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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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番外編
番外編5:ある執務官の恋愛事情
  第3話

 
前書き
今回は本編80話の別視点のお話。 

 

それから1週間。
フェイトの執務室には端末に向かって難しい顔をしているフェイトと
シンクレアがいた。
どちらの手も休みなくキーボードを叩いている。


スカリエッティのアジトからフェイトとシンクレアの2人がそろって出たところで、
アースラからすべての戦闘が終了しスカリエッティの計画を阻止することに
成功したとの連絡が入り、2人はスカリエッティ以下3名の連行と
生体ポッドの搬出といったアジトの後始末をすることになった。

とはいっても、生体ポッドの搬出自体ははやてが別の部隊に依頼したので
その部隊が到着し、引き継ぎを完了させるまでが2人の仕事だったのだが。

そして、引き継ぎを完了させて2人がアースラに戻ったところで
出迎えたはやてから、フェイトとシャーリーそしてシンクレアの3人で
6課が集めたスカリエッティ一味の捜査資料の整理を担当することを
伝えられ、次の日からシンクレアはフェイトの執務室で仕事をすることになった。


かくしてこの1週間、2人はこの部屋に缶詰となって黙々と資料整理に
精を出していた。

ふと、シンクレアが手を止めてグッと背を伸ばしながら首をグイッと曲げる。

「くーっ、肩こるなぁ」

シンクレアが思わずあげた声に反応して、フェイトは手を止めて苦笑する。

「ホントにね。 ここ1週間ずっとこんな感じだもんね」

そう言ったフェイトも両手を組んで上にのばし、その身を椅子の背もたれに預ける。

「ちょっと休憩しませんか? コーヒー、淹れてきますよ」

「そうだね。 お願い」

フェイトの言葉に頷きシンクレアは立ち上がると部屋から出ようと
扉に向かって歩き出す。

そのときシンクレアの目の前で扉が開き、部屋の中へ勢いよく飛び込んできた
女性とぶつかりそうになり、シンクレアはとっさにその肩を抱きとめた。

「シャーリー? 大丈夫かい?」

シンクレアの胸に顔をうずめていたシャーリーは緩慢な動きでシンクレアから
距離をとるとずれてしまった眼鏡を直してから頷く。

「大丈夫です。 ありがとうございます、シンクレアさん」

「それは結構。 それじゃあ俺は・・・」

笑みを浮かべたシンクレアはそこまで言いかけて言葉を止めると
一瞬何かを考えるように視線を宙にさまよわせ、次いでシャーリーに
再び目を向けた。

「シャーリーもコーヒー飲むかい? 淹れてくるけど」

「え? あ、いただきます」

「了解。 じゃあ、少し待っててね」

そう言ってシンクレアは扉をくぐって通路へと出た。
扉が閉まり通路と部屋が再び隔絶されると、シャーリーはフェイトの机に
近寄っていき、その上に書類の束をドサッと置いた。

「頼まれてた資料一式です。 遅くなってすいません・・・って、
 なんでそんな怖い顔してるんですか、フェイトさん?」

半歩後ずさりながらそう言ったシャーリーの言葉が意外だったのか、
フェイトは目を丸くして首を傾げた。

「えっ? 私、そんな顔してないよ」

「いやいや、してましたよ。 というか、すごい顔で私の方を睨んでましたけど。
 私、何か気に障るようなことしました?」

「そんなつもりはないんだけど・・・」

フェイトはそう言って俯くと、黙り込み考え込んでしまう。

「あのー、何をそんなに考え込んでるんですか?」

恐る恐るといった様子でシャーリーが尋ねると、フェイトは顔をあげた。

「うん・・・私がシャーリーが睨んでたっていうのが事実だとして、
 なんでそんな事をしたのかなって・・・」

「はあ・・・」

真面目な顔で答えるフェイトの言葉に何と返したものかシャーリーが迷っていると
その背後で扉が開く音がした。
と同時にフェイトの表情が満面の笑みへと一瞬で変化していた。

「おかえり、シンクレア」

そして明るい口調でシンクレアを出迎えるセリフを口にする。

「はい、ただいま戻りました。 どうぞ、フェイトさん」

シンクレアも笑みを浮かべて応じると、フェイトのデスクの上に
コーヒーの入ったカップを置いた。

「ありがとね」

感謝の言葉を放つフェイトの顔には相変わらず満面の笑みが浮かんでいて、
弾むような口調でシンクレアに対して感謝を口に出す。

「いえいえ。 そういえば、砂糖は2つでよかったですよね?」

「うん」

1週間にわたって共に仕事をしてきただけあって、シンクレアはフェイトの
コーヒーの好みをしっかりと把握していた。
そしてそのことが嬉しいフェイトは、シンクレアに向かって笑いかける。

