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魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―

作者:鳩麦
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第三章
  二十話 それぞれの練習へ

 
前書き
お久しぶりです。鳩麦です
遅くなってしまいました。夏休み中の最後の更新かもしれません。

では、免許合宿先から。二十話 

 
[対象数値、低下を確認……規定レベル誤差……12……集中観察レベル……2へ移行……]
何処か知れない暗く乾いた空気の中……蒼い光が無機質な音声と共に計測された結果を簡潔に伝え、瞬きながら具体的な数値を、空中に表記していた。部屋の主であるとあるカガクシャは、表示されるデータとこれまでに記録した数値を見ながら小さく微笑んだ。

「やはり、彼は綺麗なデータを見せてくれる……本当に何時も世話になるね……」
その言葉に肯定や否定を返す人物はいない。其れは当然の事だ。何故なら部屋には、カガクシャ以外に人間はいないのだから。

あぁ、何て素晴らしいのだろう。

己の研究成果を映し出すホログラムを見ながら、カガクシャは何処か陶酔したように息を突いた。
彼が長年にわたって続けて来た研究は今、一つの完成へと向けて、ゆっくりと、けれど確実に推移していた。そしてその結末は、既に彼の頭の中へと出来あがって居る。

「…………」
彼は指先を動かし、新たに一つ、ホログラムを表示させる。そこに映し出されているのは、一人の人物のフォトデータ。彼の最高の研究パートナーであり、彼が見つけ出した奇跡の結晶。

「もうすぐだ……」
まるで壊れ物に振れるかのように、ゆっくりと指先がホログラムを表面をなぞる。その声は穏やかであり、同時にどこか慈しむようでもあった。

「もうすぐ、私の夢はかなう……あぁ、ありがとう……」
其れはまるで祝詞(のりと)のように、其れはまるで呪言(のろい)のように、何処か歌うような響きを持って、彼の口から紡がれる。

「君との出会いに、心からの感謝を……」

────

さて、合宿も終わり、二週間ほどが立った。テスト後休みは有ったものの、学期末テストでは無かったため今はバリバリ学校の時期。しかして子供達には学業よりも先ず打ち込みたい(文字通り)物があるようだ。

「じゃあ今日出来るんだね!アインハルトさんのデバイス!」
「うん!」
リオが目をキラキラさせながら言うと、ヴィヴィオもまた、嬉しげに微笑んで返した。
そうなのだ。ルーテシアを介して某真性古代ベルカ一家に制作を依頼していたアインハルトのデバイスが、本日ついに完成する事になっているのである。件の一家の家は、ミッド南部の湾岸住宅地にある為、現在はノーヴェとチンクが付き添って車、ちなみに、今日はこの後チビッ子達は聖王協会にて各々ノーヴェが制作した特訓メニューを。アインハルトはノーヴェが手配した、公式戦経験のある相手とのスパーリングが控えているので、子供達四機のデバイスの顔合わせは、翌日と言う事になる。
何しろ立った二カ月其処らで全国から選手の集まる大会に通用するレベルまでスキルを上げて行こうと言うのだ。其れははっきり言って、普通にキツイ。なので練習は相当ハードかつ厳しい物になると予想されるのだが……

「特訓ってどんなのかな!?」
「たのしみだねー!」
「ノーヴェ師匠、凄くきっちり考えてくれてるって」
「「おぉ~!!」」
と、このように、全く恐れを知らない……と言うか寧ろ大いに期待に目を輝かせていたりする。全く、若いと言う力は凄まじい物である。
まぁ、前にも言った気がするが、この子達の場合は“若い”通りこして“幼い”が正解だが……いずれにせよ、このエネルギッシュな部分は、彼女達の多くの美点の一つだろう。

「それじゃ、私先に教会行ってるねー!」
「うん!私達もすぐ行くから~!」
言いながら手を振り、リオとコロナはヴィヴィオとは逆方向に歩き始めた。と言うのも、リオとコロナは教会に行く前に少々別の用事があるのである。

「アインハルトさんのデバイス、どんな風なんだろうねー?」
「うーん」
歩きだしながら、二人はそんな話題に耽って居た。指輪型や、ブレスレット型等、少女達の空想の中で、それらのデバイスを装備しているアインハルトの姿が思い浮かび、想像と談笑をしながら彼女達は歩きなれた道を行く。
さて、此処で作者からちょっとした注意である。
歩きなれた道を歩くと言うのは存外、別段考えることをしなくても自然と出来てしまう物だ。だからこそ、考え事や談笑をするのに、通学路等は結構向いている物である。が、忘れてはいけないのは、その道のりに居るのは決して自分達だけでは無いと言う事だ。
余り意識をしないまま歩いていたりすると、人や、電信柱、その他障害物にぶつかってしまったり、悪い時は赤信号に気がつかなかったりしてしまう事もある。なので例え慣れた道であっても、安全には常に注意を払わなければいけない。徒歩で有る場合、一番痛い想いをするのは、自分であることが多いのである。
さて、コロナやリオの場合もまた、今回は少し談笑に夢中になりすぎてしまったようだ。

