暁 〜小説投稿サイト〜
蒼天に掲げて
五話
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照姫は涼しい顔をしながら話を続ける。

『もうすでに五胡の人達が影響され始めてるの、この外史では五胡の人達は最初からあまりいい考えをもってなかったんだけどね』

(なるほどな、俺が一人でいったところで意味はないと)

『ええ、だからこそ貴方にお願いがあってきたんだけれど……』

 少しいいにくそうにする照姫に、俺は心外だとでもいうように首を横に振る。必死に土下座を抵抗しながら。

(今さらだろ、どんな内容でもお前が最善だと思うなら従うさ)

『……そ、そうよね! 柏也は私の使いなんだもの、なんだってやってくれるわよね!』

(いや使いではないんだが、なにすりゃいいんだ?)

『貴方にはまずどこかの国で仕えてもらいたいの、別に貴方が国を作ってもいいのだけれど、できるだけ早く天下を治めてもらいたいから』

(国をつくる度量なんて俺にはねえよ、どの国でもいいんだな?)

『ええ、どの国でもいいわ。そこで貴方が活躍してくれれば天下だってとれるでしょ?』

(なんともすごい期待のされ方だが、まあがんばろうじゃないか)

『お願いね。でも本当に大丈夫? 国に仕えるってことは敵を、人間を殺すことだってあるのよ?』

(いいたくないが三国志の時代じゃ仕方ないだろ。誰も殺さずなんてできる奴は一人もいねえよ)

『でも、貴方はまだ誰も、人を殺したことなんて――』

(大丈夫だ、なんとかなるさ)

 俺が自信たっぷりにいうと、照姫は少し嬉しそうに口元をゆるめる。

『ふふ、貴方がいうと説得力ありすぎるわね』

(そりゃ五年間この森で生き抜いたんだからな)

『そうだったわね、それじゃあお願いしてもいいかしら?』

「ああ、任せろ。あととりあえずその念力を止めろ」

「誰かそこにおるのか?」





 森に入って早や一刻(約二時間)、儂はこの異常な事態にかなり困惑していた。

 おかしい、ここまで歩いたのに狼はおろかウサギさえ出てこないとは。
 昔は少し入ればすぐに狼共がわらわらと出て来おったのにのう。

 まあ既に十年前のことじゃからそこまでおかしくはないのじゃが、しかしここまで数が減るものかと首をひねらずにはいられなんだ。

 ふむ、もしや何者かが狼を狩っているのではないじゃろうか?

 しかし誰が? という疑問と、こんな荒くれの狼共をどうやって? という疑問によって、その考えを捨てようと思ったが、その時人間の声が聞こえた儂は、もしやと思ってしまった。

「ああ、任せろ。あととりあえずその念力を止めろ」

「誰かそこにおるのか?」






 五年間森にいて初めての人の声を聞き、俺はびっくりしすぎて木から転げ落ちることになった。


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