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二者択一

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第四章


第四章

 将暉は駅で凛と待ち合わせる。すると彼女はあの白い服とやけに大きな白い鞄を持ってやって来たのであった。
 彼はその鞄を見てまず言った。
「ええと、それは」
「鞄のことね」
「うん、それ何かな」
 こう彼女に問うのであった。少しきょとんとした顔で。
「その鞄は」
「あっ、これはね」
「それは?」
「後でわかるわ」
 にこりと笑って彼に言うのであった。
「後でね」
「後でねって」
「まあまずは野球よ、野球」
 凛は話を遮ってきた。
「行きましょう」
「うん、それじゃあ」
 こう話してだった。甲子園に向かう。そして一塁側に座るのだった。
 そうして応援する。まずはだ。
 二人はグラウンドを見てだ。それで言い合う。
「それでだけれどさ」
「どちらが勝つかね」
「うん、どっちかな」
 こう話す将暉だった。
「果たしてどっちが勝つかな」
「多分だけれどね」
 ここで凛が彼に話す。
「今日は阪神が勝つわね」
「相手がマエケンでも?」
「うん、それでもね」
 勝つというのである。
「何故かっていうとね」
「うん、どうしてなの?」
「ほら、今日のナインの動き」
 グラウンドにいるそのナインの動きをだ。見ての話だった。
「いいでしょ」
「そうかな。ちょっとわからないけれど」
「特に城嶋がね」
 キャッチャーである彼を見てだ。凛はまた将暉に話す。
「凄く動きがいいから」
「そういえば普段より元気かな」
「そうよ。だからね」
「阪神が勝つんだ」
「兄貴もいいし」
 凛は今度はレフトを見た。そこには金本がいる。彼も見て話すのだった。
「今日もね」
「兄貴なあ」
「肩はまだ万全じゃないけれど」
 それでもだというのだ。
「それでもね。やれるわ」
「そうだったらいいけれどね」
「まあ観ていたらわかるわ。阪神今日は打つわよ」
「是非そうして欲しいね」
 こんな話をして試合を観るのだった。するとだ。
 凛の話通りだった。阪神打線は序盤から打ちまくる。
 それでだ。気付けばだ。
「五回終わって十点入れたね」
「もう試合は決まったわね」
「そうだね。ピッチャーは今は不安だけれど」
 それでもだと。将暉も言う。
「それでもね。このままね」
「いけるわよね」
「いけるよ」
 その通りだと話す彼だった。
「何か言う通りになったけれど」
「凛でいいわよ」
「名前呼んでいいんだ」
「ええ、是非ね」
 こう言ってだった。そうしてである。
 試合を最後まで観る。結局そのまま阪神が勝った。本当に凛の予想通りだった。
 それで試合の後マクドナルドに入ってだ。そのことを話すのだった。
「いや、本当にさ」
「まさかと思ったでしょ」
「正直今日はまずいかもって思ったよ」
 実に素直に話す彼だった。チーズバーガーを食べながら。
「マエケンだから」
「マエケン怖いの?」
「いいピッチャーだからね。野球はやっぱりピッチャーじゃない」
「それはそうね」
「だからね。打てるかどうか心配だったけれど」
 それでもだというのである。
「打てたね」
「そうね。それでだけれど」
「うん。何?」
「この後どうするの?」
「この後ね」
「そう、どうするの?」
 また将暉に話す。
「これからね」
「そうだね。後は」
「後は?」
「飲みに行く?」
 こう提案する彼だった。
「居酒屋か何処かに」
「じゃあバーはどうかしら」
「バーね」
「そう、いいお店知ってるのよ」
 彼女から話してだった。そうしてだ。
 彼等はだ。その行く先を決めた。そのバーに行くとだ。
 あえて照明を暗くさせた大人の雰囲気を醸し出す店に入るとすぐだった。凛は将暉に対してこんなことを言ってきたのだった。
「あのね」
「うん、いいお店だね」
「そういうのじゃなくて」
 そうではないというのだ。
「ちょっとね。カウンターで待ってて」
「あっ、うん」
 トイレに行くというのだ。それは言葉の外にあり行間を読んでのやり取りだった。彼はカウンターに向かった。凛と一旦別れてだ。
 その時にだ。凛はくすりと笑って彼に囁いてきた。
「このお店黒を基調にしてるわね」
「うん」
「そう、黒だからね」
 こう囁いてだった。彼女は一旦姿を消したのだった。
 そしてであった。カウンターの彼の前に出て来たのは。

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