「ふみゅっ!?」
不意にコロナが妙な声を上げ、視界が真っ白になった。どうやら、誰かに正面からぶつかってしまったようだ。顔を上げると、其処にはいかにも不良です、と言った風防の上級生が三人立っていた。

「「「あぁ?」」」
三人とも同じ学校の制服なのだが、明らかに素行の悪そうな服装をしている。先ず三人ともスカート丈が異常に長い。にも拘わらずセーラー服の上半身を明らかに校則違反だろう改造を施していて、腹部の丈が非常に短く、臍が丸見えだ。恐らくは布ごと切ったのだろう。
加えて三人は、其々荒っぽく伸ばした黒紫の髪に、茶髪に赤みがかったサングラス。金髪にマスクと多様な、けれど全員がなんとも粗暴そうな容姿をしていて、非常に威圧感があった。
これは所謂、スケバン?と言う奴なのだろうか?はて?あの人種は大分前に絶滅したと聞いていたのだが……其れに、何故彼女達の制服がセーラー服を基準としたものなのかも今一謎である。と言うのも元来セーラー服と言うのは我々の世界で言う旧海軍の水兵服である、セーラー服を元として生まれた物であり、諸王戦乱期以降、平穏な時代が続いていた筈のこの世界では発祥の元となるべきセーラー服自体が存在しない筈で……いや、そう言えばコロナのBJにも、襟元にセーラー服に近い要素があったように思う。と言う事は実はこの世界ではセーラー服はこの世界ではメジャーなのだろうか?だとしたら形の上では戦乱期以降も軍隊は存在したと言う事か……?

……失礼、話がかなり盛大に逸れた。

「あ……ご、ごめんなさいっ」
「ごめんなさい!」
何にしても、こういう状況下で先ずすべきは、素直に謝る事だ。下手に状況をこじらせて喧嘩のようになってしまうのは望ましくは無い。
と言う打算はどちらかと言えばリオやコロナにとっては薄いのだろうが……何れにせよ二人は、素直に謝った。すると……

「ばっかおめー、気を付けろよ」
黒紫色の髪の女子が呆れたように想像以上に軽い声で言った。其れも、コロナがぶつかった金髪の女子に向けてだ。言われた彼女も後ろ手に頭を書きながら、やや申し訳なさそうに言う。

「おぉ、ちょっとぼーっとしてたわ」
茶髪のサングラスはというと、

「大丈夫?ぶつかったとこ痛くしてねーか?」
「ふぁ?」
コロナの心配までする優しいお姉さんっぷりである。前の地の文を撤回したくなってきた。やはり人は見かけで判断してはいけないと言う事だろう。コロナやリオもまた、余りのギャップに戸惑ったようにぺこぺこ頭を下げる。

「平気です!こちらこそ、すみません!」
「ごめんなさい」
なんとも奇妙な邂逅と言う奴だが、いずれにしても不注意は此方にも非があるのだ、そんな事を思っている彼女達に対して、本当の奇妙な邂逅は此処からだった。

「おーい、なにしてんだー?おまえら」
彼女達三人の後ろから、更に声がした。見ると其処に、赤毛をポニーテールにして垂らし、三人と同様の改造制服(ただし、此方はスカート丈がかなり短いが)を身に付けた上級生が立っていて、首を傾げながら此方を見ていた。と、不意に、それまで縮こまり気味に居たコロナとリオが大きな声を上げた。

「「あ、あなたは!!」」
と言うのも、彼女達にはその上級生に見覚えがあったのだ。それも……公開されている動画で。

「去年のIM、上位シードを軒並み倒して都市本戦五位まで上り詰めた無流派(ノンスタイル)近接射砲撃型(インファイトシューター)!!」
「付いたあだ名が《砲撃番長(バスターヘッド)》!ハリー・トライべッカ選手!!」
ありがたい事に、説明する手間がおおいにはぶけた。そう、詰まる所彼女は、彼女達憧れのIMにおける都市本戦出場経験のある……其れもその中でも上位に位置する選手。所謂、上位選手(トップファイター)と呼ばれる類の選手なのである。
ハリー・トライベッカの驚くべき所は、その成長速度とセンスにある。初出場は12の時、現在彼女は15なので、IMへの参加履歴は3回なのだが、通常の選手が初出場では選考からのノービスクラス、次にスーパーノービスを二回くらい経由して、エリートクラスに進み、何度か経験を積んで五回ぐらいでようやく都市本戦に進むのに対して、彼女の場合は去年エリートクラスシード無しから出場して、行き成りエリートクラスのシード枠選手を次々ブッ倒したどころかそのまま一気に都市本戦まで進み、あろうことか21人中5位まで跳ね上がったのである。
しかも戦技のスタイルは全て我流、つまり固定した師匠はいないので、彼女は自らのセンスと努力、そして根性でその場所まで登りつめたことになる。
そんな経歴の持ち主なので、彼女はIM初参加や、まだ参加し始めて日の浅い選手たちにとってはあこがれの的でもあるのだ。

