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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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番外編
番外編5:ある執務官の恋愛事情
  第4話


なのはの入院している病室を離れた後、フェイトとはやてはゲオルグに対して
聖王のゆりかごをめぐる戦いのあと、この日に至るまでの間に起きたことや
調査の結果判ったことを話して聞かせた。
そしてゲオルグを病室へと送り、2人は帰路につきかけた。

「しかし、いくらなんでもわんわん泣き過ぎやろ、ゲオルグくん」

「でも、ずっと亡くなったと思ってたお姉さんが生きてたんだって判ったんだし
 仕方ないんじゃないかな。 あれで心やさしい人だからね、ゲオルグは」

そんな会話を交わしながら日が落ちて暗くなり始めた廊下を並んで歩いていると、
ふとフェイトは足を止めた。

「どないしたん、フェイトちゃん?」

はやてはフェイトの方を振り返って声をかけた。
彼女の目に映ったフェイトは窓の外の景色をぼんやりと見ていた。
はやてがしばらく待っていると、フェイトははやての方に向き直り
ゆっくりと口を開いた。

「はやて。 私、ちょっとなのはと話したいことがあるんだ。
 だから先に帰っててくれないかな?」

「ええけど、話って何?」

はやてがそう尋ねると、フェイトはにっこり笑って首を横に振った。

「内緒だよ。 ちょっとプライベートな話だから」

はやてはフェイトの答えを聞くと数秒間フェイトの顔をじっと見た。
そして、ふいに笑顔を浮かべたかと思うとフェイトに向かって大きく頷いた。

「ほんなら、私は先にアースラに帰るわ」

はやてはそう言うと、フェイトに背を向けて廊下を足早に歩いていった。
フェイトはその背中を見送ると、くるりと向きを変えてなのはの病室へと向かった。

フェイトがなのはの病室の扉をノックすると、中からなのはの声で"どうぞ"と
返事があり、フェイトは扉を開けて入った。
なのははベッドの上から入り口に立つフェイトの方を見ていた。
その手の中には先ほどまで読んでいたであろう本があった。

「あれ、フェイトちゃん? 返ったんだと思ったけど、どうしたの?」

「うん。ちょっとなのはに訊きたいことがあって。 座っていい?」

首を傾げて尋ねるなのはに対して、フェイトはベッドに歩み寄りながら声を掛ける。
そして、ベッドの脇に置かれた椅子に腰を下ろした。

それからしばらく、病室の中は静寂に包まれていた。

「で、フェイトちゃん。 お話って何なの?」

やがて、沈黙に耐えきれなくなったなのはが尋ねると、
フェイトは何度か深呼吸してからなのはの目を真っ直ぐに見て話し始めた

「あのね。 なのはがゲオルグを好きになったのはいつなんだろうって思って。
 その話が聞きたいなって思ったんだ」

「ふぇえええっ!?」

フェイトが本題を切りだすと、なのはは目を見開き、頬を赤く染めて
驚きの声をあげた。

「ダメ、かな?」

真剣な表情で、真剣な口調で尋ねるフェイトを見て、なのはは一度咳払いすると
気持ちを落ち着けるように何度か息を吸ったり吐いたりしてから
フェイトを真っ直ぐに見つめた。

「正直言ってね、好きになったきっかけってはっきりしたものはないんだよね。
 ずっとお友達だと思ってたんだけど、いつのまにか好きになってたって感じ。
 まあ、ゲオルグくんのことを男の子として意識するようになったきっかけは
 あったんだけど」
 
なのはは恥ずかしげに頬を掻きながらそう言うと、一旦フェイトから目線を外し
窓の外に広がる夕暮れに染まった町並みに目を向けた。

「それって?」

その先を促すフェイトの言葉を受けて、なのはは微笑を浮かべ
フェイトの方に再び向き直る。

「ずっと前にね、わたしとゲオルグくんがテロ事件に巻き込まれたことが
 あったよね? あのときかなぁ、ゲオルグくんを男の子として意識し始めたのは」

「ああ、あの爆弾事件?」

フェイトは自らの記憶の中から該当する出来事を探し出して挙げる。
なのははそれに対して頷いた。

「そう、それ。 あのときね、爆弾が仕掛けられてたビルの向かいにあった
 レストランで食事してたんだよ。
 でね、私が窓側に座ってたんだけど、向かい側に座ってたゲオルグくんが
 爆発した瞬間に気がついて、わたしを爆発から守ってくれたの。
 そのときね、ゲオルグくんに抱きしめられて床に転がってたんだけど
 "あ、やっぱり男の子なんだ"って実感したんだよね」

