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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  新たなステージへ

世界に降り立った瞬間、微かな既視感を覚えた。

この光景を、自分は見たことのある。いや、実際に歩き、感じていたような、そんな感覚。

いままでにも、感じた事のあるもの。

「…………?」

首を傾げる間にも、すくった手から水が零れ落ちていくかのように、その感覚も薄れていった。ますます首の角度を増すが、理由が分かるはずもない。まぁ、本当に重大な事なら忘れる事もないのだろう。

ALOとは違う、憂鬱な黄昏時のような薄く赤みを帯びた黄色が一面に広がっている天空を感慨深げに、そして興味深げに仰ぐ。

GGOの舞台となっている荒涼たる大地は、最終戦争後の地球という設定らしい。黙示録的雰囲気を出すための演出なのかもしれない。

視線を真正面に戻し、改めて眼前に広がるGGO世界の中央都市《SBCグロッケン》の威容に眼を向ける。

さすがにSF系VRMMOの雄だけあり、その佇まいは、アルヴヘイムの世界樹上に新設された首都《イグドラシル・シティ》や、かつてのアインクラッド各層主街区のファンタジックな街並みとは大きく異なっていた。

メタリックな質感を持つ高層建築群が天を衝くように黒々とそびえ、それらを空中回廊が網の目のように繋いでいる。ビルの合間をネオンカラーのホログラム広告がにぎやかに流れ、地上に近づくにつれてそれらの数は増しており、まるで色と音の洪水のような様相を醸し出している。

最後に足元を見ると、どうやら自分が立っているのは土や石ではなく、金属のプレートで舗装された道の上であった。

背後には、どうやら初期キャラクター出現位置に設定してあるらしいドーム上の建物があり、目の前にはメインストリートらしき広い通りが伸びている。道の左右には、これ以上詰め込むことができないほどにぎっしりと怪しげな商店が並び、どこか秋葉原の裏通りに似た情景だ。

そして、通りを行き交うプレイヤー達も、商店らに負けず劣らず一癖も二癖もありそうな雰囲気を持った連中ばかりだった。

まず気付くのは、圧倒的に男が多い。

比較的女性比率が高いALOをホームとしているせいか、あるいはあの世界の住人は華奢な妖精ばかりだからであろうか、迷彩柄のミリタリージャケットやら真っ黒いボディアーマーやらをまとったゴツい男達が大量に闊歩している光景は、圧迫感とともに実にムサい熱感を与えてくる。

その上どいつもこいつも目つきが剣呑で、話しかけづらいというか、ケンカを買いたくなるというか、首をすっ飛ばしたくなるというか。

ある種の緊張感が際限なく漂ってくる理由は他にもある。

大抵のプレイヤーが、肩や腰に黒光りする無骨な武器――――銃をぶら下げているのだ。

装飾的な一面を持つ剣や槍と違い、銃にはたった一つのコンセプトしかない。

すなわち、対象生物をどれだけ確実に絶命させられるか。

ウサギであれキツネであれクマであれ、人間であれ。

殺す事を前提として開発、研磨され、そのためだけにデザインされた形状であり色彩なのだ。

なるほど、と。

得心して頷く。

このゲーム世界に存在するのは《戦い、殺し、奪い合う》という先鋭化された目的だけだ。ALOが掲げているような《幻想世界での生活を楽しむ》といった要素はほぼ完全に削ぎ落とされている。

ゆえに。

おそらく華麗だったり可愛かったりする容姿は、むしろマイナス要素なのだろう。戦場で敵を怯えさせるための、獰猛な兵士としての外見がすでに重要なパラメータなのである。男性プレイヤー達の多くが濃い無精ヒゲを伸ばし、あるいは顔に目立つ傷痕を刻んでいるのはそれが理由だと推測される。

ということは、自分のアバターは一体どんな外見を与えられたのだろう、と。

今更のようにそう考え、自らの手のひらを眼前に持ってくる――――その寸前。

「えぇと、すいません」

真後ろからハスキーなソプラノが響く。

振り向いた網膜が捉えたのは、少し小柄な少女の仮想体(アバター)だ。

自分の後に続いて新規登録を済ましたようで、初期キャラ出現ドームの奥の暗がりから姿を現していた。

身体は、いかにも初心者(ニュービー)に与えられるような簡素で無骨な薄紫色のミリタリー・ファティーグに覆われ、それを隠すかのように腰ほどまである艶やかな黒髪が垂れていた。長い前髪の奥には、濡れているように光る大きなアメジストのような瞳があり、それらを困っていますという風にハの字型になってしまっている眉が締めていた。

彼女は緩やかに湾曲している己の胸当たりに手のひらを持ってくる。

「このくらいの男の子見なかった?たぶん君の前に新規登録したはずなんだけど………」

はぁ、と。

胸の手のひらをそのままおとがいに当て、辺りを見回す少女。

はっきり言おう。

「そんなに僕の背小さくないんだけどね、ユウキねーちゃん」

ジトッと半眼で少女を見ると、彼女の瞳がキュッと見開かれた。

「……え?…まさか、レンッ!?」

「まさかじゃなくても僕だよ!」

レンは腰に手を当て、ズビシッと黒髪ロング少女――――ユウキの鼻先に人差し指を突きつける。

「大体ね、言わなくても気付くでしょ!ねーちゃんの直前にログインしたヒトで、僕の背丈知ってるんなら普通に分かるでしょ!」

「え、えぇ~っと………」

困り顔の眉の角度を、更なる急勾配にして、ユウキは後ろ髪を掻く。

「と、とりあえず、ここじゃ邪魔になるからあっち行こ」

さすがはSF系MMOゲームの有名どころ。

二人がドームの入り口で話している間にも、背後の空間にはちらほらと眩い光が発現し、その中からいかついアバターが現れてくる。

ユウキのアバターは手を引き、入り口をどく。やはり邪魔になっていたようで、荒々しい舌打ちとともに男達が通過していく。

そして、レンは繋がれた己の手を初めて視界中に入れ――――



嫌な予感がした。



指と指が絡まる繋ぎ方になぜかなっている手は驚くほど白く、指は少し力を込めただけで折れてしまいそうなほど華奢だ。先ほどから違和感があるのは、どうやら視点がALOや現実のそれよりも低い位置にあるためらしい。つまり、背丈もそれほど高くはない。

