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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十八話 奇襲 虚実の迎撃
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った様子であった。
ドナドナ・アトモスフィアを漂わせながらも俘虜である豊久は東方辺境領姫の御召を受け、とぼとぼと十も年下であろうロトミストロフの後を付いていくことになった。


同日 午後第五刻半 旧北領鎮台司令部内司令官室前副官室
俘虜 馬堂豊久<皇国>陸軍少佐


なんとも言えぬ違和感を抱えながら豊久は目の前の状況を咀嚼する。
 ――この先に嘗ての守原英康の執務室――司令官室がある。皮肉なものだ、〈皇国〉陸軍の物だった時には縁がなかったと云うのに。
 今、この副官室に居るのは豊久と、先導者であるロトミストロフ候補生の他に副官の代わりに侍女らしき女性が書類を片付けているだけであった。 陸軍元帥の侍女ともなると書類仕事もこなすらしく、乾ききっていない吸い取り紙が何枚も屑籠に捨ててある。
 例によって案内役のロトミストロフがその女性に来訪を伝えた。
「〈皇国〉陸軍少佐 馬堂豊久殿をおつれしました」
――声が裏返っている、緊張しているのか?
豊久の分析癖が頭をもたげた。
――いや、違うな――それとは違う。青年候補生の態度はそう云ったものではなかった。むしろ崇拝者の陶酔に近い。将校としてのそれ以上に鯱張った動作はおそらく彼の信望する戦姫・ユーリア元帥に対するものだ。
――ならば、これもその一環、侍女にまで失礼のないようにと気負い過ぎたということか。
なんとなくスッキリしないが、ロトミストロフは、そのまま退室したために、検証は不可能となってしまった。
「少佐、こちらへ」
 その女性が奥へと続く扉を開けてくれる。黒い扉に白く美しい手が映えていえる様子が――奇妙に印象に残った。



礼をして入室するのとほぼ同時に豊久は違和感に眉をひそめた。

 ユーリア姫らしき人は窓辺に立ち、豊久達に背中を向けている、別にそれは何ら奇妙な事ではない、威厳を見せる演出だろう。
部屋は〈帝国〉風の豪洒なインテリアに変わっており、両側には赤布に金糸で飾り立てた垂れ幕がある、この模様替えが原因だろうか?
「〈皇国〉陸軍少佐、馬堂豊久様をお連れしました」
 一拍間が空く、部屋の主は無反応であった。

「少佐、ご挨拶を」
 再び、違和感を覚え、豊久の思考は急速に回転を始めたる。
 ――何かがおかしい、何だ?

「〈皇国〉陸軍少佐、馬堂豊久、参りました」
 舌が儀礼を紡ぐのと並行し、防衛本能に急き立てられた思考は考察を始める。
 ――違和感の正体はなんだろうか――侍女の挨拶?
即座に否定の答えが浮かぶ
 ――違う、違和感の正体はそれではない。その前から感じていたのだから。

「拝謁の栄に浴し、恐悦至極に御座います。」
 舌鋒は無感動に儀礼を続けている中、豊久は更に記憶を巻き戻す。

 ――副官室で何を見た
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