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覇王と修羅王

作者:鉄屋
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合宿編
  二十二話

 
前書き
お待たせしました。 

 
 それは、ふとした気まぐれだった。
 再び部隊を指揮する席、今度は部隊長よりも上の司令となり、偶々出来た空白の時間。はやては郊外に足を向けていた。
 酔っていた、のだろう。何気なしでなんとなく、ふわふわした気持ちで歩いていると、一際大きい罵声が耳に入る。
 なんだろう、野次馬のような図太い声が多い、ような? 引かれるように近づいて行くと、大勢とまでは行かないがそこそこ集まっている人の輪があった。
 輪の外からひょいと背伸びして、では背が足りず、軽く飛んでみると大人と対峙する子供が見えた。丁度、自分の道場で頭角を現してきた子と同世代。
 これは噂に聞くストリートファイターか? 小首を傾げながら見ていると、真円を描く子供の蹴りが大人のこめかみを捉えた。
 綺麗に決まったなぁ、と讃頌しながら降り、一番近くの男に近付き声を掛けると、輪が散った――――管理局と言ったあたりで。
 そうして逃げ出す人々の中に、訳が分からずぽつんと一人子供の手を取り、警防署に連れ立った。それが、アレクとの初対面だった。

「あ~、なんかそんな話をけっこう前に聞いたな。警防署に行ってたって聞いてやたら慌てたっけ」
「確か……夜分遅くご帰宅なされた時でしたか?」
「そうそう。その時は王の血統とか話にも上がらなかったし、全然気づかんかったけどな~」
「でも生意気そうな子だったな」
「まだまだやんちゃ盛りかもしれんけど、良し悪しの判断は出来るようになったみたいやし、とりあえずええんやない?」

 そんな事もあったと相鎚を打つヴィータとシグナムに、はやては懐かしいとばかりに出会いを思い返していた。
 アレクを警防署へ連れて行く最中、なにかと酒臭いと言われたが、暴れるような事はしなかった。警防署に着き、厳つい男と対面した時、本気で逃げ出そうとしていたが。
 尤も、すぐに捕まり鉄拳を下され、とても良い悲鳴を上げていた事はよく憶えている。

「でも王関係は、なにかと事件で知り合うよなぁ」
「あ~……それは確かに」

 ヴィヴィオ、そして聖王教会で眠るイクスも事件を通して知り合った。アレクとアインハルトは事件とまでは行かないが、問題を起こして存在が露わに成った。
 今世、王の血筋とは何かと事件に係わる星の下に生まれてくるのだろうか。八神一家はふと気になった。


 ◇ ◆ ◇


 陽気な日差しの下、カルナージの面々はピクニックへと赴いていた。
 本日の午前は大人組も休息で、一際高い丘にて各々に羽を伸ばしている。
 そんな中、アインハルトはどうしたものかと頭を捻っていた。興味津々で訊くルーテシアの質問で。

「実際のとこ、アレきゅんとはどーゆー仲なの?」
「どういう仲と言われましても……。強いて言うなら、同じく受け継いだ血筋や資質。同族……のようなものでしょうか」

 どういう仲だろう。実際の所、アインハルトにも分からない。
 友人……とは言えないだろう。ライバル……も何か違う気がする。思い付く確かな事は、同じく王の血筋として生まれた事のみ。他には、ティアナに目を付けられた仲でもあるが、それは口にしない。
 だが、その答えはルーテシアが望んだものでは無い。

「じゃあ、寄り合って寝てた訳は?」

 写真付で再度問うと、アインハルトの頭は沸騰した。

「こ~んなに仲良さげなんだから、勿論それだけって事は無いでしょう? ほらほら、お姉さんに教えなさいって」
「そ、それは……その、あの……」

 アインハルトは落ち着きなく視線をあちらこちらに彷徨わせた。
 戦い以外で身を寄せる理由は、世継ぎを作る為の関係――アインハルトの一方的な解釈だが――が真っ先に浮かぶが、口にできない。アインハルトも所構わずオープンな痴女になる気は絶対に無い。一応、リードしてほしいという女の子らしい願望だってある。それに、羞恥心に加え、聞き耳を立てるティアナから又もや胸を抉られるような言霊を放たれるかもしれないのだ。この場で言える筈が無い。
 こんな質問を素で答えられるアレクはエリオと共に丘を駆け下り、デバイスであるストラーダをボード代わりにエアサーフィンを楽しんでいて此処に居ない。
 どうしよう。困り果てたアインハルトの耳に、助けのような声が聞こえた。

「そう言えば、ヴィヴィオはどうして?」

 コロナが同じ事をヴィヴィオに訊いていたので、ルーテシアの意識も其方へ行った。

「なんか、途中から楽しくなってきちゃって」

 昨夜、ヴィヴィオはアインハルトと共にアレクを強襲したが、怒りに身を任せたのは最初だけ。すぐに怒りなど消え失せていた。何処か壁のあるアインハルトとアレクが身近に感じられ、とても嬉しかったのだ。
 照れ臭そうに話すヴィヴィオに、へぇ、とコロナは相槌を打つ。その傍らで同じく聞き耳を立てていたなのはは、珍しいと内心でごちた。

