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魔法薬を好きなように

作者:黒昼白夜
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第9話 二つの顔と微妙な関係

魔法学院への帰り道に薬草も取れるコースの途中で、モンモランシーからきた話は

「貴方、最初にミス・ベレッタのことを一番親しい女友達って言ってたのに、魔法衛士隊隊員になったら、結婚を考えても良いかなと思っていた相手って言ってたわよね?」

「そうですね」

「普通、彼女とかとして紹介しないかしら?」

「もし、っというか、現状がまさしくそうなのですが、俺は魔法衛士隊隊員じゃないですよね?」

「……それは『サモン・サーヴァント』に、あなたが召喚されたから、しかたがじゃないでしょう!」

「そうじゃなくても、魔法衛士隊隊員としておこなっていくのには、俺は精神力の回復が遅いので、精神力の回復が魔法衛士隊の隊員としてなる基準を満たさなければ、やはり魔法衛士隊隊員になれなかったでしょう。幸い、回復力は今年になってクリアしたので、あとは現役の隊員が引退とか、他の理由でいなくなれば、補充されるメンバーの候補として1,2位にいたようですので、多分、今年中には隊員になれたでしょう」

「それじゃ、彼女として紹介してくれなかった理由になっていないわよ!」

「魔法衛士隊はたとえ騎士見習いなどでも、部分的な国境間の紛争へでかけることもあります。その時に、もし俺が死んだ場合に、彼女となっていた場合、どういう扱いになるかわかりますか?」

「……知らないわね」

「正式な隊員の場合には、彼女として公言していたら、婚約者だったのと、ほぼ同義の扱いになるんですよ。なので、男女間の関係にあったとしても、次の結婚相手を探して、そうだったことをだまって結婚しても、それだけで離婚とするのは男性側からでもできないんですよね。だけど、騎士見習いの場合には、下手に彼女と公言したりすると、魔法学院での彼氏、彼女と同じようにしか世間ではみません。つまり、俺が死んだりした場合には、彼女の次の結婚相手が見つかりづらいってことなんですよ」

「結婚を考えても良いかなと思っていた相手なら、婚約でもしたらどう?」

「今のような、魔法衛士隊のような系統の仕事につこうと思ったら、モンモランシーが、魔法学院を卒業して、実際にだれと結婚するかによって、そこの家と敵対する可能性の無い貴族の家で衛兵として入り込むっていうのが、一番てっとり早いんですけどね」

「貴方の中には、戦う関連の仕事しかないのかしら?」

「魔法衛士隊隊員をめざしてきましたからねぇ。それ以外だと、ある程度自信があるのは、水メイジとしての趣味でおこなっている分野ぐらいですから魔法薬売りとか、あるいは医師に魔法学院の教師も可能かもしれませんが、職業としてつくのは見習いとか助手からでしょうね。しかも、より若い相手と競いながら……っということで、モンモランシーが魔法学院を退学して、エギヨン侯爵あたりと結婚でもしてくれるならば、魔法衛士隊隊員を再度目指せるかもしれないだけどね」

「あの、ろくでなしのエギヨン侯爵ですって!」

「冗談ですよ。さすがにエギヨン侯爵の妻になるのは、嫌ですよねぇ。それに子どもが生まれたあとは、どうなるかわかりませんし。まあ、卒業後でもそれほど危なくないのは、どこかの領主の代官をねらってみるというのも、悪くはなさそうですけどねぇ」

「なんなら、貴方のご実家の代官になられたら?」

「それこそ、最後の手段ですね」

「なぜかしら?」

「今の代官には、代官見習いがついています。彼の息子でね。その地位を奪うことになるから、代官見習いに変わる職をさがさなきゃいけないけれど、あいにくと俺より年上だから、他所の領主のところへ代官にいってもらうってところでしょう。しかし、自分がその他のところにいけないのだから、紹介先なんてあるわけないんですよ。そうしたら、代官ごと出ていってもらうことになるかもしれないし、そうなると今までいた、執事やメイドもそんな俺に嫌気をさして、城そのものの運営さえうまくいかなくなるかもしれない……なんて可能性もあるんですよ」

「貴方、平民をそこまで、かっているの?」

「っというよりは、平民は我々貴族がいなくても最終的に生活はしていけますが、現在の貴族は平民がいないと食料や飲み物などは、今のレベルで維持することは不可能なんですよ」

「今のレベルの維持?」

「そう。貴族が農業など、自分で行なうってことですよ。そうした場合、今の生活レベルを維持していくことが不可能なのは、当たり前なんですよ」

「けど、そうしたら平民も生活のレベルの維持は難しいでしょう?」

「そうですね。けれども、レベルの下がり方はそんなに下がらないか、逆にあがるかもしれませんよ」

「えっ? なんで?」

「平民の中にもメイジがいるってことですよ。彼らが、純粋な兵力や、土の改良業務や、医者などに従事するのなら、貴族への納税は必要なくなる。まあこれは平民にとっての理想論であって、実際には何らかの国家が誕生するでしょうから、その納税額次第ってところですかね」

