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殺し屋いじめ

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第五章

「冷たいが」
「氷入れたのよ」
「そうなのか」
「驚いた?」
「まさかまた悪戯を仕掛けてきたとはな」
「氷何処に当たってるの?」
「三つの大事な場所だ」
 ブリーフの中にあるその三つだというのだ。
「棒、珠、そして穴だ」
「ああ、全部当たったんだね」
「かなり冷たいな」
「ついさっきまで冷蔵庫に入れていたからね」
 女はベッドの中で楽しそうに語った。
「よく冷えてるでしょ」
「縮んだ」
 何が縮んだかはあえて言わない。
「全く、もう悪戯はないな」
「ええ、この場ではないわよ」
「ならいい、では仕事に行って来る」
「お仕事の邪魔はしないから」
「それに限り俺は容赦しない」
 西郷は仕事の邪魔をされることをこのうえなく嫌う、依頼主がそれを行った場合背信行為とみなし報復する。
 だからだ、女にこう言ったのだ。
「会長達にも言っておけ」
「わかってるよ、親分さん達もね」
「ならいい」
 こう言ってだ、そうしてだった。
 西郷は仕事自体は何なく終わらせた。そのうえで。
 彼は会長と修一がいる会長室に入った、そこで仕事が完了したことを報告しようとするが。
 ここでだ、不意にだった。
 彼は後ろに何かを感じ取った、それで条件反射で。
 後ろにいる何かを殴った、振り向きざまに。
 そして蹴った、だがそこにあったのは。
 枕だった、それも抱き枕だ。彼の知らない日本のアニメのキャラクターのあられもない姿での抱き枕であった。
 その抱き枕を見つつだ、西郷は自分の後ろにいる己の席に座っている会長と会長の傍に立っている修一に背を向けた状態で問うた。
「これも悪戯か」
「ちょっと今動かしてみた」
「中にラジコンを入れていたんだよ」
 見れば修一の手にはラジコンの操縦機がある、枕の下にそれを入れて立たせた状態で動かしていたのだ。
「面白いかな」
「面白くない」
 こう答えた西郷だった。
「最後の最後でもこれか」
「いや、面白いかなと思ってね」
 修一が笑いながら言う。
「やってみたんだがね」
「これまでずっとか」
「そうさ、契約違反じゃないな」
「それには触れていない」
 このことは修一に対しても言う西郷だった。白いスーツの下の赤いブラウスが妙に似合っている。
「安心しろ」
「それは何よりだよ」
「とにかく仕事は終わった」
「ああ、報酬はスイス銀行の口座に振り込んでおくよ」
 修一達にしても契約は守るというのだ。
「有り難うな」
「わかった、ではだ」
「では?」
「ここからは契約の外のことだ」
 こう言ってだ、西郷は振り向いた。表情は今も変わっていない。
 しかしだ、その全身に低温で高さも低いがメラメラと燃え盛る炎を全身にまとっていた。その暗くそれでいて激しい炎を身にまといながら彼と会長のところに来て言った。
「悪戯の礼をさせてもらう」
「ま、まさか」
「我々を」
「安心しろ。契約違反ではない」
 このことはまた言った西郷だった。
「殺しはしない」
「それは安心していいんだな」
「俺達にしても」
「そうだ、殺しはしない」
 表情は変えていない、だが。 
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