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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百八十五話 第6次イゼルローン要塞攻防戦 前哨戦3

 
前書き
お待たせしました。

ネギま!?も1年3ヶ月ぶりに更新しています。 

 
宇宙暦795年 帝国暦486年1月30日

■イゼルローン回廊 シェーンバルト艦隊旗艦タンホイザー

「敵艦隊発見、艦数凡そ5000隻」
「敵艦隊は両翼を伸ばして当艦隊を包囲しようとしています」
オペレーターの報告にラインハルトはニヤリとしてキルヒアイスに話しかける。

「キルヒアイス、敵は此方を包囲殲滅するらしいな」
「はい、ラインハルト様」
「全艦に密集隊形を取るように命じろ」

ラインハルトの命令により艦隊は密集隊形を取った。
「全艦攻撃開始、ファイエル!」

ラインハルトの命令に従い3000隻の艦艇から10万を超えるビームとレーザー水爆の嵐が敵艦隊中央へと突き刺さり次々と爆発による光球が花開く。両翼を伸ばし包囲殲滅するつもりで中央を1000隻ほどで支え、左右に2000隻程を配する事に気を取れたのか、同盟軍側の指揮官が後手に回ったのか、レーザー水爆に対する囮ミサイルの発射が遅れたのも一つの要因であった様に見えた。

そんな様子を見ていた、ラインハルトが瞳に冷潮の波を揺らめかせながら独語していた。
「無能者め、反応が遅い!」

次々に花開く火球の数々、そんな中で一際大きな旗艦の艦橋付近にビームが命中すると、船体に大穴が空き其処から空気と共に色々な物が噴き出していく。其処には指揮官で有ろう人物も含まれているのであろうか、今まで旗艦から数限りなく流れていた指令電波が途絶し、その直後にミサイルが突き刺さると旗艦は爆炎と共に四散した。

「敵旗艦、撃破!」
オペレーターの歓喜の声が艦橋へ響く。

この戦い前の彼等は、ラインハルトを“姉の権勢により出世した俄貴族の我が儘どら息子”“門閥貴族より遙かに貴族らしい嫌な奴”“部下の手柄を横取りして出世している”などと陰口をたたき信用していなかったが、ここ最近の戦果で意外にも出来る男と考え方を変えていたが、今回の様な2倍近い敵との戦いは初めてで有ったが故に、その手腕に不安を感じていたが、それが払拭されたのである。

「敵艦隊に動揺が見られます」
「敵艦隊僅かながら後退」
敵艦隊は旗艦が撃破されたために、慌てふためいているのかそれとも戦場から逃げだそうとするのか、次第に動きが左右でバラバラになり後退し始めていくが、ラインハルトはそれを逃がすような真似はしない。

「戦列を組み直す。全艦密集隊形から紡錘陣形を取るように伝達してくれ。理由はわかるな?」
ラインハルトが命令を出しながらニヤリとキルヒアイスを見て問いかける。
「中央突破を為さるおつもりですね」
「そうだ流石だな」

キルヒアイスを介してラインハルトの命令が全艦に伝えられた。
ラインハルトの命令に従い艦隊は紡錘陣形になり一気に烏合の衆と化した同盟艦隊に突撃を敢行し始める。

同盟艦隊は慌てふためきながらボコボコにボコられる中央集団とそれと全く連携が取れない左右の艦船との間に大きな裂け目ができて行っていた。

「どうやら勝ったな」
ラインハルトの独り言に答えるかのように、オペレーターが喜色が判る声で戦況を伝える。
「敵、更に後退、敵後退の速度を速めています」

戦術コンピューターが映し出す戦場画像を見ながらニヤリと笑っていたラインハルトの顔に疑惑の層が見え始める。

「なに!」
オペレーターの驚愕の声が艦橋に響いた。
「敵が左右に分かれました!こ、これはなんと、我が軍の両翼を高速で逆進していきます!」
その瞬間戦術コンピューター画面上の敵艦隊が中央で爆砕されている1000隻ほどの司令部集団を見捨てるかのようにラインハルト艦隊の左右に分かれ全速前進していったのである。

「キルヒアイス!」
驚愕のどよめきの中で、ラインハルトは赤毛の参謀長を呼んだ。
「してやられた……敵は両手に分かれて我が軍の後背にまわる気だ。中央突破戦法を逆手に取られてしまった……畜生!」

ラインハルトは椅子の肘掛けに拳を叩きつけた。
「どうなさいます?反転迎撃なさいますか?」
「冗談ではない。俺に今までの叛乱軍司令官の様に低脳になれと言うのか」

「では前進なさるしか有りませんね」
「その通りだ」

ラインハルトも頷き、通信士官に命令した。
「全艦隊、全速前進!逆進する敵の後背に喰らいつけ。方向は右だ、急げ!」

ラインハルトの艦隊は命令に従い右舷回頭をし始めるが刹那前方から多数の光点が現れる。
「前方3時方向に敵艦隊!数凡そ5000!」
先ほどと同数の敵に艦橋ではざわめきが高まる。

