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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十七話 一時間がもたらすもの
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目で中佐を見た。中佐の身体が微かに震えている。怒り? それとも恐怖?

「バグダッシュ少佐、ヤン中佐は知っていましたよ、リンチ少将が自分達を置き去りにして逃げることをね。その上で彼らを利用したんです。リンチ少将のした事とヤン中佐のした事にどれだけの違いがあるんです。五十歩百歩でしょう」

何て事を言うんだ、本気か? ミハマ中尉が驚いた表情でヤン中佐を見ている。はっきり否定しなければならん。
「いい加減にしろ、少佐! リンチ少将は守るべき民間人を見捨てた卑怯者だ。中佐は民間人を守ったのだ、それを誹謗する事は許さん!」

「話を戻そう、あの基地はイゼルローン要塞攻略戦では重要な役割を果たす。貴官はヤン中佐がそれを分からないほど愚かだと言うつもりか?」
「落ちませんよ、イゼルローンは」
「!」

ヴァレンシュタインは笑っていた。明らかに嘲笑と分かる笑みを浮かべている。
「イゼルローン要塞は後方に一つぐらい基地が有ったからといって落ちる程ヤワな要塞じゃありません。だったら敵を誘引して目障りな連中もろとも始末したほうがましです、そうでしょう、ヤン中佐?」
「……」

優しい声だった、だがその声には明らかに毒があった。そしてヴァレンシュタインは毒を吐き続けた。
「私はヤン中佐は必要以上に犠牲を払う事を嫌う人だと思っていました。だから第五艦隊に行ってもらったのですが、どうやら私は貴方にとって必要な犠牲だったらしい」

「嘘です、そんな事嘘です。嘘だと言ってください、中佐」
ミハマ中尉が泣き出しそうな表情でヤン中佐に話しかけた。思わず俺はミハマ中尉を、ヴァレンシュタインを怒鳴りつけていた。
「嘘に決まっている! 少佐、一体何が気に入らないんだ、邪推にも程が有るぞ!」

「何故怒るんです、バグダッシュ少佐。必要な犠牲の中には少佐も、そしてミハマ中尉も含まれているんです。怒るなら私にではなくヤン中佐にしてください。それにしても随分と嫌われたものだ」

冷笑、そして嘲笑。ヴァレンシュタイン少佐の言葉にヤン中佐の表情が歪んだ。そして少し俯くと溜息を吐く。中佐がヴァレンシュタイン少佐に視線を向けた。瞳には後悔の色が有る。まさか、事実なのか……。

「そうじゃない、そうじゃないんだ、ヴァレンシュタイン少佐。私はヴァンフリート4=2への転進を勧めたが司令部の他の参謀に反対され意見を通せなかった。最終的にはビュコック提督が決断し、ヴァンフリート4=2へ向かったが一時間はロスしただろう。貴官の言う通りだ……」

沈黙が落ちた。ヤン中佐は視線を落としミハマ中尉は安心したような、困ったような顔をしている。そしてヴァレンシュタインの表情は厳しいままだ。他の参謀に反対された、新参者という事で部外者扱いされたという事か……。或いは中佐の配属そのも
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