
共闘しよう、と言われるのかな、と考えるミラは、そう言われた場合の答えを頭の中で作り出す。




―――――――まさかこんな事を言われるなんて。
どうやったって、この時のミラには考えつかなかった。










「オレを、接収(テイクオーバー)するんだ、ミラ」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
次回、遂に最終決戦が終わる!多分!
そしてパラゴーネの決意に、そんでもってやっとあのザ☆悪党の親玉なシャロンも登場で、って事はあの人が黙って待ってる訳がない!
やっとここまで来た!待ってろよ7年後!←7年後にやりたい事満載

感想・批評、お待ちしてます。 
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