「番長!IMの試合映像見ました!カッコ良かったです!!」
「あ、あの、サインもらえませんか!?」
「あ……お、おお……」
詰めかけるように言うリオとコロナに、ハリーが照れたように顔を朱くして軽く頭を掻くと、他の女子メンバーが彼女に寄る。

「やっぱりすげーぜリーダー!」
「チビッ子にも人気の有名人だ!!」
どうやら彼女は三人の「リーダー」なる存在らしい。何のリーダーなのかよく分からないが。

「べ、別に大したことねーけどな。おい!ペン貸してくれペン!」
「はーいっ」
ハリーがそう言うと、サングラスの女子が慣れた様子でカバンからペンを取り出し、ハリーに手渡す。リオとコロナの学生手帳にサインを書きながら、彼女は聞いた。

「しっかし何だお前ら、チビッ子の癖に魔法戦競技が好きなのか?」
「はい!!今年は私達も出場するんです!」
ハリーの言葉に、勢いよくリオが返す。するとハリー以外の女子達が一斉に目を剥いた。

「って、IMに?マジか!?」
「はい!」
コロナが答えると、三人は驚いたように言った。

「っは~、ウチのリーダーも、初出場は中等科一年の時だぜ?」
「近頃のチビッ子はすげーなぁ」
彼女達の言う事も、もっともだろう。
ヴィヴィオやアインハルトの例を見て分かるように、魔法と言う万能の力は基本的に筋力や体格によるレンジの差と言った物を殆ど無いも同じものとしてしまうため、人によっては年上の相手だろうと何だろうと、十分に戦う事が出来るようになる。が、それでも、彼女達の年齢……つまり、出場最低年齢でIMに出る少女達は少ない。

「同い年の子が、もう一人でますよ~」
其れは経験で有ったり、まだしっかりとした考えを持てない内に定められた規則の中は言え暴力を扱う世界へ入って行くの早いと考える大人がいたり色々な理由があるが……得てして最もわかりやすいのは、「どうせ勝てない」からだ。

「そーか、しかしお前らも出場するって事ァ、オレのライバルって事になるよな?」
『齢十歳で、モニターの向こうで派手な魔法を飛ばし合い、雑誌の誌面にも乗るようなトップファイターとやり会うなど、土台無理な話だ』彼等の保護者やコーチは、軒並みそう考える事が多いのだ。彼等の考えははっきり言って正しい。現実、殆どの場合はそうだし、寧ろ幼いうちにそういった経験をしてしまう事で、その後ずっと「自分には無理」と考えてしまい、魔法戦競技を止めてしまう子供もいる。
幼いうちに受ける精神的なダメージと言うのは、物事の道理をしっかり学んだ者たちが受けるダメージと比べてどうしても大きくなってしまうもである。そういうダメージをわざわざ負わせるために試合に出す位なら、もう1、2年待ってからでも出場は決して遅く無い。
選手の事も考え、大人はそう結論を出すし、何より出場する彼女、彼等にとっては、ハリーのような選手は文字通り「雲の上の人」なのだ。そんな連中をやり会おう等とは、そもそも思いもしない10歳児も多くいる。

……しかし、出場するとなったら、その言い分は通用しない。

「“いえ、そんな”」
仮に大会を進み、より多く戦い、あまつさえ都市本戦への出場を目標とするのなら、彼女達は相手を打ち負かし、自らが勝利するよう、全力で努力しなければならないのだ。

そう──

「……試合であったら……“容赦なくブチのめすぜ?”」

──相手が誰であっても──

「っ!」
「!?」
突如としてハリーから吹き荒れた闘気……彼女達にとっては“殺気”と同義のそれに、一瞬でコロナとリオは顔色を変えた。
コロナは突然の事に身体を硬直させ、リオは反射的に距離を取るためバックステップ。

