第十一話 ヴァンフリート割譲条約
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エルネスト・メックリンガー
イゼルローン要塞に入港し艦を降りると懐かしい顔が見えた。
「ケスラー提督、わざわざ出迎えてくれたのか」
「久しぶりだな、メックリンガー提督」
「ああ、久しぶりだ。こうして直接会うのは四か月ぶりか……」
久闊を叙した後、彼の案内で彼の私室に向かった。当たり障りのない話をしながら歩く。不便な事だ、昔と違って周囲の目、耳を気にしなければならないとは。彼の部屋に入りソファーに座る、彼の出してくれた白ワインを口に含んだ。ふむ、少し酸味が有るが悪くない、爽やかな香りが口中に広がった。
「わざわざ回廊まで来て訓練とは、御苦労だな」
口調に笑いが有る。私が何故ここに来たのか、大よその予想は付けているのだろう。
「元帥閣下の御命令だ。辺境で訓練しつつ卿に色々と確認して来いとの事だ」
「やはり気になるか」
「そのようだな。まあ無理もない事だが」
私の言葉にケスラー提督が頷いている。
「ここに来る途中、アムリッツアで彼に会った。卿に宜しく伝えてくれと言われたな」
「それは……」
ケスラー提督が苦笑を浮かべた。
「私が何故辺境に来たか、おおよその見当は付いていただろうが穏やかな笑みを浮かべていた」
「なかなか心の内を読ませない……、手強いだろう」
「ああ、手強い」
お互い誰がとは言わない、言わなくても分かっている。エーリッヒ・ヴァレンシュタイン、黒姫の異名を持つ海賊だ。用兵家として謀略家として、そして商人として彼が手強い事は皆が知っている。しかし何より皆が驚くのはその自制心だ。どんな時でも自分の立場を危うくすることは無い。そして気が付けば常に優位な立場に居る。
ケスラー提督がイゼルローン要塞を任せられたのは黒姫が反乱軍と結んだ条約が原因だった。黒姫がイゼルローン回廊の使用権を持つ以上ただ戦うだけでなく黒姫との協調も不可欠となる、そして監視も。それを行える人間としてケスラー提督が選ばれた。反乱軍の軍事力が衰えた今、主なる任務はそちらだ。
「メックリンガー提督、彼の事を話す前に一つ聞きたい事が有るのだがな」
「何かな」
「オーベルシュタインが憲兵総監になったがあれはどういうことだ」
ケスラー提督の問いかけに思わず顔を顰めた。
「前任者のオッペンハイマーが何を考えたかローエングラム公に賄賂を贈った。それが理由で更迭、後任者がオーベルシュタインになったのだ」
「賄賂……、馬鹿な」
ケスラー提督が首を横に振っている。全く同感だ、こっちも首を振りたくなる。
「オーベルシュタインを憲兵総監にするには反対する人間も居た。しかし、他に人が居ないのも事実だ……。何度も公は卿が居ればと嘆いていたな、もっともイゼルローン要塞を任せられるのも卿だけだと言っていたが……」
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