「そんなことがあったんだ・・・」

自分には知らされていなかったエピソードに、フェイトは驚きの表情を浮かべる。

「うん、フェイトちゃんには話したことなかったけどね。
 で、そのあとも何度もゲオルグくんとは会ったけど、そのたびにドキドキしたり、
 わたしのことなんかそっちのけでフェイトちゃんとお話してるのを見て
 イライラしたりしてね。
 いつの間にか自分がこの人のことを好きになってたんだって、ね」

そう言ってなのはは照れくさそうに笑った。
そんななのはをフェイトはうらやましそうに目を細めてみていた。

「でも、あの頃のゲオルグくんってわたしのことを全然
 女の子扱いしてくれなかったから、"なんでこんな人のことを?"って
 思ったこともあったけどね」

「確かに、つい最近までゲオルグって結構なのはの扱いが悪かったよね」

そんなことを言い合い、フェイトとなのははお互いに向かって苦笑する。

「うん。 でも、だからかな? フェイトちゃんに背中を押してもらって
 ゲオルグくんとお付き合いすることになって、今はすごく幸せなの」

「そっか・・・」

慈愛に満ちた表情でフェイトはなのはに笑いかけた。

「ありがとね、フェイトちゃん」

そしてなのははゲオルグに気持ちを伝えるきっかけをくれたフェイトに
感謝の言葉を伝えた。
しばらくその余韻に浸るかのような沈黙が続いたが、ふいになのはが
その沈黙を破った。

「ところで、なんでこんなことを聞きたかったの?」

今度はフェイトがなのはの問いに答える番だった。
フェイトは照れくさげに笑うと、ゆっくりと話し始めた。

「えっとね。 最近ある人と話すとすごく胸が苦しくなったり、
 その人が他の女のひとと話してると腹が立ったりしてね、なんでかな?
 って思ってたんだ。 で、なのはに相談したかったんだよ」

「そっかぁ・・・」

なのはは納得顔で頷きながら呟くようにそう言うと、一度目を閉じた。
しばらくしてその目が再び開かれたとき、なのはの顔には笑みが浮かんでいた。

「フェイトちゃんはその人のことが好きなんだね」

なのはの言葉にフェイトは恥ずかしげに頬を染めて小さく頷いた。

「うん・・・好き。 今、はっきり判ったよ」

一方、なのははニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべていた。

「で? そのフェイトちゃんが大好きな人って、誰なの?」

「ええっ!?」

なのはの問いに対してフェイトは裏返った声をあげ、顔を真っ赤にして俯いた。
そして何事かをもごもごと呟いたのち、ゆっくりと顔を上げて口を開きかけた。

「っていうか、シンクレアくんでしょ? フェイトちゃんが好きなの」

「えええええっ!!? なんで判ったのっ!?」

だが、何かを言いかけたフェイトの言葉を遮るようになのはは言う。
ずばりと自分の思い人を言い当てられ、フェイトは更に大きな声を上げた。

「うーん、なんとなくかな。 あのアジトの中であったことは聞いてたし、
 わたし自身のことと重ね合わせて考えると、そうなのかなって。
 確信はなかったけどね」

苦笑しながらフェイトの疑問に答えたなのはの言葉を聞き、
フェイトは照れくさそうに俯いていた。
そんな彼女に向けて、なのはは更に声を掛ける。

「フェイトちゃん。 シンクレアくんには気持ちを伝えるの?」

なのはの問いにフェイトは顔を上げ、そしてゆっくりと頷いた。

「うん。 シンクレアが受け入れてくれるかは判らないけど、
 このあとアースラに戻ったら伝えるつもりだよ」

「そっか・・・」

少し恥ずかしそうに、だが晴れやかな顔で答えたフェイトに
なのはは優しく微笑んだ。

「うまくいくといいね」

「うん。 ありがとう、なのは」

それから2人は、10分ほどとりとめのない会話をしてから別れた。





なのはの病室を辞去したフェイトはタクシーを呼んでアースラへと向かった。
とっぷりと日も暮れたころ、フェイトを乗せたタクシーは制限区域へ入るための
ゲートの前で止まった。
料金を支払ってタクシーを降りると、フェイトはゲートを守る局員に自分のIDを
呈示し、ゲートを通りぬけた。

