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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十五話 参謀長との面会
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 ――全てが曖昧であった。
他人のような自分と自分のような他人の記憶がと渦巻いている。
誰なのかも分からぬワタシはその渦の中心で呆然とそこに在った。
 ただ只管に朦朧と自分を取り巻いている幽きモノは、なんなのだろう?
まるで死人のようだ、だとしたら、あれは誰だろう? 
ひょっとして、私に総てを預けて死んでしまったあのヒトか、私が死なせたあのヒトか。それとも――私の目の前で死んだ、あのヒトか。
――貴様が大隊長だ。
厭だ、厭だ。そんな事を出来るはずがありません。
――玉砕するまで戦いぬいた部隊が居たと聞きましたよ 
違うんだ、違うんだ、そんなつもりじゃなかったんだ。
 ――自分は・・・貴方の様に正しくは・・・
やめろ!やめてくれ!こんなものが正しさであってたまるか!!
 転々とまわり続けるソレは人ではなく本なのかもしれない。朦朧としているワタシにはよく分らない。
もしそうだったら周りつづける本を能面のような貌をした怯えた子供がじっと見つめているかもしれない。何だかソレはひどく恐ろしかった。



皇紀五百六十八年 三月十日 午前第十刻 北領鎮台司令庁舎 一室
俘虜 馬堂豊久〈皇国〉陸軍少佐


 目が覚めて早々に水瓶から冷え切った水を呷り、馬堂豊久は陰鬱な気分を冷えきった水と共に嚥下した。
「――厭なモノを見た気がするな」
 既に印象でしかなくなった夢を追い払う。
 ――暇になると性根が腐るな。まったく情けない。
 俘虜になって二週間、何故か、〈帝国〉軍は、豊久を労役に就けるつもりは無いらしく、今の彼には時間だけが腐る程あった。
 ――望まなくとも自然と内省的な気分になってしまうのも無理はない。
 そう豊久は思い直す。つい二週間前までなら目の前の軍務に逃げられたのだが、今は時間だけはある。いつかは向かい合うべきなのかもしれないが、どうにも覚悟が定まらないのであった。
 それに時間はあっても部下達がどのような労役に就いているのかも分らない。当然だが半軟禁状態であるから自分で情報を集める事も中々できないので〈帝国〉軍の将校に申請を出すくらいしかできない。
 ――西田達はどうしているのだろう?こう、隔離されたのではあの二人に隊を乗っ取られるかもしれないな。
 笑みをこぼしながらそう思った。勿論、本気ではない、最後の最後に自分の意志でついてきてくれた彼らには、自身の権限と影響力を使い、可能な限り良い場所に配置されるよう働きかけるつもりだった。
ことこうした事に関しては、新城以上の働きかけが出来ると自負している。
 露骨な言い方をするのならば、豊久の軍歴において、兵部省・軍監本部と上層部、或いは上層部候補の陪臣組と伝手を作る機会が少なくなかったのである。
 将家の陪臣といっても流石に人務部は駒城一
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