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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十八話 奇襲 虚実の迎撃
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皇紀五百六十八年 四月十三日 午後第十一刻
旧北領鎮台司令部官舎内 将校宿直室 俘虜 馬堂豊久<皇国>陸軍少佐


「違和感を感じますってレベルじゃないよな、コレ」
 蝋燭の光が硝子越しに琥珀色に色づいているのを眺めながら部屋の主である豊久はぼやく。
中身は当然ながら酒である、それもおそらく結構な質の物だ――少なくとも俘虜が抱えて酔い潰れるような物ではない。
「バルクホルン大尉の気持ちは有難いけど――そもそも飲めないんだよな」
 メレンティン参謀長との会話の後、〈帝国〉士官に与えられているのと同じ位に上等な部屋に移住させてもらった際に案内してもらったバルクホルン大尉の従兵が大尉から、と酒を届けてくれるのだが、残念ながら豊久は下戸であり、これで酒瓶は三本も貯まっている。
「皆に渡すか?いや、どうせなら――」
 色々と考えながら酒瓶を長椅子の下に戻す。
 俘虜相手に贅沢品を渡すと云うことは兵站が完全に整いつつあるのだろうし、またそれを隠すつもりもないのだと豊久は理解する。
 ――この様子だと内地侵攻までは半年も無いだろうな。
 陰鬱な溜息をつくとふたたび長椅子に寝転んだ。一人で居ると気が滅入るがかといって他人と話す程の気力もない、悪循環である。
 ――もうそろそろ、俘虜交換の時期だ。内地ではまた面倒が起きているだろうし、問答無用で巻き込まれるであろう事は間違いない。
 ごろり、と寝返りをうつと故国の屋敷を思い出しながら目を閉じた。
 ――せめて少しは休めるように早く帰りたいなぁ。



四月十八日 午後第五刻 北領 北府郊外 俘虜作業所
俘虜 馬堂豊久<皇国>陸軍少佐


「総員、傾聴!」
 冬野曹長が号令をかける。

「皆、聞いているな。〈帝国〉軍より俘虜労役の任が完了した旨を伝えられた、開放期限までの数日間は自由だ。そうは言っても娯楽は少ないだろう。」
 目配せをし、権藤軍曹達に瓶を抱えて持ってこさせる。
十数本もあれば三十数名に乾杯させる事は出来るだろうと将校二人と出し合ったのである。
「――と言うことで、俺が溜めていた分と西田・杉谷両名からふんだっく――もとい、皆の為に喜捨した分の酒を・・・・聞いてないね」
 皆、酒に目を奪われているのを見て豊久が嗤う。兵達の馬鹿騒ぎの中、ロトミストロフ候補生が訪れる。
「馬堂少佐殿、東方辺境領姫ユーリア殿下が貴官に拝謁の栄を与えると仰っておられます」
〈帝国〉語を解する者達は皆体を強ばらせた。
「杉谷――なにかあったら指揮権は君が引き継いでくれ」
 汗を流しながらも豊久は口元を吊り上げて先任少尉に云った。
「その言葉も冗談で済めば良いのですがね――幸運を祈ります、としか言えませんな」
 杉谷も顔を引き攣らせる、どちらも冗談としたくともできないとい
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