ちなみにこれが試合なら、この時点でコロナは終わっている。

そう。「いえ、そんな」では無いのだ。ハリーにああ言われた瞬間、「そうですね」と、本来なら彼女達は返さねばならない。
何故なら地区予選で同様の大会内居る以上、ハリーと当たる可能性は目標通り勝ち抜いたなら確率的に十分ある。そしてもしそうなり、同じリング上に立ったならばその時彼女は、《憧れの上位選手(トップファイター)》等では無く、お互いに勝つか負けるかを競い、闘う《好敵手(ライバル)》なのだから。
リオもコロナも、そのまま構えに移行するが、それ以上ハリーは一切手を出す様子も無くフッと笑った。

「まー、安心しろチビども。オレァ予選シード枠だ。滅多な事じゃ当たりゃしねーよ」
「で、ですよね……」
「あはは……」
違う。反応は遅く、気当てだけで身体をすくませるような圧倒的な力の差だ。ハリーの発言は、本人にその意図が有るにしろ無いにしろ、こう言っていた。即ち、『お前らじゃオレがいる所まで上がって来るのは無理だ』と。

「ほれ、書けたぞ?こんなんでいいか?」
「あ!ありがとうございます」
そんなこんなを言っている内に、ハリーのサインが書き終わったらしい。サイン一つ書くにしてはやけに時間がかかったものだ。そう思いながら、二人が生徒手帳を除き込むと、其処にハリーのサインが小さく書かれ、次いでとばかりに可愛らしい犬と猫のキャラクターの絵が……ってかこれサインがついでに見えるのだが……
町中で突然トップファイターに出会い、サインをもらい、闘気を当てられ戦慄した二人は、その日最期の彼女への印象として、揃って心からこう思った。

『『番長……絵、かわいすぎます……』』

────

「シャンテー!久しぶりー!」
「あ、陛下だ!いらっしゃーい」
一方その頃、聖王教会に到着したヴィヴィオを出迎えたのは、橙がかったブロンドに、アメジスト色の瞳。
見習いシスターである、シスターシャンテだ。少々適当で、粗雑な所が有り、本当にシスター?と良く言われる少女である。教会騎士ででもあるシスターたちのリーダー、シスターシャッハにもよく叱られるやんちゃガールだが、根はやさしく元気の良い少女だ。

「聞いたよー!シャンテもIMでるんだって?」
「うん!でるよー!」
ヴィヴィオの問いに、シャンテは楽しげに答えた。ちなみに本当の所を言うと、勝手に出場申請をしてシャッハに大目玉を喰らったのだが、其処は言わない約束である。

「そう言えば、シャンテとも随分練習して無いよね?久々に一本やろうか?」
「んー?」
IMに出るのだから当然だが、シスターシャンテも勿論、魔導戦技をたしなんでいる。其れも管理局のランク付けでも上位に位置する魔導師である、シスターシャッハの弟子であり、武器も同じ、ブレードトンファー使いだ。

「んー、でもライバル相手に技見せのサービス……いや、あ、いいや、うん、やろう陛下」
「?」
「そだそだ。出しても平気な技が有ったよ。出しても“見えない”私の得意技ッ♪」
そう言いながら、シャンテは自らのデバイスであるブレードトンファーを出現させる。構えを取りながら、シャンテは言った。

「そーだねぇ……じゃあ此処は一つ、陛下の右側から攻めちゃおうかなっ?」
「右側?ほんとかな~」
シャンテが構えを取った事で、ヴィヴィオもまた、シャンテと向き合い構える。元来シャンテは割とずるっこい所があるので、こういう発言を素直に信用してはいけない。現に……

「ほんとほんと~シスターシャンテは素直な良い子!嘘なんて……」
此処まで言った次の瞬間、シャンテはヴィヴィオの“背後”に現れ、にんまりと笑った。

『たまにしか付かないよっ♪』
これが既に嘘である。

ヴンッ!と空気を切り裂き振り切られたブレードトンファーをしかし、ヴィヴィオは“一切後ろを見ずに”頭を下げて交わした。

『……あれ?』
『あっ……!』
お互いの驚きの声が、内心で木霊する。
と言うかシャンテ、軌道が完全に首狙いだったようだが……1.不意打ちで、2.嘘をいいつつ背後に回り、3.首狙いで刃物を振りきる……

……暗殺者だろうか?

「あ……危なーい!!凄いシャンテ!ほんとに見えなかった!」
言いながら慌てて距離を取るヴィヴィオに対して、シャンテはやや厳しい表情をする。

『初見のあれを避けちゃったよこの子は……』
避けさせる気は無かったようだ……やや疑いが濃くなった。

「ごめん、デバイス、セットして良い?」
「え?あぁごめん。どーぞどーぞ」
クリスを持って言ったヴィヴィオに、シャンテは笑顔で返した。
と言うか考えてみれば先程ヴィヴィオは防具すら付けてはいなかった筈なのである。BJも無い相手に、不意打ち、背後、首狙い、刃物……やはり暗殺者のやり口に見えてしまう。
まぁ、とはいっても不意打ちは彼女の十八番のようなものなので仕方なくはあるし、デバイスも非殺傷設定で固定である為問題は無いのだが。

