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二者択一

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第五章


第五章

 凛はおずおずとしてだ。将暉に言ってきた。
「あの」
「うん、中に入ろう」
「はい」
 彼に寄り添うようにして彼の言葉に頷く。そうしてだった。
 甲子園の中に入るだった。その甲子園はだ。
「一塁側ですよね」
「阪神ファンだからね」
 だからだと答える彼だった。
「そこでいいよね」
「はい」
 こくりと頷く凛だった。
「御願いします」
「さて、試合を観ようか」
 こうして二人は一塁側に座った。そして野球を観るのだった。
 試合がはじまるとだ。凛が小さな声で言ってきた。
「今日の試合ですけれど」
「今日の試合?どっちが勝つか?」
「多分ですけれど」
 こう前置きしてからの言葉だった。
「阪神が勝ちます」
「それ、わかるんだ」
「選手の皆さんの動きがいいですから」
 だからだというのである。
「それで」
「選手の動きがね」
「特にですね」
 凛は小さな声だがそれでも言うのだった。
「城嶋選手と金本選手が」
「調子いいんだ」
「絶好調です」
 そこまでだとだ。彼女はグラウンドの彼等を見ながら話す。
「今日は」
「じゃあやっぱり今日は」
「はい、勝てます」
「ピッチャーがマエケンでも?」
 彼はここで相手のピッチャーの名前を出した。
「それでもなんだ」
「幾ら調子がよくてもそれでもです」 
 凛の言葉は強いものだった。
「今の阪神の選手達はあの人よりも調子がいいですから」8
「勝てるんだね」
「はい、そうです」
 こう言うのだった。そしてだ。
 二人は試合を観る。試合は凛の言葉通り阪神打線が爆発してだ。大差で勝利を収めた。
 それを観てだ。将暉は満足した声で言った。
「本当にそうなったね」
「はい、よかったですよね」
「うん、阪神が勝つとね」
 それでどうかというのである。
「それだけで日本は元気になるからね」
「元気にですか」
「だって阪神ファンが日本で一番多いじゃない」
 今ではそうなのだ。最早巨人ファンよりも多くなっているのである。
 それでだ。将暉はこう言ったのである。
 そしてだ。上機嫌で凛に話すのだった。
「機嫌がよくなったからね」
「はい、そうしてですか」
「試合が終わったらどうしようかな」
「何処か楽しい場所に行かれますか」
「そうしよう。それでね」
 まずはだ。ここだというのである。
「お腹空いたからマクドナルドにまず入って」
「そうしてですか」
「それから居酒屋なんてどうかな」
 酒というのだ。
「そこで阪神の勝利も祝ってね」
「そうですね。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「いいお店知ってます」
 凛からの言葉だ。
「飲まれるのでしたら」
「養老の滝?魚民とか?」
「いえ、チェーン店ではなくて」
 居酒屋もチェーン店が多くなっている。またそうした店の酒や料理も実に美味いのだ。実は将暉はそうした店に行こうと思っていたのだ。
 ところがだ。ここで凛が言うのである。
「バーですけれど」
「バーなんだ」
「そこでは駄目ですか?」
「っていうかバー知ってるんだ」
 将暉にとってはこのことが意外だった。この場合の知っているとは通っているという意味である。
「意外だね」
「意外ですか?」
「うん、かなり」
 実際にこう言う彼だった。
「それでも。バーだね」
「はい、どうされますか」
「そこ案内してくれるかな」
 こう言う将暉だった。
「よかったらね」
「はい、わかりました」
 こうしてだった。彼等はマクドナルドの後でそのバーに入る。わざと店の中を暗くして雰囲気を醸し出させているバーだ。そこに入ったのだ。
 入るとだ。すぐにだった。
 凛はおずおずとした態度で将暉に言ってきたのだった。
「先にカウンターに行っていて下さい」
「ああ、わかったよ」
 何故先に行くかはわかっていた。トイレだ。
 しかしそれはあえて言わずにだ。それで一人先にカウンターに座る。
 そうしてそこにいるとだ。そこに来たのは。

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