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執務室の新人提督
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緒に居たの目にして以来、数度青葉が誰かと一緒に居たのを見たが、青葉は加賀に対して常に一礼するだけで話しかけても来ない。そしてそれは
 
「私も、直接ではないんですよ」

 初霜も同じだ。その理由もまた、加賀も初霜も理解していた。
 加賀は提督が提督になって以来求め続けた正規空母だ。一日に四度回す艦娘建造では特定のレシピで常に回し続け、相当な時間をかけて建造した艦娘である。蒼龍8人、飛龍2人、赤城2人、翔鶴2人、瑞鶴3人、軽空母、水母沢山、という結果の後、やっと建造された空母なのだ。加賀が着任した際の提督の喜びようは、だからだろう。尋常な物ではなかったのだ。声も無く両手を勢い良く天井に突き上げ、暫し無言で佇み、震える声で提督は言ったのだ。
 
『きた……やっときた……お前の為に提督になったのに……ずっといなくて……もう諦めかけてたんだよ……やっとだ……! やっとだぞ畜生! よし、まずロックだな!』

 この言葉は当時も秘書艦であった初霜はもちろんの事、加賀も当然覚えている。そしてその発言の中から、加賀という存在が提督をこの鎮守府に着任させた、という特異性により、この情報は鎮守府内で大きく報じられた。ゆえに、加賀が幾ら遅い着任であろうと誰も彼女を軽んじない。加賀という艦娘は、その存在自体が殊勲であるのだ。

 対して初霜は、誰もが認める秘書艦だ。その存在は大きく、事実提督からの信頼もあつい。山城が第一艦隊旗艦として機能できない時には、何度も第一艦隊旗艦として海上に出た事もある。輸送任務でも確実に仕事をこなし、第一艦隊として出撃すれば夜戦で大いに活躍した事もある。三ヶ月に一度の特別海域作戦で何度彼女が活躍したかは、この鎮守府に所属する艦娘なら誰に聞かずとも知っている筈だ。そして彼女が多くの艦娘達から秘書艦として認められている最大の理由は、その地味な仕事ぶりである。山城が海域から戻ってくると、提督はすぐに初霜を呼び単艦で彼女を執務室に置いていた。他の誰でもなく、彼女だけをもっとも長く、だ。
 
 ただ、その初霜を執務室に置いた提督は、大抵そのまま退室して鎮守府から消えてしまっていた。本当に、どこにもいないのだ。常に、忽然と消えてしまうのだ。そうなると、仕事は執務室にいる初霜が行うことになる。こうした地味な仕事の積み重ねが、初霜をこの鎮守府の、あの提督の秘書艦たらしめているのだ。
 
 ゆえに、青葉は二人に質問しない。出来ない。何かの間違いで尻尾を踏んでしまえば、青葉であっても無事では済まないからだ。導火線に火がついたのなら、それに水をかけるなり踏み消すなりと出来るが、尻尾を踏めば大抵どうにも出来ない。あとは、戦闘機という牙で噛まれるか、魚雷という爪で抉られるか、その程度の違いしかない。

「放っておいても?」
「良いと思います」

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