「セイクリッドハート・コンタクトモード・セットアップ!」
「?」
ヴィヴィオの言葉と共に、クリスがヴィヴィオの胸へ吸い込まれるように姿を消す。そんな光景を見ながら、シャンテは首を傾げた。
と言うのも、セットアップしたにも関わらず、ヴィヴィオの姿形には全く変化が無く、いつもの初等科制服姿のままだったからだ。

「?え?それで良いの?何も変わってないように見えるんだけど」
「見えない所が変わってるから平気だよ~」
言いながらヴィヴィオも構えをとる、そう言われてしまえばそれ以上何も言いようは無い。戸惑った様子だったシャンテもやがて落ち着きヴィヴィオを見据えると……

「それじゃ、遠慮なく……ッ!」
一気に間合いまで踏み込む……かと思いきや右へ左へ高速で移動。ヴィヴィオの視界を攪乱し……

「……アクセル……」
一気にヴィヴィオの死角に回り、そのままブレードを振りおろ……

「スマッシュ!!」
「っ!?」
すと同時に、即座に振り向いたヴィヴィオの拳に、ブレードが受け止められた。
互いの力が拮抗すると同時に、即座に後方に二人は下がる。

『見えないだろうに撃ってきた……と言うか、刃面素手で殴るかねこの子は!』
『すごいすごい!どうやって移動してるのか、ホントに見えない!』
シャンテもヴィヴィオも、お互いの力に純粋に驚いていた。ヴィヴィオは刃物と素手で思いっきりやり会うつもりらしいし、シャンテの移動はヴィヴィオには実際視覚できていない。だが……ヴィヴィオには同時に思う事が有った。

超速移動?それとも別に種が有るのだろうか?いずれにせよ移動が見えず、そのまま死角に回り込まれてしまうのは厄介だ。だが……

「『…………』」
『お兄ちゃんよりも……!』
兄に比べれば、速さも、キレも、重さも劣る!

そのまま一気にラッシュに突入した二人は、互いの攻撃を次々に躱し、いなし、受け止める。
打ち合いを続ける内に、シャンテもまた、ヴィヴィオが刃面を殴って来る理由を悟り始めていた。

『なるほどね。デバイス……あのうさ吉が頑張ってる訳だ』
ヴィヴィオのデバイス、クリスこと、セイクリッドハートの現在の設定は、極防衛、補助制御型設定である。
近接戦闘時のセイクリッドハートは原則として、そのリソースのほぼすべてを防御魔法のサポートにつぎ込み持ち主を守るため、筋力増幅等に最低限しかリソースを割くことがない。
代わりに、殆ど常に防御型の魔法を展開しているため、原則として刃物相手でも打ち込む事に躊躇が無い。

『言ってみりゃ、全身防具装備済み……ッ!?』
『そこっ!』
並列思考で考え込んでいたシャンテに対して、突然ヴィヴィオの動きが変わった。振り切った右のブレードを軽く頭を下げて紙一重で躱すや否や、一気に懐に踏み込んで左のストレート。

『ちょっ、見切られたっ!?』
即座に左のブレードの絵で防ぐと同時、斬り返す要領で右のブレード振り切り距離を取る。

『見えてた……?いやいや、見えなかった筈!』
『分かってきた分かってきた!』
シャンテの見えない動きのタネとは、幻影隠蔽(ミラージュハイド)だ。この魔法は自身の居る場所とは違う場所に自らの幻影を作りだし、他者に自己の位置を誤認させたり、自身の姿を消して自分が其処に居ないように見せかける、視覚攪乱に使用される魔法である。
元来、彼女のデバイス、幻影(ファンタズマ)の名が示す通り、彼女は幻惑、認識阻害系魔法を得意とする魔導師なのだ。
シャンテはこの魔法を使って、相手に対して自分が見えないほどの超高速移動をしているように、「見せかけて」居るのだ。なので、視覚的に彼女の動きを認識する事は手品のタネを見破らない限り絶対に不可能……のはず。

『こんなに早く見破られてはシャンテさん自信喪失間違いなし!』
『シャンテが消えたら、見えない所に注意!』
まぁ、実際の所ヴィヴィオとてこの短時間でシャンテの魔法の仕組みを見破った訳ではない。唯、彼女の動きには、姿を消した場合此方の死角に現れると言う、一定のパターンが有るのだ。
其れが分かって居れば、シャンテが消えた瞬間に自分の背後か左右後方、あるいは上に全力で神経を集中させれば、何処から攻撃が来るのかは読める。一度ブレイク二人は離れ、お互いに構えを解かず向き合う。

