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霊群の杜
じゅごん
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ジュゴンか!?いや、俺の記憶通りならジュゴンはもっとこう…」


いや、記憶がどうこうという問題ではない。俺はこんな禍々しい生き物を見たことがない。


「クーラーボックスを開けろ」
釣り上げられた『じゅごん』が釣り糸の先でぶらんぶらん揺れながら俺の方に近付いてきた。
「ちょっ、やめっ」
それを俺の方に近付けるな!!俺はクーラーボックスに夢中で飛びついて金具を外した。『じゅごん』は力尽きたようにクーラーボックスの中に落ちていった。…落ちていく瞬間、俺と目が合った気がした。
「……うぇ」
もうこの中に凍らせたゼリーとか炭酸とか入れる気がしない。
「どう思った」
「きもい、以外の感想が必要か」
「あの目を見て、どう思った」
やっぱりきもいしか浮かばないが…強いて云うなら。

「―――恨んでいるのか、と」

咄嗟にそんな言葉が浮かんだ。…俺自身も何云っているのか分からないが。奉は竿を小さく振って、再び釣り糸を海に沈めた。もう既に釣り糸の先など見ていない。竿を片手に、文庫本を繰っている。
「海のものには本当、関わり合いたくないんだがねぇ…」
再び浮きが不吉な動きで海面に呑み込まれるまでに、いくらも時間は要らなかった。
「……うわまた来た」
心底厭そうに、奉が呟いた。…なんだこの野郎。そんなに厭なら何でわざわざ早朝から釣りに来たのだ。
「恨んでいるのか…その感想、割と正しい」
クーラーボックスに『あれ』を落とし込みながら奉が云う。
「海で死んだ者達は、どういうわけか、とても人を妬む」
妬むというかそうだな…とか何とか呟きながら、再び釣り糸を沈める。
「船幽霊、七人ミサキ、海座頭……海で非業の死を遂げた者は何故か皆、生きている者を自分と同じ海に引き込もうとする」
「……山で死んだ者が山に引き込もうとするって話は…ないとは云わないが海程は多くないな」
「引き込むというか迷わせるだねぇ、山の場合は」
しかも何らかの要件を満たせば解放されることが多いねぇ…と、奉は喉で笑った。
「だから釣り糸にしがみついてくる奴らは、餌に釣られているのでも、救われたいわけでもない」
それでも奉は律儀に餌をつけ、竿を強めに振る。さっきより少し遠くに、浮きが沈んだ。
「俺を竿ごと、引きずり込もうとしているのだよ」


―――また、浮きが沈んだ。


「こいつらは、何なんだ」
肌が粟立つのを抑え、当たり障りのなさそうな所から聞いてみる。…何故捕まえる、捕まえてどうする。聞きたい事は山ほどあるが、少なくとも奉は、面白半分で厭なものに関わることはない。
「―――猪追いの祭り、あるだろ」
「知らん」
「知らんか」
奉が途切れ途切れに語った『猪追いの祭り』は、こうだ。
飢饉で人々が飢えに苦しむ時代があった。僅かな蓄え
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