第一章 邂逅のブロンズソード
第2話 姫騎士ダイアン
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拒否権なんてねーのさ」
帝国の支配下に置かれた、王国の城下町では――当たり前に繰り返される横暴が、今日も民を苦しめている。
昼下がりの街道にある、小さな料亭。その入り口で、一人の少女を数人の男達が包囲していた。
均整の取れたプロポーションに、栗色のセミロング。翡翠色の瞳に、程よく日に焼けた健康的な柔肌。
そして、十七歳という年齢の割には幼く――愛嬌に溢れた顔立ちと、素朴な印象を与えるそばかす。その全身を彩るように包むウェイトレスの服。
そんな彼女に対し、男達は全員が鋼鉄で固められた兵士の鎧を纏っている。さらに彼らが被る、鬼の如き双角を備えた鉄兜が、陽の光を浴びて怪しい輝きを放っていた。
武装した兵士達が丸腰の女性を囲うというのは、本来ならば極めて異質な光景であるが――この街においては、その限りではない。
駐在している帝国兵が、王国人の女性に手を出す事案など、今に始まったことではないのだ。
昼下がりの街道とあれば、人通りも少なくない。事実、彼らのやり取りを遠巻きに眺めている人達は大勢いる。
だが、観衆の中に少女を助けようとする人間はいない。
帝国兵に逆らえば、何をされるかわからない。それは誰かが警告するまでもなく、一つの常識としてこの街に浸透しているのだ。
「き、騎士団の方を呼びますよ!」
「呼べばいいじゃねーか、俺達に勝てるんならな」
「例のアイラックスの娘とやらは、出稽古で城下町にはいねーんだろ? あいつがいねぇ腰抜けの騎士団が来るってんなら、こっちも誠心誠意を込めてぶちのめしてやるさ」
「……!」
少女は声を高らかに上げ、視線で周囲に助けを求めるが――通行人は困惑して顔を見合わせるばかり。
そうしている間にも、帝国兵達は無遠慮に少女の身体に触れて行く。自分の肌を這うように撫でる男達の手に、彼女の表情は凍りつくように青ざめていた。
「ん? 呼ばねーのかい、嬢ちゃん。なら、合意の上ってことだな」
「どうせなら詰所までエスコートしてやろうぜ。あいつらも溜まってるらしいしな」
「そりゃいい。嬢ちゃんならきっとモテモテだよ」
「……た、助けて……!」
「ハハ、怖がるこたぁねーよ。みんな優しくしてくれるって」
彼女が怯えていることを知ってかしらずか、帝国兵達は少女の両脇を固めて移動を始める。それに逆らうことも許されないまま、少女は引きずられるように足を動かしていた。
「お、お待ちください帝国の方々!」
「あん?」
「そそ、その娘は私共の店で小さな頃から働いている大事な看板娘なんです! どうか、どうか乱暴なことは……!」
「……っほぉ〜……! 泣かせるねぇ、いい娘じゃねぇか嬢ちゃん。だったらなおさら、俺達で日頃の苦労を労ってあげなくちゃなぁ」
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