第一章 邂逅のブロンズソード
第6話 小さな騎士ローク
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
うした?」
だが、二人の反応を訝しむルーケンが振り向いた頃には、例の子供は既にその姿を消していた。
何事だと首を傾げる彼を尻目に、ダタッツはハンナに問い掛ける。
「ハンナさん、あの子は……」
「……ローク君っていう、王国騎士団の見習いよ」
「騎士団の見習いって……。見たところ、十五歳にも満たないのに」
「お父さんが王国騎士団の団長でね。アイラックス将軍の片腕だったお父さんが亡くなった後、騎士団に引き取られたの。戦後に産まれてすぐに、お母さんも病気で失って、身寄りもなかったから……」
「そうだったのですか……」
ロークという子供を語るハンナの顔色は暗い。苦境に立たされ続けてきた幼子への憂いが、その表情から滲み出ている。
「お兄ちゃんを殺して、アイラックス将軍を殺して、団長を殺してローク君を苦しめて……。帝国勇者は、一体何の為に皆を……」
「……」
「あっ……ご、ごめん。ダタッツさんにこんなこと言っても、しょうがないよね」
「……いえ、別に。それにしても、あのローク君――なぜこちらを見ていたのでしょうか」
「きっと、帝国兵に立ち向かったダタッツさんを一目見たかったんじゃないかな。ダタッツさん、結構町じゃ噂なのよ?」
「買い被りにもほどがありますよ。結局、勝負にすらならなかったんですから」
「強い弱いの話じゃないよ。勇気を出して戦ったことが凄いんだから。きっと、ローク君もそう思ってるんだよ。男の子って、そういうのが大好きだしね」
自身の行動を讃えるハンナに対し、苦笑を浮かべるダタッツは――かつてロークが潜んでいた人通りの方を一瞥し、唇を噛み締めていた。
亡き父の誇りだったはずの王国騎士団が萎縮している中で、恐れを知らずに帝国兵に抗った旅人に対し――騎士団長の忘れ形見は、何を思ったのか。
それを知る術は、彼にはない。
(何の為に、か……)
ただ、ロークという幼子に課せられた運命が残酷なものだったということだけは、確かだった。
――そして、昼下がりの時刻が近づく頃。
ババルオ邸には姫君の勇姿を求める民衆が、群れを成して集まっていた。
ダタッツはダイアン姫の名を叫ぶ町民達の勢いに圧倒され、息を飲む。その隣では、ハンナが得意げな笑みを浮かべていた。
「どう? ちょっと驚いたでしょ」
「……ホントにダイアン姫の活躍がメインになってるんですね。人気を考えたら当然なんでしょうけど……」
「ハハ、姫様が勝った時の熱狂ぶりはこんなもんじゃないぞ」
近くに立っていても、ルーケンやハンナの声が霞んでしまうほどの歓声。その凄まじさを前に、ダタッツはたじろぐように周囲を見渡している。
「キャーッ! 姫様ぁーッ!」
「姫様ぁ〜!」
「王国万歳、姫様万歳!」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