「してやられた!敵にはめられた!」
「ラインハルト様、如何為さいますか?」
二人が話し合おうとする中で、オペレーターの悲鳴が上がる。

「6時の方向より先ほどの敵艦隊、後方にて集結追撃してきます!」
「10時の方向より更に5000隻ほどの艦隊来ます!」

オペレーターの悲鳴を聞きながらラインハルトはキルヒアイスに苦悶の表情で語る。
「敵は最初から包囲殲滅するつもりで罠をはっていたとは、してやられた!」
「ラインハルト様……」

ラインハルトは生まれてから初めてと言えるほどの焦りを感じていた。今まで散々馬鹿にしてきた敵の中に自分の行動を読む恐ろしい敵がいることを知って。

「どこもかしこも敵だらけだ!」
「もうお仕舞いだ!」
艦橋要員も動揺し泣き言を言う者も出る始末。

「狼狽える必要など無い、敵が三方向から来るのであれば、天頂方向へ急速離脱せよ」
その言葉に一縷の光明を見た艦橋では移動を開始しようとするが、それをあざ笑うかのようにレーダーに光点が映り始める。

「天頂方向及び天底方向より敵艦隊更に接近!総数3000隻以上!」
同盟軍は逃がすまいと更に攻勢を強めてくる。

「戦艦マルグラーフ撃沈!第2分艦隊通信途絶!」
「巡洋艦メーメル撃沈!第5戦隊通信途絶!」
「第3航空戦隊ワルキューレ誘爆に付き発艦不能!」

タンホイザーにはひっきりなしに味方艦艇の損害が入ってくるが、此処まで戦力が段違いであると天才であるラインハルトでさえ場当たり的な指示しかできなくなる。
「紡錘陣形のまま、敵の尤も薄い部分に集中攻撃、敵が怯んだ隙に突破する!」

死にたくない一心で艦隊は紡錘陣形を更に引き締め、斉射三連で包囲網の一角に穴をこじ開けるが、その穴に勢いよく飛び込もうとした艦艇が次々に火球に消える。同盟軍は後方に豊富な予備兵力を持ちあいた穴を素早く塞ぐ。

「もう駄目だ!」
「損傷甚大、救援を請う!」
「人的物的な損害多数!」

この損害にラインハルトも防衛を命ずるしかない。
「損傷した艦艇を内側にして球型陣を取れ!」
ラインハルトもこの状態では時間を稼ぐことしかできない事ぐらい判ってはいるが、何とか突破する方法がないかと思案する中で、数日前にテレーゼに言われた嫌みを思い出していた。

「あら、シェーンバルト男爵、毎日毎日弱い者虐めをして、戦術パターンの練習とは、流石に幼年学校首席卒業ですわね」
頭に来るが、流石に口答えするほど馬鹿では無いのでジッと聴く。
「男爵が、試している戦術パターンだけど、士官学校ではシミュレーションでも実技でも必修科目で習う事だから」

つまり俺は、士官学校卒業生より劣るというのか!そう思って目に憎悪の炎が漂うがそれを無視するが如くテレーゼの口撃が続いた。
「それと言っておくけど、戦場は遊び場ではないわよ、敵だって頭が切れる人物はいる、努々足をすくわれないようにしなければ、兵の命を無駄にする事に成るわよ、くれぐれもそんな真似だけはせぬ事ね」

そう言ってテレーゼは日課の傷病兵の慰問に出かけていったのであるが、それですら偽善と思っているラインハルトには只単に口五月蠅いクソ餓鬼により気分が悪くなっただけと感じていたのが、あの言葉の意味も考えずに無視したことに些かの後悔を感じていた。

そんなラインハルトを見ながら、キルヒアイスは、戦況が刻一刻と悪化する様に“アンネローゼ様、この様な事になるとは、これでお会いする事も敵わないかも知れません”と諦めモードに近いネガティブな考えをしていた。

そんな絶望的な中、包囲している同盟軍から通信が入った。
「敵艦隊より通信が入っています」
此処で通信拒否することも出来るがと考えているとキルヒアイスが心配そうな顔で見つめる。

「ラインハルト様」
「心配するな、通信には出る」

「敵との通信回路を開いて下さい」
キルヒアイスの命令で通信が繋がれると、血色の悪い青白い顔の病的な男がスクリーンに映った。
『自由惑星同盟軍宇宙艦隊参謀アンドリュー・フォーク中佐です』
「銀河帝国軍宇宙艦隊所属ラインハルト・フォン・シェーンバルト少将」

お互いに挨拶をすると、フォークが喋り始める。
「シェーンバルト提督、貴官の艦隊は我が軍の完全包囲下にあります。このままでは全滅を待つだけです」
「それで我々にどうしろと言いたいのか?」

