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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第一話 亡命者
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は無言で頷いた。第五次イゼルローン要塞攻防戦は同盟軍の兵力は艦艇約五万隻、帝国軍はイゼルローン要塞とその駐留艦隊約一万三千隻で行われたが、その結末は悲惨なものだった。

帝国艦隊全体が要塞に向って後退を始めた時、同盟軍は並行追撃作戦を行い両軍の艦艇が入り乱れる乱戦状態になった。射程内でありながらトール・ハンマーが撃てないという事態を生み出した同盟軍は一気に要塞を攻略しようと攻勢を強めたが、進退窮まった帝国軍はトール・ハンマーの発射を命令、味方の帝国軍艦艇ごと同盟軍の艦隊を粉砕した。

並行追撃作戦は失敗に終わり、同盟軍は残存兵力をまとめて撤退している。同盟軍総司令官シトレ大将は無念だったろう。まさか帝国軍が味方殺しをするとは思わなかったはずだ。あれさえなければイゼルローン要塞は攻略できたかもしれない。

「撤退中の同盟軍に一人の帝国軍人が亡命を希望してきました」
「亡命者……」
「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン中尉。兵站統括部に所属しているそうです」
なるほど、帝国側の後方勤務士官か。俺の所に来るのはそれか……。

「お分かりかと思いますが、大佐のところに配属になるのは彼です」
「となるともう一人は」
俺はミハマ少尉を見た。彼女はちょっと困ったような表情を見せた。

「お察しの通り、ミハマ少尉です。彼女がヴァレンシュタイン中尉の監視役になります」
二人増員と言っても一人はスパイで一人は監視役か、話にならんな。思わず溜息が出た。

「やれやれだな、大尉。増員を希望したが一人はスパイで一人は監視役か、まったく愚痴も出んよ」
俺の言葉にバグダッシュ大尉はちょっと困ったような表情を見せた。そんな顔をしても無駄だぞ、大尉。

「確かに彼女は監視役ですが、ヴァレンシュタイン中尉は未だスパイとは決まったわけではありません」
「そうかな。同盟軍が戻って来るまであと二週間はかかる。いまの時点でその中尉の受け入れ先を整えているという事はかなりの確度で彼はスパイの疑いが有るという事だろう」

「そうではないんです、大佐。実のところ彼がスパイか、そうでないのか判断がつかないのですよ」
「判断がつかない?」
俺の言葉にバグダッシュ大尉は頷いた。生真面目な表情だ、嘘ではないように見えるが相手は情報部だ。簡単には信じられない。

「現時点で遠征軍総旗艦へクトルで彼への調査が行なわれていますが、皆判断が出来ずにいるのです。調査内容は情報部にも送られてきましたがこちらも判断できない……」
「冗談だろう……」
遠征軍だけでなく情報部も判断できない? そんな事を信じろというのか、目の前の男は。

俺が唖然としているとミハマ少尉が笑みを浮かべながら口を開いた。
「ヴァレンシュタイン中尉ですが、彼は士官学校で兵站を四年間専攻しています
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