そんな一連のやり取りを傍から見ていたシャーリーは微笑ましげに2人を見ていた。

「ホント、お2人は仲がいいですね。 まるで夫婦みたいです」

シャーリー自身は何の気なしに発した言葉であったが、受け取った側が見せた反応は
シャーリーが想像していたものとは違っていた。

シンクレアは、シャーリーの言葉に少し照れたのか頬を染めつつも
"それは光栄だけど、フェイトさんに申し訳ないよ"と苦笑して語ったのだが
これはシャーリーの予想していた反応だった。

一方、フェイトの反応である。
彼女はシャーリーの言葉を聞いた瞬間、両の目を大きく見開いてシャーリーの顔を
じっと見つめると、何度か目を瞬かせたあと急に顔を真っ赤に染めて俯いた。

「あの・・・フェイトさん?」

フェイトの様子を訝しんだシャーリーが恐る恐る声を掛けると、
数秒の間をおいてフェイトは顔をあげた。

「うん・・・それもいいね」

小さくそれだけ言うと、フェイトは椅子を回転させて背後にある窓に目を向けた。
直後、フェイトの前に通信ウィンドウが開く。
そこに映し出されたのは部隊長たるはやての顔だった。

『あ、フェイトちゃん。 これからなのはちゃんとゲオルグくんの
 お見舞いに行くんやけど、一緒にきてくれへん?』

はやては明るい口調で言うのだが、それを受け取るべきフェイトの方は
変わらず窓の外をぼんやりと見ていた。

『あー、フェイトちゃん? 聞こえてますかー!?』

はやてが声のボリュームをあげて手を振りながら再度呼びかけると、
フェイトは我に返って顔をあげた。

「えっ!? は、はやて!? な、何かな?」

慌てた様子でどもりながら応じるフェイトをはやては画面の向こうから
あきれ顔で見ていた。

『なのはちゃんたちのお見舞いに行くから、一緒に行くか聞いてんねんけど』

「あ・・・う、うん。 私も行くよ」

『ほんなら、今からメインハッチを出たとこで集合な』

「うん、了解」

通信が切れるとフェイトは立ち上がってシンクレアとシャーリーの方に向き直った。

「これからちょっと出てくるから、あとはお願いするね」

「はい、了解です」

フェイトの言葉に2人が言葉を揃えて頷くと、フェイトは微笑を浮かべて
軽く頷き返し手から部屋を出ていった。
扉が閉まり、フェイトの後ろ姿が見えなくなったところで、
シャーリーは一度大きく息を吐いてからシンクレアに目を向けた。

「シンクレアさん、あの・・・」

シャーリーがシンクレアに声を掛けると、シンクレアはその言葉を首を横に
振ることで遮り、自分のデスクに軽く腰かけた。

「フェイトさんが俺のことを好きなんじゃないかって言いたいんだろ?
 そんなことはさっきのフェイトさんの態度を見てれば判るし、
 ちょっと前からそうなんじゃないかって気もしてたから、今さらだよ」

そう言ってシンクレアは手に持ったカップを傾けてコーヒーを啜る。
そんなシンクレアにシャーリーは鋭い視線を送る。

「だったら、何でフェイトさんの気持ちに応えてあげないんですか?
 私が思うに、シンクレアさんもフェイトさんのこと・・・」

「出過ぎたことを言うんじゃないよ。 
 そもそもこの件は俺とフェイトさんの間の話であって、
 君が口を挟むべき問題じゃないだろ」

「・・・すいません」

シンクレアが鋭い口調でたしなめると、シャーリーはシュンと肩を落とした。
その姿を見て、さすがに強く言いすぎたかと反省したシンクレアは
表情を緩めてシャーリーに話しかける。

「ちょっときつく言いすぎたよ、すまない」

「・・・いえ、私の方こそ立ちいるべきではありませんでした。
 ですが、ひとつだけ言わせてもらっていいですか?」

シャーリーは自分があまりにもプライベートな領域に踏み込み過ぎたことを謝罪し、
次いで真剣な顔でシンクレアの方を見た。

「どうぞ」

「どんな結論を出すにしろ、フェイトさんにははっきりと伝えてあげてください」

「わかった」

シンクレアはシャーリーの言葉に真剣な表情を浮かべて頷くと、
手に持ったカップの中身を飲みほした。
そして微笑を浮かべてシャーリーに語りかける。

「それじゃあ、仕事に戻ろうか。 俺の頼んだ資料は?」

「あ、はい。 まだなんで、資料室に戻ります」

そう言ってシャーリーはシンクレアに向かって笑いかけた。





一方、自室を出たフェイトはアースラのメインハッチを出たところで
はやてを待っていた。

(なんで、あんなにボーっとしちゃったんだろ・・・)

