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冥王来訪
第一部 1977年
霈 その2
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がら話し続けた
「妹さん達のような若い婦女子を前線には送りたくない気持ちは私にも判る。
しかし昨今の国際情勢の下では何れ、動員令が下って、前線へ出さざるを得なくなるやもしれん。
それに、なんでも戦術機の訓練学校にいるそうではないか」
精悍な顔つきになり、男に尋ねた
「何を仰りたいんですか」
男はマッチを取り出し、ゆっくりとタバコに火を点けた
「婦人はね、結婚すれば前線勤務の免除を条件とする案を中央委員会の議題にしようかと思ってね。まあイスラエル辺りでは、実施されている方策だから、わが国でも同様の策を取り入れても問題はないと考えている」
男の話の内容から、彼は、既婚婦人兵の前線勤務免除が確定済みなのを確信した
タバコの灰をゆっくりと灰皿へ落すと、彼の方を向いた
「私はね、君の様な好青年が独り身で戦死するようなことを減らしたいと考えている。
仮に家族が居れば、考え方も変わるだろうと」
彼は驚きながら、周りをうかがった
アーベルは、今までに見た事のない、優しげな表情で、見返してきた
少将は、新しいタバコに火を付けながら、真剣にこちらの話を聞いている
「甘く幻想的な考えかもしれんが、君の様な男を見ていると、年甲斐もなくその様な夢を見たいと思えてしまうわけだよ」
そう告げると、タバコをゆっくりと外し、右手で灰皿に押し付け、火を消した
「なあ、アーベル、シュトラハヴィッツ君、そうであろう」
二人は深く頷いた
少将の顔がほころんだのが見える
彼も、やはり、一人の父親であろう
将官ゆえに、政治的発言は慎んでいるが、やはり愛する娘の事を思う人間なのだと
冷徹な鉄人ではないと言う事を、あらためて認識した
男は、冷めた茶を飲み干すと、再び、彼に向かって話し始めた
「君は、我が国の独自外交だ、武器輸出による国際的地位の確立だの、言っているそうだがね。
それは無理な話だよ」
ベルンハルトは、再び尋ねた
「なぜですか。今ソ連の力が弱った時に……」
男は、再びタバコに火を点けた
彼の顔を見ぬまま、喋る
「我が国はソ連の後ろ盾があったからこそ、ある程度社会主義圏で、自由に振舞え、西側に影響力を行使しえた」
下を向いていた顔を、起こす
「その後ろ盾が無くなれば、どうなる。
この民主共和国は、恐らく20年も持たずに消え去るやもしれん。
チェコやハンガリーでの反動的な運動が盛んになれば、何時か、この国に飛び火するか」
何時になく真剣な表情で、彼の顔を見つめながら
「農業生産品や工業生産品もソ連から滞っていて、社会生活を何とか維持できるかも怪しくなりつつある。だからこそ……」
少将が声を遮る
「西側に近寄ると……」
男は、少将の方に振り向いた
「いや、違うな。《挙国一致》体制で乗り切るんだよ」
黙っていたアーベルが答
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