このGGO――――ガンゲイル・オンラインにダイブするにあたって、ユウキもレンも初期キャラクターを位置から生成した訳ではもちろんない。そんなことをしていては、プロばかり蔓延るこの世界の中でパラメータがとても足りたものではない。二人とも、《心意》という奥の手があるにはあるが、それは死銃本人と相対するまで、いや相対する時以外は控えていきたいところだ。

VRMMO開発支援パッケージ《ザ・シード》を利用して生成された――――より詳細に言えば《カーディナル》システム上で稼動するゲーム世界には、共通するメタ・ルールが一つだけ存在する。

すなわち、《キャラクター・コンバート機能》である。

ザ・シードを使う限り、この機能は決してオフにすることはできない。

その機能を使えば、あるゲームで育てたキャラクター・データを、その能力を保持したまま他の会社が運営するゲームに移動させる事が可能となる。

携帯端末のSIMカードを差し替えれば、どこのキャリアの端末であろうと自由に使用できるのとよく似ている、と言えるだろうか。

たとえば、Aというゲームで育てた、筋力100、素早さ80というステータスのキャラクターを、ゲームBに移動させたとする。すると、ゲームAでの強さの度合いを《相対的に保持した》変換が行われ、ゲームBにおいて、STR四十、AGI三十といったキャラクターが誕生する事になる。手っ取り早く言えば、ALO内で《中の上》程度の強さを持った《肉弾戦士型》のキャラクターは、GGO内でも《中の上》戦士として転生するという訳だ。

無論これは、キャラクターのコピーを増やすという機能ではない。コンバートした瞬間、元の世界のキャラクターデータは完全消滅し、さらに移動できるのはキャラクター本体だけでアイテム類は一切持ち出せないため、便利ではあるがなかなかに度胸のいる行為なのだ。

今回、ALOで使用している《ケットシー・レン》、並びに《インプ・ユウキ》のキャラクターをGGOに移動させるに当たって、二人は手持ちのアイテムのほとんどを、《央都アルン》に開店したばかりのイヨの《兎轉舎(とてんしゃ)》の倉庫に放り込んできた。しかし、そのように信頼できる知人がいない場合は、財産を全て失う覚悟が要求されるわけだ。

さて、そのコンバート機能によって、二人はこの世界でもALOでのレン、ユウキ程度の強さを得ているわけだが、ここでの問題は《外見もアイテムの一種としてカウントされる》ということだ。

つまり、このGGOでログインする際、アバターの外見は完全なランダムとなることである。レンを引っ張っていくユウキの姿だって、ALOよりも少しだけ背丈が縮み、オニキスみたいに一房一束が輝く髪も無駄に伸びている。

ユウキはドームの入り口からどき、その外周に沿ってしばらく歩いていたが、ある一点でぴたりと立ち止まり、今更ながら自分がしていた手の繋ぎ方を見て、熱いヤカンに素手で触ったかのように手を引っ込めた。

「え、えっと、レン。ひとまず落ち着こ、ね?」

それはこっちのセリフだ。

「だから、何のこと?」

本当はこの時、自分の本能は気づいていたのかもしれない。気付いていて、気付かないフリをした。

レンの問いに、眼前の少女は言葉ではなく動作で答えた。

ゆっくりと、人差し指を己の横に指す。

その先を追うように視線を動かしたレンは――――

絶句した。



オンナノコがいた。



もう一度言おう。オンナノコがいた。

背丈は明らかにALO、いや現実のそれよりも低く、その上細い。艶やかな光を放つのは、肩の辺りまで伸びる綺麗な黒髪。顔は手を同じく透き通るような白。唇は可愛らしいぷっくりとした桜色。

瞳の色は何と碧眼であり、サファイアのような綺麗な光が、やたらと大きな瞳の中で輝いていた。長い睫毛に縁取られたその眼が、無垢で無邪気で無色透明な視線を投げかけてきて、直視していられなくなる。

レンが目線を泳がすと、その少女も視線を動かす。

おや?と試しに右手を上げてみると、その少女もこちらを見ながら右手を上げる。

そこに来てやっと、レンは眼前にそびえるのが初期キャラクター出現ドーム外壁を飾るミラーガラスであると理解した。

つまり――――

「……………………………………………………………………………………………………ユウキねーちゃん」

「なぁに?」

やたら優しい声で答える従姉に向き直って、少女のような少年は告げる。

「なぁにぃこれぇ?」 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「何で普段王道嫌いとか原作をブチ壊すとかほざいてるのに、こーゆートコだけは乗っかっていくんだろう」
なべさん「失敬な。私は王道があったら明後日の方向に突っ走っていくタイプなのは否定しないが」
レン「否定しないのか」
なべさん「自分の好みの王道はやってみたいと思うのは普通だろう?」
レン「………………つまり、ただ単純にTSをしたかっただけだと?」
なべさん「もちろんだ」
~三分後~
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
なべさん「さ、作者はもうちっと大切にぶごぎゅ」
――To be continued―― 
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