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ベッドの横に

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第一章 


第一章 

                       ベッドの横に
 南条真吾は目を覚ました。すると。
 ベッドの横にだ。誰かがいた。
「んっ!?」
 その膨らみを見てだ。まずは目を顰めさせた。
「誰かいるのか?」
 次に上体を起こし周囲を見回した。そこは。
 自分の家ではなかった。白く奇麗な、そして落ち着いた趣の寝室である。カーテンも整いだ。それは明らかに女性の、しかも大人の部屋だった。
「ホテルでもないな」
 ラブホテルだ。それでもなかった。
「じゃあ何処なんだ、ここは」
 あらためて膨らみを見る。するとだ。
 その膨らみが動いてきた。そのうえで、だった。
「ううん・・・・・・」
 声が聞こえてきた。その膨らみからだ。
「おはよう、南条君」
「おはようって」
「昨日は有り難うね」
 そしてだ。膨らみから出て来たのはだ。
 黒髪を長く伸ばした切れ長の目の大人の女性だ。切れ長の目は二重で眉は細く横に長い。鼻は高く顔は細い。唇は小さい。
 その顔はだ。彼がよく知っている顔だった。
「あの、先輩?」
「そうよ。私よ」
 職場の先輩のだ。都村弥栄子だった。彼女だった。
「だから。昨日は有り難うね」
「有り難うって」
「一緒に飲んだじゃない」
「あっ、そういえば」
 言われて思い出した。
「昨日は課の皆で」
「飲んだわよね」
「はい、居酒屋で」
 駅前のチェーン店である。そこで皆で飲んだのである。
「飲んでましたね」
「それからよ」
「それから?」
「ほら、お店をはしごして」
「ええと」
 弥栄子の言葉を聞きながら思い出していく。するとだ。
 次第に思い出してきた。居酒屋の次は。
「焼き鳥でしたね」
「そこでも飲んだわよね」
「はい、ビールを結構」
 居酒屋では日本酒でそこではビールだったのだ。
「それと。三件目は」
「お好み焼きだったわね」
「そこじゃ焼酎でしたね」
「美味しかったわね」
「それからは?」
 真吾は考えていく。その痛む頭でだ。
「ええと、それからは」
「ここで飲んだのよ」
 弥栄子は楽しげに笑って言ってきた。
「私の部屋でね」
「じゃあここって」
「そう、私のマンション」 
 まさにそこだというのである。
「ここはそうなのよ」
「先輩のマンションって」
「そこで二人で飲んでね。ワインをね」
「今度はワインだったんですか」
「チーズで軽くね」
「覚えてませんけれど」
「あら、そうなの」
 弥栄子は余裕の笑みである。白いベッドの中から顔だけを出しながらだ。そのうえで真吾を見て楽しげに言ってきているのだった。
「そうだったの」
「ええと、それからは」
「今よ」
 今度はこう言う弥栄子だった。
「今に至るのよ」
「今って」
「だから今よ」
 弥栄子はまた告げた。
 
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