「むむむ……陛下強くなってない?シャンテさんちょっと自身亡くしそうなんだけど」
「え、えぇ!?シャンテも強いよ!十分すぎだよ!?」
「むー、うさ吉も陛下にピッタリだし……あぁ……でも……」
何だか拗ねたように言うシャンテの表情が、不意に変わった。少し悩むような、ためらうような顔をした後で、シャンテは真剣な顔になって言った。

「えっと……ちょっと心配な事が有るからさ、ためしに次の一撃、躱さず防御してみてくれないかな?」
「え?う、うん……」
正面から打ち込むのに対して防御する等造作も無いが……そんな事を考えながら、構えを取り……瞬間、シャンテの雰囲気が一変した。

「双輪剣舞──」
肌を裂いた其れを何と言えば良いだろう?
切る、と言う明確な意思その物が込められたはっきりとした殺意。其れを感じた瞬間、踏み込んだシャンテのブレードトンファーがヴィヴィオの身体を交差するように一閃、防御も何も意味を為さず、身体が深く切り裂かれる、激痛、多量の鮮血が舞い散り、身体からチカラが抜け、意識が暗闇へと落ちて行き──

「ッ!?」
気が付くと、ヴィヴィオは無傷のままで戦慄の表情と共に一気に後方へと後ずさって居た。
現実では無い。今のは言わば、“本当に”シャンテの一撃を受けていたなら起こっていた筈の、結果のイメージ。彼女の一撃を防御しきる事は無理だと、身体が本能的に察した結果見えた、一時の幻想……

「あぁ、流石陛下。打ち込まなくても見えたんだ?」
何が見えたのかを察したように、シャンテが言った。ヴィヴィオは苦笑気味に両手を上げると、降参するようにヒラヒラと振る。

「防御の上から斬り落とされちゃった」
「あはは、この位にしとこっか。怪我せずに済んで良かった」
「うん、ありがと~」
言いながら二人は各々のデバイスを待機状態に戻す。と、自分の言った事で思い出したようにシャンテが苦笑した。

「実際、陛下においたしたりすると、双子がうるさ──」
ヒュン!ビキィン!!

「はいぃぃぃぃーーーーーッ!!?」
彼女が言い終わるよりも早く、飛んで来た薄緑色の魔力で編まれた紐型バインドが、シャンテを一瞬で縛り上げる。……何故か亀甲絞りで。

「シャンテ」
「ヒョッ!?」
彼女の後ろから掛けられた声に、シャンテは妙な声を上げながら振り向く。と、其処に双子こと、教会務めのナンバーズ。オットーとディードが非常に黒い顔をして立っていた。さて、彼女等が何故にこんな顔をしているかと言うと……

「僕等護衛役に話も通さず」
「陛下にこんな場所で斬りかかるとは、良い度胸ですね?」
そうなのだ。彼女達は教会内におけるヴィヴィオの護衛役であり、その為二人に無断でヴィヴィオと撃ち合ったりしようものなら、結構酷い目に合う。

「ちょ、待って!MATTE!!?」
「ち、違うの!今回は私がさそったの!」
大慌てで二人は弁解を始める。此処でちゃんと弁解しておかないと、割と本気で不味い。(主にシャンテのあれやこれやが)
しかしそんな二人にも双子は非常に冷静である。

「まったく、陛下はお優しい」
「ですがそれとこれとは話が別です」
オットーとディードはリレーするように言った。双子だけにこの二人、割と息はぴったりなのだ。

「陛下はイクス様のお見舞いにいらっしゃったのでしょう?その前に怪我でもされたらどうなさいます?」
「は、はいぃ……」
オットーの言葉にヴィヴィオが申し訳なさそうに言うと……

「練習や手合わせをするな。とは言いませんが、時と場所を選んでいただかないと困ります」
「ディードッ!!言論と行動がかみ合ってないぃぃ!!」
言いながらディードがシャンテの両手両足を一本のロープにくくりつけてエビぞりの体制で木につるす。時と場所とは一体何だったのか。

「さ、参りましょう、陛下」
「あ、う、うんっ!ごめんシャンテ!また今度ね!」
「はーい、イクスによろしくね~」
結局のところ、オットーに急かされ、ヴィヴィオはシャンテとディードをそのままにして、その場を立ち去るのだった。

────

さて、同じ頃、アインハルトとノーヴェ、チンクがアインハルトのデバイスを受け取りに言った八神家ではと言うと……

「さて、そんな訳で~、覇王の愛機が完成したんで、お披露目兼受渡し会と言う事で」
「「わーっ!」」
家主である八神はやてと、同家のリインフォース・ツヴァイと、アギトが、楽しげにそんな事を言っていた。