 なのはにとって、ヴィヴィオは誰とでも分け隔て無く接する事が出来る自慢の娘であるが、じゃれ合う相手は本当に仲が良い者だけだ。それも同い年ではなく年上となれば尚更である。
 もしかしたらヴィヴィオは既に……。一昨日に話していた事が頭を過ぎった。
 昨日、アレクの実力を見た限りでは伸び代は十分にある。ただ、異常な身体作りは気になる上に、ヴィヴィオが危惧した龍らしきものも見ていない。既に大切な人となっているならば、ヴィヴィオはアレクの為に迷わず行動に移し、無茶をも通すだろう。
 フェイトはどう思ったか、と目配らせるが、ちょっと危ない遊びをしているエリオとアレクをはらはらしながら見守っていて気づいてない。
 ……もう暫くの間、見守っていよう。アレクは身体捌きから誰かに指導されていると判るし、技の冴えから忠実に教えを守ってきたと伺える。やんちゃが目立つだけで、根は真っ直ぐなのだろう。ストラーダに乗って飛び立つアレクを見て、そう判断を下した。
 とは言え、気になるものは気になるので、なのはは再び聞き耳を立てた。

「ってことはアレきゅんに気があるのかなぁ?」
「気になってはいるけど、気があるのとは違うような……」
「じゃあ嫌いなの?」
「そっ、そんな事絶対無いよ!」
「じゃあ好き?」
「えっと、うぅ~……もう! ルールーの意地悪ー!」

 ヴィヴィオが声を荒げるが、ルーテシアはにやにやとするだけであった。
 ついでにアインハルトを盗み見ると、若干ながらも心穏やかでは無い様子。祖先の因縁しか口にしていない割には、行き過ぎた反応だ。
 なんとなく関係が見えてきたルーテシアは、脹れるヴィヴィオを執成しながら矛を収めた。
 更に突くにしてもまだ早く、明日には発ってしまうので後の反応も見れやしない。なので続きはミッドチルダに行った時、アレクも加えた方が面白いだろう。

(でも、発破かけるくらいなら良いよね?)


 ◇ ◆ ◇


「――――ックショイッ!」
「うわっ!?」

 華麗なる着地を決めたアレクにエリオは近寄り、ストラーダを受け取った所で盛大な飛沫を受けた。
 だが、度重なる戦闘訓練で培った反射神経で、ガードし事無きを得た。尤も、ガードに使ったストラーダは盛大に汁塗れになっているが。

「風邪ひいたの?」
「いや、なんかこう……渦巻く陰謀を感じて、悪寒が鼻にきたような?」
「それ、風邪なんじゃない?」
「いや、絶対違う。ルルさんあたりから悪しきオーラを感じた」
「それは……どうだろ」

 この世界、カルナージは一年中温暖な気候だが、流石に朝はちょっと冷える。外で寝ていたアレクが風邪を引いていても可笑しくないだろう。エリオはテカテカと訴える様に光るストラーダを謝罪するように拭きながら訊くが、アレクは否定し、次いでルーテシアの所為と断言する。
 流石にそれは言い過ぎ、とエリオは思うが、否定しきれない部分はあった。今朝の写真への食い付き様は、なかなかどうして執拗だった。

「女ってのはどーしてこう、色々とくっ付けたがるのかねぇ?」
「うーん。……女の子だから、としか言いようが無いね」

 色恋沙汰に華を咲かせる事はしょうがない。特に、辺境では娯楽が少ないので、ルーテシアがはっちゃけるのも仕方ない。自然保護隊隊員のエリオも辺境任務時によく訊かれたていた。キャロとはどうなの? とか、特に女性隊員から凄く。辺境での娯楽は専ら会話から始まるので仕方ない部分もあるが、もうちょっと慎ましくならないものか。

「エリオー、アレクー! お昼だよー!」
「……もう昼なんだ。遊んでると時間が過ぎるのって早いね」

 遠くから呼び掛けるフェイトに気づき時刻を確認すれば、もう昼に差し掛かっていた。
 あそこにはルーテシアも居るので近寄りたくないが、腹が減っていては抗う事も出来ぬ。

「仕方ない――――逝くか」
「アレク、明日までの辛抱だよ」
「……だといいけどな」

 励ましとも諦めとも取れるエリオの言葉に、アレクはため息を吐きながら頷いた。



「…………で、なしてこーなる?」
「僕に訊かれても……」

 アレクの問いに、エリオは分からないと首を振った。
 昼間は不気味な程、平穏に過ぎていったが、夜に成った今、ルーテシアの悪巧みが再発していた。
 ルーテシアはベッドの上に腰掛け、自分の膝を叩きながらアレクを呼ぶ。

