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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
  第三節 蠢動 第一話 (通算第51話)

 
前書き
無二の親友レドリック・ギースがメズーン・メックスに打ち明けた内容は驚くべきものだった。様々な思惑が交叉する中、スペースノイドとしての矜持がメズーン・メックスに決意させた。不安を押しのけるように前に進むしかない。メズーンは、新しい道を踏みしめる。

君は刻の涙を見る……。 

 
「うっ……」
 ジェリドは落下の衝撃で、強かに身体を打ち、短い間気を失っていた。鈍い痛みに起こされたが、自分が何処にいるのか思い出すまでに暫しの時間を要した。
 節々が痛むが大きな怪我はない。パイロットの本能が機体をチェックさせた。モニターに何も映っていないがコンソールは生きている。メインカメラがやられても複数あるサブの一つぐらいは生きていても良さそうなものだが反応はなかった。とりあえずシステムを再起動させると、セルフチェックが始まる。セルフチェックには数分掛かるが、身動きできない以上、他にすることはなかった。
 通信にノイズが入っているが、通信機は生きている。無線封鎖されているのは戦闘が継続しているのだろう。ジェネレータも問題ないし、機体に大きな破損箇所もない。だが、外の状況が解らぬ以上、無闇に機体を動かす訳にはいかなかった。
 徐々に意識がしっかりしてくると、いいように玩ばれた憤りが込み上げてくる。ジェリドは自分に落ち度があったとは考えなかった。
 機体が愛機であったなら。
 演習中でなく、実戦装備だったら。
 もっと訓練時間が十全だったら。
 戦場ではそんな言い訳が通用するはずもない。だが、ジェリドは自分を信じられなくなったら終わりだと考えていた。戦場になると判っていたら《ガンダム》の演習などしてはいない。サイド7は後方基地ではなかったか。その思い込みが隙を作ったことに気づかない。
「くそっ!あの赤いMSめ……《赤い彗星》きどりか!この次は必ず撃墜してやる!」
 負けん気の強さとしぶとさがジェリドをここまで育て上げたと言っていい。ハイスクールでも大学でも、常にエリートでありながら、負けを認めず勝つまでこだわり続ける執念がジェリドらしさだった。
「……リド中尉、ジェ…ド中尉、聞こ…ますか?」
 至近でノイズ混じりだが機付長のカッセ曹長の声がした。ミノフスキー粒子の影響がコロニー内に及んでいるとなれば、重大である。ライフラインに支障がでる可能性もあり、住民の避難を開始しなければならないが、〈グリーンノア〉には少なくとも500万人以上の人口がある。避難させるにしても近隣に民生用のコロニーはなかった。
 カッセはジェリドの墜落をみて駆けつけていた。最新鋭機である《マークⅡ》をこんなことで失う訳にはいかないからだ。ジェリドより歳は一回りほどカッセの方が上になるが、カッセはジェリドに対して丁寧な態度を崩さない。地球主義者であるからだ。一年戦争では、激戦のアジア戦線を生き抜いた生粋のアースノイドであり、ジオンに深い恨みがある。
「カッセ機付長か?モニターが死んで外の状況が分からん、出ても大丈夫か?」
「瓦礫…機体が埋まっ……るだけ……から、ハッ…を…けるに……障あり…せん。機体…動か……いでくだ…い!」
 途切れ途切れの通信はミノフスキー粒子の影響ではなさそうだ。どうやら通信機もイカれているらしい。ジェリドは即座にハッチを開き、外に出た。頭部を見回すとモニターが死んでいた理由が解った。メインカメラは瓦礫を被って破損し、機体の殆どが埋もれている。落下時の衝撃は庁舎がクッションになったものだった。庁舎の建設資材はミノフスキー粒子対策がなされている上に防諜対策もされている。当然、受信状況は悪化する。
 外装はかなり傷ついていた。《マークⅡ》の装甲は試作機のため、チタン複合材のままだったからかも知れない。連邦もティターンズもいまだルナ・チタニウム――通称ガンダリウム合金の量産技術を確立できてはいなかった。コクピットがショックアブソーバを装備したリニアフロートシートでなければ大怪我していただろう。
 ヘルメットを外し、右手に持つ。流星を意匠化した赤いパーソナルエンブレムが描かれたそれは、ジェリドにとって自分の存在の証である。常にエリートであること、そして自分の存在を誇示すること、それがジェリドのスタイルだった。
「こりゃ、始末書じゃ済まされんかな……」
 悪びれず、肩を竦めて無造作に降りた。
 そのままジープに乗って本部へと移動しようとする。MSも庁舎の撤去作業も、パイロットの仕事ではないからだ。カッセも疑問には思わない。が、通りかかったジープの搭乗者はそんなジェリドの態度に目に余るものを感じた。
「貴様!何をしているかっ!」
 ジェリドは最初、自分に向けられている言葉だとは思わなかった。現場では、自分よりも上の階級であれ、ティターンズに指揮権があり、顎でこきつかってきたからだ。が、声を荒げたのはブライト・ノアである。いくらティターンズは階級がひとつ上と同じ扱いであるとはいえ、相手が佐官では話が違う。
 ブライトは憤っていた。
 民間人を守るための軍隊が民間人を脅かす存在となっていることもだが、何より隣に軍事用コロニーを持ちながら民生用コロニーで試作機のテストを行う神経に、である。その挙げ句が所属不明機に付け入られ、機体を墜落させ庁舎を破壊するという失態である。そして、事実を隠蔽し、テロリストの仕業であるとでっち上げるのだ。
 加えて、この騒動で幾人かの命が失われているにも関わらず、軽口を叩いた。この事態を始末書程度で済まそうという神経が異常である。
「落ちる場所を考えろっ!味方に被害を出してどうするっ!第一、なんだって民間人の頭の上で訓練なんかやってるんだ!」
 ジェリドが大して反省しないのは、壊した庁舎がティターンズのエリアではなく、一般将校のエリアであったからだ。ジェリドは連邦軍を下部組織としてしか見ておらず、味方という認識がない。これはジェリドに限らず、ティターンズの多くが似たような意識である。が、故に由々しき問題なのであるが、当事者たちにはその認識はなかった。 
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