八神はやては、なのはとフェイト、二人の十年来の親友で仲良し三人組の最後の一人であり、起動六課の部隊長でもあった人物だ。流暢な京都弁で話し、親しい相手には物腰は柔らかであるものの、敵対、あるいは駆け引きの相手には厳しい一面もあり、一部にはたぬき、等と呼ばれてもいたりする。
現在は、時空管理局海上司令を務めており、単純な地位で言うなら、三人の中でも一番の出世頭である。

ちなみに、後ろにいる銀色の髪を持つ少女、リィンフォース・ツヴァイとアギトは、この世界の中でも珍しい、特定の魔導師と融合してその魔導師の能力を飛躍的に上昇させる、「ユニゾンデバイス」と呼ばれる存在である。
現在の技術では人工的に生産する事は不可能である為、殆どの人間は文献でその言葉を見たり耳にする事はあっても、大概実際にその姿を見る事が無い方が多い類の非常に貴重なタイプのデバイスである。

さて、そんな超絶三人が作ったデバイスは、リィンがユニットベースを。颯はAIシステムの仕上げと調整、アギトは外装、と言った感じに、其々が役割分担して作り上げたらしい。まさしく頭からつま先まで、真性古代(エンシェントベルカ)式。同術式のデバイスの中でもかなり高位のデバイスと言えるだろう。
さて、中身も大事だが、やはり少女の持つ物だけに、見た目も相応大事な物である。すると其処は性格はともかく一応女性であるアギトもちゃんと考えてくれていたらしい。
本人曰く、彼女なりにシュトゥラの歴史などを調べたと言う事で、彼の国が雪原豹を兵士として使用していた事から、雪原豹をモチーフに外装を作ったと言う事で……

「って、動物型!?」
「余り大きいと持ち歩くのが大変では……」
ノーヴェとチンクが、其々驚いたように言った。実際日ごろから持ち歩くことの多いデバイスが大きすぎるのは問題だが……
ちなみにアインハルトは、実寸の雪原豹を連れ歩く自分を想像して、目を輝かせている。正直言いたい。いや流石に其れは無いだろうと。

「その辺はノープログレムだっ!リィン!」
「ハイですっ!」
威勢良くアギトが言うと、リィンは何かゴソゴソと傍らから小箱を取り出し、アインハルトの前に置いた。どうやらこの中に、彼女のデバイスが入っているらしい。

「アインハルト、開けてみてー」
言われた途端、アインハルトの胸がドクンと高なった。自分にとって、生まれて初めて手にする「自分の」デバイス。一体どんな……そう思いパカリと箱を開くと……
其処に、身体を丸めてスヤスヤと眠る、豹模様の……

────猫?

初見の三人の心の声が完全に合致した。チンクに至っては、手首を曲げて「にゃ?」と軽く声を出す始末である。

「えぇぇ!?何今の心の声!?」
「イメージと違いましたか!?」
「いやいやいや!」
「いえ、そんな」
詰め寄るリィンとアギトに、ノーヴェとアインハルトが慌てて否定を返した。
と、そんな双方にフォローを入れるように、はやてが言った。

「いや、ぬいぐるみ外装はちょっとしたお茶目やったんやけど、性能はちゃんと、折り紙つきやで~?」
と、そんな事を言っている内に、箱の中で眠って居た……詰まる所スリープモードだったデバイスがごそごそと動きだし、箱から身を乗り出すように顔を出すと……主である少女の顔を見て一つ。

「にゃあ♪」
「あ……」
完全に猫である。

「ふれたげて、アインハルト」
言われて、導かれるように触れて抱えあげる。と、掌からじんわりと温かさが伝わり、まるでこのぬいぐるみが本当に生きているかのような感覚が、アインハルトの中に満ちた。

「マスター認証まだやから、名前、付けてあげてな?」
「あ、はい」
「認証は庭でやるですよ~」
リィンに言われて庭へと歩いて行く途中、ふとアインハルトは一つの事柄を思い出していた。

『そう言えば……』
彼女の記憶の中にある、シュトゥラの、クラウス・イングヴァルトとオリビエ・ゼーゲブレヒトが共に過ごした最後の年の冬。二人が大切にして居た雪原豹のつがいの中で、一度だけ、生まれて来る事の出来なかった個体が居た。
オリヴィエは何時も気の早い女性だったので、生まれる前から生まれて来る豹達には名前を付けていて。確か、あの時生まれる事の出来なかった子の名前は……

『そう……二人が好きだった、物語の主人公……諦めずに進む……小さな英雄の名前……』
「個体名称、登録──」
その名は、「洗練」を意味する言葉。
どうか物語の勇者のように、真っ直ぐ前に。研ぎ澄まされた剣のように洗練された武具となって、主を支える事が出来るように……