"車を呼びましょうか?"というその局員の提案に首を振って、フェイトは
アースラへの道のりを歩きだした。

港湾地区を吹き抜ける風が彼女の長い金髪を揺らし、その頬を撫でる。

(たまにはこういうのもいいよね)

普段は車であっという間に走りぬけてしまうところを夜風に吹かれながら歩く。
多忙な彼女からすれば非効率極まりないことではあったが、今はその非効率さえも
心地よく感じていた。

(それに、気持ちの整理もしたかったしね・・・)

行く先にその巨体をさらすアースラに目を向け、フェイトは嘆息する。
その中で恐らくは仕事に勤しんでいるであろう、想い人たる同僚を思って。

(好きです・・・かな? でも、お友達として好きって誤解されるかも・・・)

想いを伝えるのにどんな言葉を用いるべきか?
それが今の彼女にとっての最重要課題であった。

そうこうしているうちに彼女はアースラの前までたどり着いていた。
スロープを上り、メインハッチを潜ると艦内の通路を歩いて自室へ向かう。
慣れた道のりである。
だが、一大決心をもって歩く彼女の心は緊張に高鳴っていた。

そして彼女の足は自室の前で止まる。

(緊張する・・・。自分の部屋なのに・・・)

肩を上下させてなんどか深呼吸すると、扉を開けて部屋の中へと足を踏み入れた。

「あ、おかえりなさい」

正面にあるのはフェイト自身の机であり、当然そこには誰も座っていない。
彼女を出迎える声はその脇にある少し小さめの机に向かって座る男から発せられた。

シンクレア・クロス1等陸尉、彼女の思い人から。

「う、うん。ただいま」

彼女は高鳴る心を押さえこみつつ、普段通りの受け答えを心がけようとする。
が、それは成功しているとは言えなかった。
フェイトはバッグを置いて自分の席に座る。

「遅かったですね。 何かあったんですか?」

「うん。 ちょっと、ね」

(はぁ・・・、どうしよう。 ドキドキしちゃうよ・・・)

フェイトはメールを確認しようと端末を開くが、その内容は一向に
頭の中に入って来なかった。

そんな彼女の様子を見ていたシンクレアは、おもむろに席を立つと
部屋の扉に向かって歩いていった。
そして扉をロックすると、席に座ってぼんやりと画面を眺めている
フェイトに向き直った

「フェイトさん。 お話ししたいことがあるんですが、いいですか?」

フェイトは画面から顔を上げ、真剣な表情をして自分に向かって語りかけてくる
シンクレアの顔を見て小さく肩を震わせた。

(なんだろう、シンクレアの話って? ひょっとして・・・)

フェイトの胸は淡い期待に膨らむ。

(いや・・・)

だが、すぐにその考えを否定し小さくかぶりを振った。

(あんな真剣な表情で話しかけてくるってことは、仕事の話だよね)

フェイトはそう結論付けると、頭を仕事モードに切り替えて頷いた。

「うん、どうしたの? 何か新しいことでも判った?」

フェイトが努めて冷静な口調で尋ねる。
すると、シンクレアは虚を突かれたように目を見開いた。
そして一瞬の静寂のあと、声を上げて笑い始めた。

(はい!? なんで笑ってるの!?)

シンクレアが突然笑い出した理由が判らず、フェイトは混乱する。

「えーっと、シンクレア?」

フェイトが声を掛けるとシンクレアは少し待てとばかりに手のひらを
フェイトの方に向け、なおも声を上げて笑い続ける。

やがて、一向に笑うのをやめようとしないシンクレアに、フェイトは自分が
バカにされているような感じを覚え、ムスッとした表情でシンクレアを見た。

シンクレアもそれに気づき、ようやく笑いを収めようとする。

「あはは・・・、すいません。 あなたをバカにしたつもりはないんですよ。
 ただ、ちょっと可笑しくて・・・」

そう言って、何度か深呼吸するとシンクレアの笑いはようやく収まった。
なおも不機嫌そうな表情をするフェイトを真っ直ぐに見つめ、シンクレアは
微笑を浮かべた。

「本当にすみません。 仕事の話をするつもりはなかったんで、つい」

シンクレアはそう言うと、フェイトの方にゆっくりと近づいていく。
そして、フェイトまで手が届くくらいの距離まで近づくと、その歩みを止めた。

「怒った顔もかわいらしいですね、フェイトさんは」

「はい?」

フェイトはシンクレアが言った言葉の意味がとっさには理解できず、
きょとんとしてめを何度も瞬かせていた。
やがてシンクレアの言葉の意味が脳に浸透してくると、フェイトの顔は
だんだんと赤く染まっていった。

