第一章 邂逅のブロンズソード
第7話 姫騎士の敗北
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とどめを刺せば……!)
一方。片膝をついて俯き、震えているアンジャルノンを前に、ダイアン姫は強く拳を握り締めていた。
確実に決まった一撃。怯んだ敵。それだけの現実が目の前にあるなら。
希望を持っても、いいのかも知れない。恐れなくても、いいのかも知れない。
そんな期待が、彼女の胸を満し――
「やってくれたな」
――アンジャルノンの俯いていた顔が持ち上がり、憤怒の貌が伺えた瞬間。
赤く、巨大な拳が唸りを上げて。
姫騎士の体に減り込むのだった。
「……が……!?」
「敗戦国の小娘が調子に乗りやがって。ひん剥く前に、ここでお仕置きだ」
今までとは違う、低くくぐもった声で、アンジャルノンは毒を吐く。内に隠していた黒い感情を、剥き出しにして。
痛みに叫ぶことさえ許さない、高速の鉄拳。その、巨漢の質量にものを言わせた一発を受けて――ダイアン姫の体が、激しく吹き飛ばされるのだった。
闘技舞台の床を抉り、転がって行く姫騎士の痛ましい姿を目撃し、沸き立っていた観衆が凍り付く。
正義が悪を打ち倒す、勧善懲悪の劇となっていたはずの試合が。強者のみが勝つ真の闘いとなる瞬間であった。
「う、ぐ……!」
全身を打ち付けられたダイアン姫は、呻き声を上げて己の体を抱き締める。咄嗟の反射で急所への命中は避けた彼女だったが、両者のパワー差はそんな工夫さえ吹き飛ばすほどに大きい。
今の一発だけで、すでに彼女のダメージは戦闘続行に支障を来すレベルに達していたのだ。
「く、う……!」
「ほぉ、まだ立てるか。……無理はしない方がいいぞ。どうせ『可愛がる』なら傷などない綺麗なカラダがいいからな」
ふらつきながらも立ち上がるダイアン姫に、アンジャルノンは一転して品性に欠けた言葉を浴びせる。
だが、今の彼女にはそれに反応する余力さえ残されてはいなかった。苦悶の表情を民に隠すことも出来ず、ただ立ち上がることにのみ意識を集中させている。
それが、彼女の限界なのだ。これほどのダメージでさえなければ、回復魔法を行使することも出来たはずだが――もう、彼女にはその余力すらない。
「ル、ルーケン……さん……」
「おっ、おい! 騎士団はどうしたんだよ! やめさせろよ、こんな試合!」
ダイアン姫のそんな姿を見て、観客も長い夢から覚めつつあった。血の気を失った表情で試合を見つめるハンナの肩を抱き、ルーケンは声を荒げて騎士団を呼ぶ。
だが、この場に王国騎士団の人間はいない。ババルオの権勢に屈し、帝国兵を恐れている彼らが、ここに来れるはずはないのだ。
帝国兵を恐れないことで知られるダイアン姫と、彼女を信奉する民衆を除けば、このババルオ邸は魔境なのだから。
「……」
「諦めろ。
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