自室での出来事について物思いに耽る彼女の肩を叩くものがあった。
フェイトが振り返ると、そこにははやてが立っていた。

「お待たせや。 ほんなら、いこっか」

「うん」

微笑むはやての言葉に頷くと、フェイトははやてと並んでスロープを下っていった。
スロープの下には車が待っていて、2人が後部座席に乗り込むと
車は静かに走り出した。

「なあ、フェイトちゃん」

車が動き出してしばらくすると、はやてはフェイトに声をかけた。

「うん? 何かな、はやて?」

窓の外を流れる景色をぼんやりと見ていたフェイトは、はやての方に向き直った。
その彼女の目に映ったはやての顔には、彼女を心配する表情が浮かんでいた。

「あのな、さっき通信で話した時のことなんやけど・・・。
 なんであんなにぼんやりしとったん? 何か悩みがあるん?」

「ん? うん、私自信もよくわかんないんだけど・・・」

はやてからの問いかけに対してフェイトは即答できなかった。
彼女が黙り込んでいると、はやてはフェイトに重ねて質問をぶつけてくる。

「ほんなら、私が通信入れた時に何があったん?」

「うん、あのね・・・」

そして、フェイトは自室であった出来事をはやてに話して聞かせた。
すると、はやては途中からニヤニヤと笑いだし、フェイトの話が終わるころには
腹を抱えて笑っていた。

「なんでそんなに笑ってるの、はやて?」

フェイトはそんなはやての態度に対して不満げな声をあげた。
これに対してはやては笑いを収め、フェイトに謝罪の言葉を口にしてから
微笑を浮かべてフェイトに話しかける。

「なあ、フェイトちゃん。 フェイトちゃんはシンクレアくんのことを
 どう思っとんの?」

はやてに問われ、フェイトはきょとんとした顔ではやてを見た。

「どうって・・・頼りになる同僚で友達、かな」

「ふぅん・・・ホンマにそんだけ?」

フェイトの答えに対して、はやてはニヤリと笑って問い返す。
するとフェイトは怪訝な表情ではやてを見た。

「それだけって・・・どういうこと?」

フェイトに訊き返されたはやては少し考えるそぶりを見せた後、
真剣な表情をつくってフェイトに話しかけた。

「うーん、実はな。 私、シンクレアくんと恋人同士やねん」

真剣な口調で放たれたはやての言葉は、大きな反応をフェイトから引き出した。
彼女はぽかんと口をあけ、目を丸くしてはやての顔をじっと見つめていた。
そして、一瞬悲しげな目をすると次の瞬間には微笑を浮かべてはやてに話しかけた。

「そ、そっか。 おめでと、はやて。 あの・・・お幸せにね」

フェイトは微笑を貼り付けたままそこまで言い切ると、目線を落として
自分のつま先に目をやった。
そんなフェイトの様子を見て、はやては小さく嘆息した。

「嘘や」

はやてが短く言った言葉が耳に届き、フェイトは勢いよく顔をあげて
はやてのほうに目を向けた。

「えっ・・・うそって? はやてがシンクレアとお付き合いしてるってのが?」

訳が判らないという顔をして尋ねるフェイトに対し、はやては黙って頷いた。
するとフェイトはホッとしたような表情を一瞬浮かべてから、
目を吊り上げてはやてを睨む。

「もう、なんでそんなウソつくの?」

詰め寄るフェイトとは対照的に、はやては小さく何度か首を横に振り
次いでフェイトの方に真剣な表情を向ける。

「なあ、フェイトちゃん。 今、自分がどんな表情してたか判るか?」

低く押し殺したような声ではやてが尋ねると、フェイトはきょとんとした顔で
ふるふると首を横に振った。
それに対してはやては大きくため息をつくと、呆れたような表情を浮かべた。

「まあ、それはバルディッシュが記録してるやろうから、
 後で見せてもろうたらええわ。
 それより、ウブなんもええ加減にしとかんと損するんはフェイトちゃんやで」

はやては一息でそこまで言い切ると、足元に置いていたバッグに手を伸ばす。

「ちょっ、はやて!? それってどういう意味?」

慌ててはやてに尋ねるフェイトであったが、はやては意に介することなく
ちょうど停車した車のドアを開けた。

「それは自分で考えんとあかんよ。 それに、もう着いたで」

はやての言葉に反応してフェイトが顔をあげると、そこには目的地である
病院の建物が立っていた。





車を降りた2人はなのはの病室へと向かった。
フェイトは前を歩くはやての背中を追いかけつつ、バルディッシュが記録していた
車の中での自分の表情を映した画像を見て絶句していた。

(これが・・・私の表情?)