ラインハルトの落ち着いた表情に些か気分を損ねたのか、フォークは目尻に皺を作りながら答える。
「貴官に降伏を勧告します」

ラインハルトにしてみれば、此処で巫山戯るなと罵倒したいが、既に旗下の戦力は七割近くを失い残りの半数も既に戦闘不能に陥っている。

キルヒアイスを見れば、震えているように見える。そして将兵が縋るような視線で自分を見ているのである。

ラインハルトの頭には姉のことが過り心の中で詫びた“姉上、済みません、今度は戻れません……”と。

ホンの一瞬の時間で有ったが、何年も経ったかのように感じ、踵を只して返答する。
「フォーク中佐、貴官の勧告に従い、降伏勧告を受諾する」
「諒解した。貴官と艦隊の降伏を認めます。直ちに全艦の機関を停止してください」

ニヤリと笑いながら言うフォークに苛立ちを隠せないが、俺はこの男に負けたのかという悔しさで心が痛んだ。





宇宙暦795年 帝国暦486年1月30日

■イゼルローン回廊 自由惑星同盟軍 第7艦隊ワーツ分艦隊旗艦ベロボーグ

敵艦隊を包囲した第7艦隊では歓声が上がっていた。そんな中、ヤンは策を提案してからの忙しい日々を思い出していた。

やれやれ、これで皇帝に多大なる影響を与えているグリューネワルト伯爵夫人が猫可愛がりしているという実弟を捕縛できそうだな。

向こうさんも、まさか此方が中央に無人艦を置いて光ファイバーによる遠隔操作により態々中央突破させたとは思わなかっただろうからね。まあこの数か月は給料分以上の仕事をしてきたから、これで少しは和平に近づいてくれればいいんだが、捕虜交換後の奇襲じゃ向こうさんの印象は最悪だろうし、熟々ロボス元帥の考えが浅はかすぎだ。

まあなんとかグリューネワルト伯爵夫人から弟の為に和平をと言わせればそれも何とか出来るのだろうけど、後はどうなるかだが、其処まで考える程給料は貰っていないし……」



ヤン・ウェンリーが示した策とは、敵の行動パターンが、あらゆる戦術パターンの実践教育である点を鑑み、今回の行動が中央突破背面転回戦法である事を予測し、ラインハルト艦隊の出現ポイントまで加味した2万隻近い艦艇による包囲殲滅戦を企画した物で有った。

まずこれまでの戦闘で大破した艦艇から廃棄寸前の艦艇1000隻ほどを一括りにして光ファイバーで有人艦からコントロール出来る様に改造しコンピューターに自動操艦を指令する事で、戦闘は別としてもある程度まで動かす事が出来るようになった。これは、同盟軍の艦艇制御ソフトの性能が帝国軍の物よりはるかに勝る為に出来る芸当であった。

更に念を入れて旗艦には標準戦艦を前後左右に2隻ずつ繋いでアキレウスクラスに匹敵する大きさに偽装した艦を入れる程であった。

そしてワーツ分艦隊2000隻、キャボット提督の高速機動集団2000隻を左右に分けその中央にあたかも旗艦が居るように無人艦1000隻を置きあたかも指令しているように多数の電波を出させて中央突破を誘ったのである。

ラインハルトもまさか、無能者揃いと端っから馬鹿にしている同盟軍に自分の戦術パターンを読まれているとは思わず、まんまとヤンの作った罠にかかり、無人艦を痛撃して旗艦撃沈を喜んでいたのである。

そんなラインハルト艦隊の中央突破を受け流す形でワーツ分艦隊は右翼をキャボット高速機動集団は左翼を全速で前進しラインハルト艦隊の後方に出た所で背面転回をするという正しくラインハルトの戦法をそのまま行ったかのような状態で後背からの攻撃を開始したのである。これによりラインハルト艦隊は後背から追撃させることになり損害が増え始める。

その上で、三方向及び天頂、天底方向からの包囲を行い逃げ道を完全に封鎖したのである。

本来であればわずか3000隻程度の敵に20000隻近い艦艇をくり出すことをロボス元帥が認めるとは思えなかったが、相手がグリューネワルト伯爵夫人の実弟で有る以上は、テレーゼまでとは言わないにしても価値が有るとフォーク中佐が計算し、捕縛作戦に全面的に賛成したからである。

尤も一番美味しい所は司令部分艦隊に任せる事になり、栄えある降伏勧告を告げるのはフォーク中佐と言う事で、第7艦隊側からは不満が起こったが、ヤンにしてみれば出世など関係無いが故に、最終的にはフォーク中佐の修正案を飲むことにした。

 
 

 
後書き
フォーク君大活躍は、ネタ振りですから。

艦艇の自動操縦はOVAなどだと一隻の有人艦で各艦を無線操縦する感じでしたが、今回は決戦時ですから妨害電波が酷いはずだという事と、ひとかたまりにする関係、ある程度複雑な動きをする関係、最初っから破壊されること前提にする事から、有線で接続していることにしています。

 
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