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ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第二章 追憶のアイアンソード
第20話 少年の意地
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しているのである。
 このまま成長し続けるのなら……あの古の剣術を、伝授できるかも知れない。そんな考えが、バルスレイの脳裏を過る。

(だが、あの剣術を伝える前に――確かめねばなるまい。この少年が出し切れる、真の全力というものを)

 しかし、まだ足りない。まだもう一歩、足りない。そう判断するバルスレイは、瞳をさらに鋭く研ぎ澄まし――さらに素早い剣閃を放つ。

「ぐわぁッ!?」

 急激に速度を上げる老将の剣。その速さに対応しきれず、竜正の土手っ腹に強烈な刺突が炸裂するのだった。
 骨を軋ませ、内臓を押し潰すその衝撃に、竜正は目を見開き苦悶する。地べたを転げ回り、震えてうずくまる彼の姿に、人々は今までバルスレイに敗れてきた騎士達の影を重ねるのだった。

 ――やはり、如何に勇者といえど付け焼き刃ではこの程度なのか。
 ――バルスレイ将軍に勝てる騎士は、この帝国にはいないのか。
 ――アイラックスを倒せる人間など、ありえないのか。

 口々に囁く人々の声も、激痛に苦しむ竜正には届かない。彼は痛みに苛まれながら、自分とバルスレイとの間にある絶望的な差を、改めて思い知らされるのだった。

(この少年が背負う欠点――それは小柄な体格ゆえのリーチの短さにある。今の一撃を完全に再現したとしても、彼の剣が私に届くことはない)

 大人と子供。その物理的な体格差が、竜正の進撃に歯止めを掛けているのだ。
 ……その現実を彼に突き付けるバルスレイには、ある一つの想いがあった。

(――だが、実戦にそんな言い訳は通用せん。子供だろうが剣を取って戦う以上は立派な戦士だ。その壁を越えられぬ者に、戦場に立つ資格はない。……力無き兵など、あってはならんのだ)

 アイラックス将軍の力により膠着状態を保ってはいるものの、国力の差で王国が圧倒的に不利であることには変わりない。
 その差を僅かでも埋めるため、今の王国は国民から少年兵を募り、戦争に参加させている。――半人前にも値しない、遊びたい盛りの子供達を。

 そうして犠牲になった幼い命を、バルスレイは敵将として幾度となく見てきた。だからこそ彼は、勇者として祭り上げられ、戦争に巻き込まれたこの少年を厳格に指導しているのだ。
 せめて……母に会いたいと願う彼の想いが、異世界の戦場に散らぬように――と。

 一方、竜正は目の前に突き付けられた難関を前に、再び焦りを募らせていた。
 如何に強力なパワーを持っていようと、当たらなければ意味がない。それを当てさせるための「武器」がなければ、前には進めない。
 その非情な現実が、竜正に重くのしかかるのだった。

(俺が大人になるまで待てって、言いたいのか!? 冗談じゃない、それまで母さんを一人ぼっちになんて……させるもんか!)


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