「貴方の名前は、アスティオン……愛称(マスコットネーム)は、ティオ」
「にゃあ!」
空間に、翡翠色の魔力が満ちる。地に描かれた真性古代式の術式が光り輝き、少女の姿を包み隠す。

「アスティオン……セットアップ」
満ちた魔力が少女の姿を変える。白の胴着を纏い、身体は一気に成長し、体格も女性の其れへと変わる。やがて光が消えた時、其処にはセットアップを終えたアインハルト・ストラトスの姿が有った。

────

「…………」
聖王教会の敷地内。イクスヴェリアが眠るその場所で、ヴィヴィオは彼女と二人、部屋にいた。

「シャンテがね?教えてくれたよ。今の私が武器も持たずに大会に出たら、ぼろ負けだーって」
最後の瞬間のあの殺気とイメージ。あれは彼女なりの警告だったのだろう。今のヴィヴィオには、IMに出て勝ち抜くだけの力は明らかに足りない。
故に、もしでるのなら相応覚悟をしなければならない。怪我をする前に、もう少し考えたらどうかと、シャンテは言外に沿う警告してきたのだ。
実を言えば、其れはヴィヴィオ自身にも分かっている。ヴィヴィオの魔力特性は高速並列運用型詰まる所同時に運用できる魔力の最大値は決して高くは無い。格闘型は、向き不向きで言えば彼女には不向きなのだ。
だが……

「でも、私は格闘戦技が好きだし、ノーヴェが教えてくれるストライクアーツで強くなって行きたい」
其れにきっと、この道を歩んでいけば、何時かあの背中に追いつけると気が来るかもしれないのだ。いや、来させて見せる。もう一度、真っ直ぐに向き合いたいのだ。

「だから、クリスも、一緒に頑張ろう」
自らのデバイスに、彼女は語り掛ける。掌の上へ降りて来たクリスは、真っ直ぐにヴィヴィオの目を見ていた。

「強くなろう。今よりもっと……今日よりずっと……!」
堅く、そう胸に誓う。少女の夢は、まだ始まったばかりだ。

────

「…………」
リニアトレインの駅から降りて、少年は広がった青空を見た。
吹きすさぶ風はだんだんと温かくなり始めており、春もやがて夏へ変わり事を告げている。

「お、来たぞ?クラナ、行こうぜ」
「……うん」
ライノの声にコクリと頷いて、クラナは迎えに来た車の元へと歩き出す。
其々の特訓が、始まろうとして居た。
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

今回は全体的に原作のながれとほぼ同じものになってしまいました。
もうすこしアレンジがあったほうが良いかとは思ったのですが、何分これ以上に彼女たちのやる気を奮い立たせる展開が思いつかず……申し訳ありません。

さて、オリキャラをしてくださった皆様。まことにありがとうございます!
加えて、個別にお礼の言葉を返信できず、申し訳ありません!というのも、実は、僕ごときが募集したとは思えないほどに沢山のご応募を現在いただいておりまして、すべて返信をいたしますとその……それだけで割とすごい文章量になってしまうほどに……
それにしても、どの子もほんとに濃い!みなさんよくこんなにもうまく魔法戦技者を思いつくものだというくらい、本当に個性あるキャラクターを沢山いただいております。

中には「おおっ!」と思うような光るキャラクターもいまして、すでにどの子をどう出すかと妄想が収まらない状況です。
ただ、そんな状況なので一つ発生する事案が。
おそらくなのですが、投稿オリキャラ同士の試合は、やはり発生してしまいそうであります。中には、あるいはクラナやライノへの挑戦権を賭けた試合もありうるかもしれません。
そういった試合が発生した時、オリキャラ同士であっても試合である以上勝者と敗者を出すことになってしまうので、敗者側の投稿者様には本当に申し訳なくなってしまうのですが……

これに関しましては、原作通り。「スポーツなので恨みっこなし!」の精神でお願い致します。

では予告です。

アル「どうもです!って今回私出番ないじゃないですか!?主人公のデバイスなのに!」

ウ「私もありませんでしたね。まぁ、そういうこともあるでしょう」

ソル「私とブランゼル、リオとコロナの出番あたのに喋らないでしたヨ?」

ブランゼル「はい~。そういうことも~、ありますから~」

??「そうだねぇ。焦らないで、のんびりいこぉ?」

アル「おろ?あなたは……」

??「ボクは、アスティオンだよぉ。ティオってよんでねぇ、みんなぁ」

アル「な、なんだかアインハルトさんのデバイスとは思えないほどのほほんとした子ですね……ブランゼルみたいです」

ブ「そうですか~?」

ティ「どうだろぉ?」

ア「うん、似てます」

ウ「さて、次回は」

ア「《雷帝の末裔》です!おや?このタイトル……」

ウ「あぁ。彼女ですね。ぜひ見てください」 
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