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霊群の杜
鎌鼬
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七月中旬。いつもの石段周りの暗がりで、露草が青い双弁を開く。雑草は誰かが定期的に刈っているようなのだが、毎年露草だけはその誰かが刈り残している。『誰か』はきっと、露草が好きなのだろう。
梅雨もだいぶ前に過ぎたというのに、曇天の日は続く。今年は冷夏になるとニュースでやっていたし、まぁ…暫くこんな日が続くのだろう。有り難い。
玉群へ続く石段が、熱くない。
「曇りとかまじで助かるわ。ついでにあのボケが死んでくれたらまじで助かる」
「……やめてくれ」
「へいへい」
今日も悪夢のように重い段ボールを抱えて、鴫崎は俺の隣を歩いていた。


奉を殺す夢を見た日、きじとらさんに刃物をあてられた。あのまま彼女が刃物を横に薙いだら、俺は死んでいただろう。だが偶然通りすがった鴫崎が俺たちを見つけてくれたのだ。
鴫崎の姿を確認した瞬間、涙がぼろぼろ出てきて止まらなくなった。きじとらさんに実質、振られたことは悲しかったけれどそれより、あの悪夢から日常に戻って来れた安堵感が一番大きかったと思う。
―――お前、疲れたんだよ。精神やられたんだきっと。
泣きじゃくって超聞き取りにくい俺の話を辛抱強く聞きだした鴫崎は、ある提案をしてくれた。


時間を合わせて、一緒に行こう。


奉の祟りを経験している鴫崎は、この荒唐無稽な夢の話を笑わない。それだけでも救われる気分だ。しかも本当に毎日配達時間を知らせてくれる。…というか本当に毎日こんな大量の本を発注しているのかよ…。地味に酷い奴だな。
「まじ話、助かるわ。手伝いがいると全然違うな!」
俺が抱えてる箱には、カップラーメンが入っているらしい。鴫崎に『そのお荷物は、手刀を50回叩きつけた上で石段の最上部から蹴り落とすのがお客様からのオーダーです♪』と聞いているが、多分嘘なのでやめておく。

一心不乱に石段を登りながら考える。…夢は覚えていないけれど、最近俺の思考回路が少しおかしい。こうして石段を登っている時でさえ『奉が死んだなら、俺は石段を登らなくて済むのに…』などと物騒な思考が頭に浮かぶのだ。何かにつけ『奉が死ねば』『奉が居なくなれば』。この間、きじとらさんに投げてしまった言葉も。


―――奉が死んだなら、俺のものになってくれますか。


…最悪!うぅわあもう最悪だ!!よく考えたらこれ告白というより宣戦布告じゃないか。お陰であれ以来きじとらさんには妙に間合いをとられるようになってしまった。俺の内心の葛藤を知ってか知らずか、奉は一切変わらず本の山に埋もれる毎日を送っている。
『俺がお前の前から消えれば、夢と現実の境がなくなる』
奉のこの言葉が間違っていなかったことを、早くも思い知らされることになった。
毎朝起きると少しわざとらしい程に、奉への憎しみを刻
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