「ちょっ・・・もう、何言ってるの? そんな冗談なんて・・・」

フェイトは小さな声でそう言うのだが、シンクレアはそれに対して首を横に振った。

「冗談なんかじゃありませんよ。 素敵ですよ、フェイトさんの怒ってる顔」

シンクレアはそう言ってフェイトに笑いかける。
対してフェイトはシンクレアのセリフに恥ずかしそうに俯いた。

「ところで、フェイトさん。 俺の話なんですけど、聞いてもらえます?」

直前までの柔らかい調子からうって変わって、シンクレアの口調に真剣さを感じ
フェイトは顔を上げた。
彼女の視線の先にはじっとフェイトの方を見つめるシンクレアの顔があった。

フェイトと目があうとシンクレアは一瞬目を伏せ、再びフェイトの目を見つめると
ゆっくりと口を開いた。

「フェイトさん。 あなたが好きです。 お付き合いしてください」

フェイトはシンクレアの言葉を聞き、数回まばたきをすると
急にクスクスと笑いだした。

フェイトの行動が理解できないシンクレアが茫然と見守る中、
フェイトはひとしきり肩を震わせて笑ったあと、突然笑うのをやめて
椅子から立ち上がった。

彼女は真っ直ぐにシンクレアの顔を見つめる。

「フェイトさん?」

シンクレアはフェイトに声をかけた。
その声は少し掠れていて、両手は固く握りしめられていた。

「・・・ふふっ」

フェイトはシンクレアの顔を見つめたまま小さく笑った。

次の瞬間、フェイトは自分のデスクを飛び越えるとシンクレアに抱きついた。

「のわっ!!」

急に飛びついてきたフェイトの行動に驚き、シンクレアは大きな声を上げた。
そしてフェイトの身体を抱きとめようとするが、勢いがつきすぎていて
シンクレアには支えきれなかった。

