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ベッドの横に

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第三章


第三章

「こんな状況なのに」
「おかしい?それが」
「はい、かなり」
 その通りだと言葉を返す。
「どうしてなんですか、そんなに冷静なのは」
「だって騒いでも仕方ないじゃない」
 その落ち着いた笑みで返す弥栄子だった。
「だからよ」
「それはそうですけれど」
「とにかくよ。お腹空いてる?」
 弥栄子は朝食のことを尋ねてきた。
「パンならあるけれど」
「パンですか」
「二日酔いとかならジュースとか」
「二日酔いは別に」
 真吾は酒に強い。どれだけ飲もうが、それこそ記憶がなくなるまで飲もうがだ。次の日に残ることはない。酒豪と言ってもいい程であるのだ。
「ないですね」
「そう。それならね」
「朝御飯ですね」
「ちょっと待ってね。それじゃあ」
 弥栄子はここで自分の右手に手を出した。するとそこにはベージュのブラと部屋着があった。真吾はそれを見てまた悟った。
「昨日は本当に」
「だから。私は嘘は言わないわよ」
「何でこうなったんだろう」
「だからとにかくね。今はね」
「御飯ですね」
「ええ。着替えるから」
 その服を手に取ってだ。ベッドの中でもぞもぞしだした。着替えているのだ。
「それからね」
「わかりました。それじゃあ」
「南条君の服はそっちにあるから」
 見れば彼の服は彼の左手にあった。弥栄子がベッドの右に寝ていて真吾が左に寝ている。二人横に並んで寝ている姿勢だ。
 その姿勢の中でだ。二人で話しているのだ。
 そして弥栄子の言葉に応えて左手を見るとだ。確かに彼の服があった。   
 無造作に脱がれている。トランクスまである。
 それを見て内心自分に呆れてしまった。思うことは同じだった。
 そしてだ。考えているうちにだ。弥栄子は。
 着替え終えてだ。ベッドから出たのだった。
「トーストとベーコンエッグでいい?」
「あっ、お気遣いなく」
「何でもいいの?」
「そんな、先輩になんて」
「いいのよ。私の家だし」
 だからだというのだ。
「遠慮しなくていいから」
「そうなんですか」
「そうよ。それじゃあね」
 こう言ってベッドから完全に出る。上着はグレーのパーカーに青のジーンズだ。普段の彼女に相応しい服装だ。そして真吾も服を着てだ。そうしてリビングに出た。
 そのリビングも白い。清潔感に満ちている。その清潔なリビングのテーブルに向かい合ってだ。二人はベーコンエッグにとースト、それと野菜ジュースにオレンジといった朝食をだ。向かい合って食べるのだった。
 その場でだ。弥栄子が言うのだった。
「それでね」
「はい、それで」
「どうかな。美味しい?」
 こう真吾に問うてきたのである。
「私が作った朝御飯。どうかな」
「はい、とても」
 すぐにこう答える真吾だった。
「ベーコンエッグの焼き方いいですね」
「カリッと、けれど君は半熟でね」
 それだというのである。
「それでトーストもそうしてね」
「外はカリッと、それで中身は柔らかですね」
「そうよ。それが美味しいからね」
「成程。いつも先輩がですか」
「そうよ。自分で作ってるのよ」
 まさにその通りだというのである。
「だって。私一人暮らしだから」
「一人暮らしだともう適当に買って済ませません?」
「時々はそうだけれどね」
「けれど基本はなんですか」
「そうよ。自分で作ってるの」
 その料理をだというのだ。
「さもないと高いし」
「ですよね、やっぱり」
「それに自分で作った方が栄養とかカロリーとかコントロールできるし」
 この理由もあるのだった。
「だからなの」
「ううん、そこまで考えてなんですか」
「女は大変なのよ」
 ここでくすりと笑いながらもだ。目は真面目なものになる弥栄子だった。
 
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