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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
  第二節 決意 第五話 (通算第50話)

 一年戦争終結直後の人口はジオン共和国三十億人弱、サイド6が十四億人弱、地球が二○億人強、月が一億人――総計六五億人である。開戦前に一二○億人――スペースノイドが九○億人、アースノイドが三○億人を数えた人類はその半数を失っていた。死者五五億人という未曾有の死者が築いた平和は不安定な仮初めのものでしかなかった。さらに、スペースノイドが手に入れたものはジオン共和国の独立と市に昇格したサイド自治政府が手にした僅かばかりの自治だけである。
 ジオン共和国から、戦前の移民や無国籍者の帰国が済んだことで、ジオン共和国の人口は十五億人強程度――独立前の水準に落ち着いた。十五億人規模の移動は数年に渡って行われ、他のサイドでは復興計画と共に多産が奨励されていた。地球からの移民もあり、再建されたサイド1、2、4、7で二○億人強が居住することになったのである。つまり、スペースノイドの半数以上はなんらかの形でジオンに関わりがあった者たちだった。親連邦派のサイド2でさえ、連邦の武力を前に頭を垂れているだけであり、連邦の在り方に諸手を挙げて賛同している訳ではない。
 終戦から七年、人口は再び増加し、地球人口が二十億人弱、スペースノイドが六○億人強となった。人口の増加は緩やかだが、都市型であるコロニーでの増加はほとんどないため、すべて地球で増えた人口が移民したものと考えると旧世紀と変わらぬほどの人口増加率であることが判る。
 だが、誰もそれを実感として認識できなかった。コロニーは次々に再生され人口密度が保たれているため、生活レベルにおいてそれを体感することはない。精々、宇宙港の旅客便リストに新しい地名が増えることで知ることができるくらいで、気にしなければ、気づかない範疇のことである。為政者は地球から宇宙を見上げ、数字だけで知るだけという有り様なのだ。そこに実感は湧くはずもない。
 だから、いつまでもスペースコロニーを植民島から格上げせず、サイドに市政を敷いたに留まっている。人口の少ないサイド7でさえ、一五○○万人以上が居住している。たった二基のスペースコロニー――それも植民が完了していないにも関わらず、既にそれだけの人口があるのだ。一○○○万人の都市といえば旧世紀時代の小国の首都に匹敵する人口である。現実的には、スペースコロニー単位での市政こそが相応しいのだ。
 宇宙総人口六○億人。
 その内訳はサイド3、6はそれぞれ十五億人弱、再建されたサイド1、2、4にそれぞれ一○億人弱、月に一億人というところだ。各サイドとも徐々に地球からの移民組が増えつつあった。
 それでもなお、連邦政府は地球再建に狂奔し、大規模な再開発を乱発していた。宇宙への資本投下は行われず、搾取するプランテーションの如く扱っていた。当然の帰結として反政府運動が起きる。軍部は権益拡大のために政治家の不安を煽り、反政府運動がジオン公国残党と結びつくと主張した。冷静に判断できる政治家がいなかった訳ではないが、連邦政府は軍部の要望を容れ、地球上に活動範囲が限定されていたジオン残党狩り専門の特殊部隊〈イージス〉を軍に昇格させ、再編成の上、権限を拡大し、ティターンズとして認可した。ティターンズ総司令長官にはジャミトフ・ハイマン大将が着任した。連邦の政治家が利権を貪る寄生虫と罵られ、蛇蠍の如く毛嫌いされるのも仕方ない。
 そもそも軍人と政治家の結びつきが強いのは、地球市民に軍関係者が多く票田となるからであるが、退役軍人が政治家になるケースも多く、議会に国防族が三割強も占めているという歪な現実に問題がある。だが、地球市民からすれば、歪な構造ではない。自分たちを守る軍人および国防族に信頼を寄せる者たちの方が大多数だった。こうして軍人も世襲化していき、宇宙から吸い上げた利潤を消費して軍の影響力が強化される図式は戦前戦後で変わりはしない。
 そしてその政治の裏側では、軍需産業同士の縄張り争いが起きていた。老舗のヴィックウェリントン社はMSの新規開発に熱心ではない。同社は艦艇を主体とする軍需産業体であり、航空機や航宙機はハービック社が強い。陸上車輛や火器はヤシマ重工となっていた。ボウワ社やブラッシュ社はミノフスキー物理学の軍事有用性が確認されて以後、軍部との繋がりを持つにいたる。
 MSの登場以後、アナハイム・エレクトロニクス社とコロラド・サーボ社が航宙機メーカーのハービック社に変わろうとしていた。先んじたのは、マイナーチェンジによる性能向上を実現したコロラド・サーボ社である。アナハイム・エレクトロニクス社は新規開発にこだわるあまり、連邦軍が真に求めるものに気づかなかった。
 コロラド・サーボ社はティターンズと積極的に結びつき、新規MS開発にアドバンテージを持つにいたった。その上、ティターンズは徹底的に月企業やコロニー企業を排除し、地球企業を優遇したのだ。アナハイム・エレクトロニクス社は巻き返しを図るためにも、エゥーゴを支援する以外選択の余地はなかった。
「結局、軍閥政治か財閥政治かしかないのかよ……」
 メズーンにとってその尖兵として利用されるのは面白くない。月が地球に取って代わるだけならば、スペースノイドに真の自由など訪れないからだ。ならば、メズーンは何を目指せばよいのか。レドリックが目指すことを出来るだけ援けること。それが精一杯だった。 
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