第十一章 至垂徳柳
[1/35]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
1
天王台第三中学校の体育館は、全校生徒が集まっているにもかかわらず、賑やかさなどは微塵もなく、むしろ、どんよりとした静けさに包まれていた。
現在、臨時朝礼の最中である。
壇上に、樋口大介校長が立って、生徒たちへ向けて話をしている。
昨日に起きた、第三中学校の生徒が巻き込まれた事件についての話である。
どのような事件であるかを考えれば、唾を飲む音も聞こえそうなこの静寂も当然と思うだろう。
二年三組の平家成葉が、狂犬の群れに襲われて、死亡した。
同じく二年三組、大鳥正香が、行方不明。
昨夜からテレビ、ネット、様々なメディアで報道されている。
大鳥正香については、名前までは報道で公表されてはいないが。
噛み殺された子と、同じクラスの生徒が現在行方不明。二人が直前に喧嘩していたらしいことから、殺人事件についてなんらかの関わりを持っている可能性があり、現在捜索中である。
大鳥正香については、このような扱いだ。
その行方不明の女子生徒が、野犬をけしかけたのでは。
いや、単にショックで立ち去っただけでは。
ならば、自殺している可能性も高いのではないか。
各メディアでは、様々な憶測が飛び交っている。
そうした情報のあること、みな知って理解した上で、校長の話を聞いているのである。
校長の話は、とりたてて独創的なものでもなく、ある意味ひながた通りのものだ。
まずは、事件の概要を説明。
この中学から、このような被害者を出してしまったことを、責任者として謝罪。
喧嘩と事件の繋がりなどまだ分からないが、残った生徒たちには、普段から悩みを相談しあうなどして抱え込まないように。
と、このような話である。
嘘ばかりだが。
なにが起きたのか、真実を校長は知っている。
知っていることを知っているから、全校生徒たちのちょうど真ん中あたりに立っている令堂和咲は、そんな嘘っぱちな話など全然聞いておらず、口をきゅっと結んで俯いていた。
仕方ないのは分かっているが、話を聞いていても、不快で、腹が立つだけなので。
しかしながら、というべきか、黙っていると当然ぐるぐる頭の中を回るのは、正香と成葉のことだ。
いつも、穏やかな笑みを浮かべていた正香。
いつも、無邪気にはしゃいで周囲を明るくしてくれた成葉。
もう、その二人はこの世にいない。
付き合いの長短など関係なく、彼女たちは自分にとって、かけがえのない親友だった。
二人を失ったことは、どんなに泣いても泣き足りないくら
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