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霊群の杜
傷痕
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INEの着信音が響いた。

『きじとら帰った。上がれ』
ムカつく程要件のみのLINE来た。…エレベーターを使うときじとらさんと鉢合わせる可能性がある。俺は結局、非常階段を選んだ。
「毎日『志ほ瀬』が食えるねぇ」
傷だらけの状態で担ぎ込まれ、つい最近まで面会謝絶状態だったというのに、奉はご機嫌だ。どうせ出歩かないのだから、洞でも病室でも変わらないのだろう。入院から1週間程度だというのに、もう傍らに本の山が築かれている。退院時には赤帽でも呼ぶか…。
「ん?なんか疲れてるか?」
「……非常階段から来たんだよ……」
「へぇ…階段好きなぁ」
―――きじとらさんと鉢合わせると今度こそ殺されるからだよ!!と怒鳴りたいのを呑み込み、傍らの椅子に崩れ落ちる。この件で俺はボロボロのパンチドランカーだ。
「うむ…志ほ瀬屋は旨いんだが、どうにも袋が開けにくいねぇ…おい結貴、アレ出しな」
「………お前な………」
小さなテーブルに置かれた栗羊羹の端に意識を集中すると、背中に厭な気配が広がった。そして一陣のつむじ風が巻き起こり、次の瞬間、羊羹はビニールごと、大体6等分にすっぱりと切られていた。
「うまくなったもんだねぇ」
奉は事もなげに切り裂かれたビニールを剥ぎ取り、羊羹をつまみあげた。
「お前よく平気だな、こいつのせいで死にかけたのに」
その神経が分からん。全然分からん。

『彼ら』が奉を殺す為に俺の中に仕掛けた鎌鼬は、目的を遂げて俺から出ていく時に用済みだ、とばかりに置いていかれた。当然、奉が鎌鼬を追い出してくれると高を括っていたが、奉の答えは意外なものだった。


「出さねぇよ」


―――耳を疑った。いやいや何云ってんだ、このまま居着かれたらお前、また切られるぞと抗議した。だが普段であれば嫌々ながらも要求を呑んだり言を左右にして有耶無耶にする奉が、珍しく全く譲らない。
「この状態の鎌鼬を今解放したらどうなる」
…何も言い返せなかった。薬を持っていた奉ですら、絶対安静で入院する羽目になるような妖だ。襲われたが最後…。
「少なくとも今、こいつらはお前の元で落ち着いている。鎌だけで寄せ集めておくと、ほんと主体性がないんだねぇ」
そうかそうか、鎌だけの鎌鼬なんて初めて見るからねぇ…などと呟きながら、奉はほとんど起き上がれない体で無理やり寝返りを打ち、枕元に散らばった本を掴みあげる。
「そんな…こんな怪物、どうすりゃいいんだ?そもそも扱いが分からん」
「慣れれば包丁と同じようなもんだ」
「剥き身の包丁ぶら下げて歩くようなもんだろ。あぶねぇよ!…仲間の元に帰すのはどうだ?離散したのは事故みたいなもんだろ、奴らだって『風、鎌、薬』に戻る方が収まりがいいんじゃないの?」
「それが人間側の勝手な思い込みでねぇ」
点滴の管を煩わしげに
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