「ほら、おねーさんの所にいらっしゃい」
「……エリオ、お呼びだぞ」
「呼ばれてるのはアレクだよ」

 アレクはカルナージに来てから、枕が変わった故、満足に寝れて無い。これについてはアレクも元々承知していたので特に不満を口にする事はなかったが、ヴィヴィオやルーテシアも良い顔はしなかった。ヴィヴィオは招いた側であり支障が有る事を許せない。
 だが、枕は備えの物しか無く、無人世界なのですぐさま買いに行けるものではない。今回は仕方ない、ということになったのだが、それで全て流せるほど無責任な者はこの場に居なかった。
 なので、次回アレクが来た時、心地良く熟睡出来る為と、ルーテシアは確りと調べることにした。ただ、膝枕という明後日の方法なので、本気なのかどうなのかはアレクに判断できなかった。
 それに、わらわらと同世代が集まる所でこんな事はできやしない。どんな羞恥プレイだ。アレクは肘で突き、バトンタッチとエリオを促すが、同じく肘で押し返された。エリオも色々な視線が集中する羞恥プレイの刑は嫌だった。

「ほぅら、恥ずかしがらずにおねーさんの所へいらっしゃ~い」
「……ぜってー楽しんでやがるだろ?」
「そんな!? 私はアレきゅんが安眠できるようお手伝いがしたいだけなのに! そんなふうに思われてるだなんて……おねーさん悲しいわ。よよよ……」
「嘘泣きすんな」
「バレた?」
「バレバレだ」

 てへ、と可愛いらしく舌を出すルーテシアに、アレクはジト目で頷いた。
 だが、バレればこの茶番は終わりだろう。そして、後は適当に夜を越せば無問題――――と思うのはアレクだけだった。

「じゃあ、おふざけは終わりにして。……さ、アレきゅん、おいで」
「………………は?」

 膝を叩き招くルーテシアに、アレクの目は点に成った。

「おふざけは終わったんじゃねえの?」
「うん、終わったわよ」
「じゃ、なんで?」
「おふざけ無しで調べるからよ」

 マジだったの? と視線で問うアレクに、ルーテシアは確りと頷いた。
 お茶目が過ぎるルーテシアも根は善人であり、遠くから遥々泊りにきた者が不満を持つ事など見過ごせないのだ。
 だがアレクからすれば、真面目に成られても困る。やる事は膝枕に変わりはないのだ。
 アレクも男なので嫌かと問われれば、嫌ではない。寧ろ興味はある。ただ、周りの好奇な視線で羞恥心が掻き立てられるだけだ。
 そんなアレクの心境を、ルーテシアは読み取った。

「アレクは見られたくないみたいだし、ヴィヴィオ達は席を外してくれる?」
「えぇ~」
「男の子にも色々あるのよ。ね、エリオ?」
「……うん、まあ、そうだね」

 ヴィヴィオは不満を口にするが、視線を向けたアレクは大きく頷いたので、渋々と部屋を出て行く。
 そして、続いて出て行く面々の中、ちらりと此方を見たアインハルトに、ルーテシアは意味有りげな笑みを送った。

「っ!?」
「アインハルトさん?」
「……あ、いえ、なんでもありません」

 ぱたんと閉じられた扉に向けルーテシアは、効果有り、とほくそ笑んだ。種は蒔いたので、後はどんな芽が出るか、である。
 ルーテシアの見立てでは、アインハルトも無自覚な部分が多い。例えば――――人付き合いが下手なのにアレクの傍を離れないのは何故か。
 悲願の為、とアインハルトは答えるだろうが、ルーテシアはそう思わない。先祖とは関係無い情が多分にある、と見て取れる。因縁等々を押し殺して傍に居るかもしれないが、其処まで器用ではないだろう。
 それに、ヴィヴィオとの事もある。負の感情がヴィヴィオに向かないよう自分に仕向けたが、果たしてどうなるか。

「なぁ~に企んでやがりますか」
「企むなんて人聞きの悪い、ちょっと後押しするだけよ」
「なんの後押しなんだか……」

 疑わしい視線をルーテシアはどこ吹く風で躱し、三角形になりつつある関係、その一角をこっちへ来いと膝を叩いて招き寄せた。

 
 

 
後書き
色々忙しかったので8月最初に執筆し始めましたが、こんな感じで遅れました。

夜中、爆睡中にエアコン(暖房)のスイッチオン!
    ↓
かるい熱中症&脱水症状に陥る
    ↓
涼しい環境で冷たい物を食って飲みまくる
    ↓
 超 下 痢 っ た !
    ↓
回復したっぜヒャッハー!!(調子に乗って塀飛び越え)
    ↓
着地失敗して捻挫&打撲(全治一週間)←今ここ
 
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