はやてにシンクレアと恋人同士だと伝えられ落ち込む顔。
それが嘘だと判って安堵する顔。
どちらも彼女が意図して浮かべた表情ではなかっただけに、
フェイトはこれが自分の表情だとは思えなかった。

そうしているうちに、2人はなのはの病室の前にたどり着いた。
はやてが扉をノックするが返事はなく、2人は顔を見合わせた。

「寝てんのやろか?」

「そうかも。 静かに入ろ」

フェイトははやてと頷き合うと扉に手を掛けてゆっくりと扉を開けた。
部屋の中にぽつんと置かれたベッドには2人の人影が見えた。
横になっているなのはにゲオルグが覆いかぶさるようにしていた。

「続き、してもいい?」

「・・・ちょっと、怖いかも」

ゲオルグがなのはの胸に手を当てながら尋ねると、
なのははゆるゆると首を横に振った。

見舞いに来て早々にそんな光景を見せられ、はやてのこめかみがヒクヒクと動く。

「病室で何やってんねんな・・・。なあ、フェイトちゃん」

若干の怒りがこもった口調でそう言うと、はやては隣に立つフェイトの顔を見た。
そのフェイトは乳繰り合うなのはとゲオルグの様子をじっと見ていた。

「フェイトちゃん?」

フェイトからの返事がないことを訝しんだはやてがもう一度声を掛けると、
フェイトは我に返ってはやての方に顔を向けた。

「あ、うん。ゴメン、ぼーっとしてた」

頬を真っ赤に染めたフェイトは、それだけ言うと再びなのは達の方に視線を戻した。
視線の先では、なのはとゲオルグがキスを交わそうとしていた。

その様子を見ていたはやては大きなため息をついてから、
病室の中へ一歩踏み出した。

「あー、ごほん。病院でそういうことするんはちょっと
 控えてくれませんかねぇ、ご両人」

はやての声が病室の中に大きく響き、なのはとゲオルグは慌てて距離を取ると
はやて達の方に勢いよく顔を向けた。

「どどどどのへんから見てたの?はやてちゃん!?」

「”続き・・・してもいい?”らへんからやね」

派手にどもりながら尋ねるなのはに対して、はやては冷静に答えを返す。

「うぅ・・・恥ずかしい・・・」

結構長い間自分たちのラブシーンを見られていたことを知り、なのはは
顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。

「2人とも入院患者やねんから、そういうことはちょっと控えなさい。
 特にゲオルグくん!病室で何迫ってんねん!」

「あー、いや。あまりになのはが魅力的なもので・・・つい☆」

怒りの表情を浮かべてゲオルグに詰め寄るはやてであったが、
ゲオルグは悪びれもせずに舌を出して見せる。

「あーん!? 何が ”つい☆”やねん。フェイトちゃんも何か言うたってーや!」

ゲオルグの人を食ったような態度に苛立ちを隠せず、はやては語調も荒く
隣に立つフェイトに同意を求めた。

「いいなぁ・・・なのは」

だがフェイトから発せられたのは、はやてが期待したのとは全く違う言葉だった。
赤い頬にぼんやりと前方を見る目。
それらは熱に浮かされているような印象をフェイトに与えていた。

「私だって・・・」

そこまで言いかけたとき、フェイトは周囲からの視線に気がついて我に返った。

「けっ、どいつもこいつも色づきよって!」

やさぐれた口調ではやてが言う。

「フェイトちゃん!わたしは応援するよ!頑張って!」

グッと両手を握りしめ、目をキラキラと輝かせながらなのはが言う。

「で?いったい誰がフェイトのハートを射止めたんだ?」

ベッド脇の椅子に腰かけたゲオルグが言う。

3人の友人たちにはやし立てられ、フェイトは赤かった顔をさらに赤くする。

「わ、私のことは今はいいじゃない。それよりはやて!
 なのはに話があったんでしょ!」

フェイトはそんなセリフで話の矛先をそらす。

「おっと、そうやった・・・・・」

はやてがそう言って手を打ち、真面目な話題へと移っていくと、
フェイトは己の発言を振り返り始める。

(私だって・・・なに?)

俯きがちになって目を閉じるフェイト。
その瞼の裏に映ったのは一人の男。

(ああ、そうだったんだ・・・。 はやてが言いたかったのはこういうことかぁ)

顔をあげたフェイトの表情はどこかつきものが落ちて晴れやかにも見えた。

「フェイトちゃん、行くで」

フェイトが思考の海にどっぷりつかっている間に、はやての話は終わっていた。

「うん。 なのは、またね」

フェイトはにっこり笑って頷くと、親友に向かって手を振り部屋を出た。

 
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