ドサッという音のあと、フェイトがシンクレアの上にのしかかるように倒れていた。

「いててて・・・、大丈夫ですか? って、いきなり何するんですか!?」

「ごめんね、シンクレア。 なんだか、我慢できなくって!」

したたかに打ちつけた背中の痛みに顔をしかめたシンクレアが
フェイトにそう尋ねると、フェイトは興奮した様子で話す。

「我慢ってなにを・・・っ!?」

フェイトが何を言っているのか理解できなかったシンクレアが
意味を尋ねようとするがその問いはフェイトの唇によって遮られた。

10秒ほどの口づけのあと、フェイトはゆっくりと顔を離して
改めてシンクレアの顔をじっくりと見つめていた。

「もう、私が何を言いたいか判ったよね?」

潤んだ瞳で彼女が見つめる先にいる男は、照れくさそうに頭を掻いた。

「まあ。 でも、はっきり言葉にして聞かせてくれませんか?」

「ふふっ。 いいよ」

フェイトはニコッと笑ってシンクレアの頬に手を当てた。

「私もシンクレアのこと、好き」

フェイトはそう言うと、目を閉じてもう一度シンクレアに口づけた。





その後、シンクレアとフェイトは部屋の片隅に置かれたソファに並んで座っていた。

「ホントにごめんね。 シンクレアが好きだって言ってくれてうれしくて、
 なんだか気が付いたら抱きついちゃってて・・・。
 痛くない? 大丈夫?」

「もう大丈夫ですから、あんまり気にしないでください。 フェイトさん」

フェイトが心配顔でシンクレアの肩のあたりをさすりながら声を掛けると、
シンクレアは苦笑しながらそれに応じていた。

「むぅ・・・」

フェイトはシンクレアの言葉に不満げな表情を見せ、それに気付いたシンクレアは
不思議そうに首を傾げた。

「どうかしましたか? 俺、何か怒らせるようなことしましたか、フェイトさん?」

シンクレアが不安げな口調で尋ねると、フェイトはシンクレアの顔を見上げ
その鼻先を指差した。

「それ」

「それ、って・・・鼻ですか?」

フェイトの意図をはかりかね、シンクレアは再び首を傾げる。
するとフェイトは黙ったまま首を横に振り、シンクレアの肩に自分の頭を預けた。

「違うよ。 あのね、私とシンクレアはもう恋人どうしなんだよね?」

「ええ、まあ。 そのつもりですけど」

フェイトのストレートな言葉に、シンクレアは照れながら応じる。

「じゃあ、私のことはフェイトって呼んでほしいな」

そう言ってフェイトは、シンクレアの顔を上目づかいに見上げた。

「なんだそんなことか・・・・・」

シンクレアは苦笑して呟くようにそう言うと、フェイトの肩を抱き寄せて
その耳に自分の口を寄せた。

「フェイト」

「うん」

そして、自らが抱き寄せている女性の名を囁いた。
それに対してフェイトは幸せいっぱいの笑顔で小さく頷いた。

そんなフェイトの顔を見つめ、シンクレアも笑顔を浮かべていたが
しばらくすると、ふと何かを思い出したように小さく声を上げた。

「どうしたの?」

シンクレアの腕に抱かれたまま首を傾げて尋ねるフェイト。

「ちょっと、フェイトにお願いしないといけないことがあったのを思い出してさ」

「お願いって、なにかな?」

フェイトが尋ねると、シンクレアは恥ずかしげに頬を掻きながら話し始めた。

「あのさ、フェイトの真ソニックフォームってあるだろ?
 あれさ、今後使用禁止で」

「ええっ!? あれ、私の切り札の一つなんだけど・・・。
 理由を聞いてもいいかな?」

フェイトはシンクレアの言ったお願いごとが予想外で驚きの声をあげた。
そして、お願いごとの内容が内容だけにその理由を尋ねようとする。
すると、シンクレアはしばしの間言いづらそうに頭を掻いていた。
しかし、やがて意を決するとおずおずと話しはじめた。

「スカリエッティのアジトの中でさ、あのカッコをしてるフェイトを
 後から見てたんだけどさ、あれね、お尻丸見えなんだよ・・・」

シンクレアの言葉が頭の中に浸透するのに多少時間がかかったのか、
フェイトはしばらくきょとんとした顔で目を瞬かせていた。
やがて、シンクレアの言葉の意味を完全に理解すると、
フェイトの顔は瞬間的に真っ赤になった。

「もうっ! そんな目で見てたの!?」

フェイトは真っ赤な顔でシンクレアの胸をポカポカと殴り始めた。

「いてててて・・・、ごめん。 ごめんって!!」

魔導師として日ごろから鍛えているフェイトの殴打は本気ではなくても
結構な威力があるのか、シンクレアは結構本気で痛がっていた。
やがてフェイトはその手を止めると、恨めしそうにシンクレアの顔を見上げた。

「シンクレアのスケベ」

「・・・すいません」

フェイトの非難に対してシンクレアは項垂れていた。
しばし気まずい沈黙が続いたあと、フェイトが口を開いた。

「どうして、シンクレアは私に真ソニックを使ってほしくないの?」

「だって、フェイトのあんな姿を他の男に見せたくないから・・・・・」

「そっか・・・」

自らの問いに対して真剣な表情を浮かべて答えるシンクレアを見て、
フェイトは小さく呟いて下を向いた。
しばらくして顔をあげたフェイトは嬉しそうな笑みをシンクレアに向けた。

「ありがとう。 でも、心配しなくても私はシンクレアのものだよ。
 シンクレアが望む限り、ずっとね」

「わかったよ、フェイト。 我儘言ってごめん。さっきのお願いは取り消すよ」

そしてシンクレアはフェイトを抱き寄せ、
フェイトはシンクレアの胸に顔をうずめた。

しばらくして、フェイトはシンクレアから身を離す。
そして、シンクレアの目をじっと見て言った。

「さ、仕事にもどろっか。 まだまだやることはいっぱいあるしね」

そんな恋人の言葉に苦笑し、シンクレアは頷く。

「了解、フェイト」

そして2人は立ち上がり、それぞれ自分のデスクについて仕事を再開したのだった。

 
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