「貴方、何か考え方がゲルマニアに近くない?」

「ゲルマニアの正確な情報を知らないので、なんともいえませんが……家の領では翼竜人と共存しているから、そんな考えが思いつくのかもしれませんね」

「翼竜人と共存?」

「ええ、まあ。昔は本格的な戦いになりかかったこともあるらしいのですが、一緒に協力するならば、より互いの条件がよくなるってことでしてね。あまり詳しくは聞いていないですけど、今は貨幣の代わりとして塩がこちらから送られて、翼竜人が森の中のものをわけてくれたりしていますよ」

「まあ、その話は難しくなりそうだし、別に良いわ。ところで、なんで平日じゃなくて、今度の虚無の曜日の前日に会うことにしたの?」

「それなら、彼女はアルゲニア魔法学院の生徒ですから」

「アルゲニア魔法学院って、法衣貴族の子達が入る魔法学院のこと?」

「そうです。だから、授業が終わってから話しあうっていっても、深夜までかかっても話は終わらないかもしれません。そうすると、翌日は魔法学院がありますから、休ませるわけにもいきませんから。そうしたら、俺のほうが何日トリスタニアに泊まることやら」

「貴方が何を話そうとして、そんなに長くなるのかよくはわからないけれど、本当に聞きたいことじゃないから……ところで、彼女が言っていた浮気って?」

こっちが本題のつもりだったかな。

「ノーコメントじゃいけないですかね?」

「なら、2週に1往復の護衛以外は、貴方が暇になるだけよ」

その2週に1往復の護衛も、こんな風に話すこともなくなるんだろうな。学園内で使い魔だということで、格下にみるのも多いから、これは白旗をあげるしかなかろう。

「詳しくは話せませんが、彼女と知り合った時には、彼女が荒れていた時期でしてね。その時に俺も複数のご婦人とおつきあいがあったのを、彼女は知っているんですよ」

「複数のご婦人?」

言葉を選び間違えた。複数の女性とつきあっていたとでもしておけばよかったかな。

「どういうことよ!」

「モンモランシーは聞かされていないかもしれませんが、晩餐会とかパーティとかには二つの顔がありましてね。表の顔は魔法学院でならっていることどおりなんですが、裏の顔もあるんですよ」

「裏の顔?」

「いつかは知るかもしれませんが、特段知らなくても良いことですよ?」

「まずは聞かせて」

「本当にですか? 多分、モンモランシーにとって、あまり気分の良い話じゃないと思いますよ」

「いいから!」

「社交界の裏の顔っているのは、基本的には夫婦、もしくはどちらか片方が、社交界のダンスをしているときに浮気相手を探すんですよ」

モンモランシーがだまって、聞いているので、そのまま話を続けることにした。

「そんな時に彼女からダンスのお誘いがあって、ダンスの最中に合図があったから、てっきり早く結婚して、旦那に不満をもっている若いご婦人かと思ったのですよ。それが、俺に残っている最初の彼女の記憶です。しかし彼女の方は、俺がそういう合図の受け答えをしているのを何回か観ていたそうで、誘ったそうですよ。だから、最初のころはお互いに複数の相手がいましてね」

「……そんな破廉恥な! もう聞きたくない!」

その後は、薬草もとらずに、魔法学院に帰ることになった。モンモランシーの不機嫌そうなのは、予想とおりだったが、ストレートに話すぎたかなぁ。



モンモランシーはモンモランシーでおつきあいもしていない相手に対して、なんで怒っているのか、怒っていること自体気が付いていなかったのだが、多少は気を許し始めていたジャックに浮気癖があるのということを気に入らなかっただけ、ということに気が付いていなかった。



そうして魔法学院の馬を返して、モンモランシーについていって女子寮に向かおうとしたら、

「今日は、少し一人で居たいわ。だから、夕食の時になったら呼びに来て」

「わかりました」

モンモランシーとは特になんともないが、浮気という話を思いだすのがいやなんだろうな。それでも、普段の体面を保たせようと周辺の人間へみせたいのだろう。プライドが高いというのもあるが、体面を気にかけるタイプなのかな。

夕食までは、俺も部屋からでない方がよかろうと、部屋で実験をしていたが、夕食時になって、モンモランシーの部屋でノックをしたら

「どなたかしら?」

「ジャックです」

「今、でるから待っていて」

とそれだけの会話で、部屋を離れることになって、夕食も席は隣だが、モンモランシーと俺が直接話すのは、今日のトリスタニアの話題で同意をもとめるときぐらいだった。まわりからみたら、普段より俺への会話をふるのが少ないぐらいにしか、見えないぐらいであろう。もともと俺もモンモランシーの友人関係には積極的にかかわっていなかったしなぁ。夕食後は、いつものように食堂でわかれたが、明日からしばらくは、こんな感じなんだろうか。



その頃、ジャックとモンモランシーの二人の使い魔と主人という、微妙なバランスの上になりたっていた関係をくずしかけてたティファンヌ・ベレッタは、自宅の自室で今日の話を悩んでいた。
なんせ、初めて他人がいる前で「結婚を考えても良いかなと思っていた相手」と言ってくれたのである。今までも二人だけの時には、魔法衛士隊の隊員になったら、きちんと彼女として公言してもよいし、婚約の話にもっていっても良いとか言われていたけれど、自分を引き止める話術のひとつかもと、疑っていたところもあるからだ。
しかし、逆に「思っていた」と過去形だったのもあり、別れ話を切り出されるのかとも不安だったりしていた。
 
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