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少年少女の戦極時代Ⅱ

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禁断の果実編
  第112話 兄弟の結末



 戦極凌馬を先頭に、咲と紘汰は通路を進んでいた。

 階段を降りていた時に、不意に凌馬が足を止めた。なかったはずのエレベーターがある、と言って。
 秘密通路を造った彼も知らないエレベーター。咲たちは乗り込んで上を目指した。


 出たホールには、無数の無人ベッドと、いかにも精密機械という感じの装置があった。
 二つだけ使われているベッドがあった。そのベッドに横たわっているのは、――光実と貴虎。

「光実!? 貴虎!?」
「光実くん、お兄さん!」

 ベッドに駆け寄った。

 マスクのような物で口と鼻を覆われて眠る仲間の姿。泣きそうになる。それでも咲はその、戦場においては致命的な弱さを振り払い、貴虎のほうのマスクを外そうと試みた。だが、外れない。紘汰がやっても同じだった。

「なるほど。彼らはこの機械の部品にされてるってワケ。でも見た限り、二人じゃこれの駆動には限度があると思うんだけど――ああ、ドライバーの性能で生命力を底上げしてるのか」
「あんたなら助けられんだろ! 貴虎は友達じゃねえのかよ!?」

 凌馬は大袈裟に肩を竦めた。

「そこにいる彼女に聞いてみちゃどうだい」

 紘汰ともども顔を上げ、慄然とした。いつからいたのか、レデュエがほとんど至近距離にいた。

『シンムグルンすら倒すとは。ますます手に負えない強さになってきたね、オマエ』
「よくもミッチと貴虎をこんな目に……!!」
「ヒトの仲間、部品あつかいして。絶対、ゆるしてなんかあげない!」

 咲はドラゴンフルーツの、紘汰はカチドキの錠前と極の鍵を取り出した。

「「変身!!」」


                       ***


 戒斗、ザックと共闘し、防御機構を突破した湊もまた、咲や紘汰と同じホールに辿り着いた。

 ベッドは多く並べられているのに無人――ではなかった。二つだけ、人一人ずつが横たわって、蔓を伝って何かを吸い上げられていた。

「光実君! 呉島主任!?」

 湊は光実のベッドに駆け寄った。光実の体を揺さぶるが、光実は意識を取り戻さない。力なく揺さぶられているだけだ。

 すると、振動で、光実のスーツのポケットから、何重にも畳んだルーズリーフが落ちた。

 湊は拾い、読み上げる。――タワーに連れて来られた人質は、呉島家所有の車と船で沢芽から逃がしたこと。このために自分がレデュエに付いたこと。最後に、舞とヘキサをヘルヘイムの王に預けたことを書いてあった。

(だからこんなにベッドがあるのに、光実君と主任の二人しかいなかったのね。それにしても外国へなんて。どこまで先を読んでるのよ、この子)

 戒斗が装置に渾身の蹴りを入れた。そうすれば、精密機械の塊だ、装置はあっさりと煙を上げて機能停止した。

「光実君、光実君!」

 湊はすぐさま光実のマスクを外した。貴虎のほうはザックがマスクを外していた。

「ここは任せた。俺は葛葉を追う」
「気をつけろよ」
「誰に言ってる」

 戒斗は不敵な笑みを残し、ホールを出て行った。

「あんたはどうする」
「私?」
「急いで連れ出しても、街の病院は機能してない。どうしてもミッチと貴虎さんを何とかしたいんなら、沢芽市を出て市外の病院に行かねえと」

 ザックは湊に、ここで戦線離脱するかを問うているのだ。

(光実君に思う所がないと言えば嘘になる。彼を撃ってしまった日からずっと、抜けないトゲのようなものがある。マスクしてたのに、まるで撃ったあの時、この子は私に笑いかけたように見えた)

 光実を改めて見下ろす。
 こけた頬。目の下のクマ。ガサガサの唇。骨張った両手。スーツに隠れた体も痩せこけてしまっているだろう。

「――手伝って。私じゃ光実君はともかく、主任を外へ運べないわ。駐車場にさえ行ければ、私の車があるから」
「それが答えか。了解、湊さん」

 湊は光実の腕を自身の両肩に回させ、光実をおぶった。そして、貴虎を背負ったザックと共に、ホールを出て、タワー下層階を目指した。


 この兄弟にかける余情はこれで最後だと、己に言い聞かせながら。 
 

 
後書き
 何だかんだで光実も貴虎も心配なのが我が家の湊さんなのでした。
 一度は貴虎の部下だった的な発言がありましたし、最初に光実の保護者兼監視をしたのは彼女ですし。あの3人の中で最も呉島兄弟にハラハラさせられたのは湊さんだと作者がオイシイのでこういう結末になりました。

 それでも、これが最後だと自分に言い聞かせ、彼女は彼女の道を行くでしょう。その先は皆様もご存じの通りです。 
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