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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十四話『猛獣使い』帰還せり
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か?』
「お気持ちは有り難いのですが、部下と共に帰還する事も自分の任務ですので。」
不思議と久々な肯定的な気分を弄びながら新城は云った。
『これは出過ぎた真似をしました。このままでは艦の邪魔になりますな、今日のところはこれまでにします。ご迷惑でなければ、いずれ皇都にご挨拶に向かわせていただきます』
「ご迷惑などとんでもありません。皇都での再会を楽しみにしております
――それではいずれ、また」
 導術ではなく咆哮で新城に答え、若き天龍・坂東一之丞殿は再び高みへと舞い上がった。
 彼の言った通り、艦長が新城とその部下達を甲板へ呼び出すのに時間は掛からなかった。

 ――全く意外だな、自分にこんな里心があるとは、気に入らない所だらけ、僕の全てを奪い全てを与えた国へ一番親しい友人と後輩を残して尚かんじるこの気持ち。
「故国、ですね」
 ――そうだ。《故国》だ。
浦辺はおそらく新城とは全く違った味わいでこの言葉を噛み締めているのだろう。
「えぇ、故国です」

「おーい!」
港が微かに見えるようになると皆が次々と手を振り、声を上げはじめた。
戦場では古兵として戦っていた者達も下士官の演技をかなぐり捨てている。
全員が指揮官の視線に気がつき慌てて顔を引き締め、気ヲ付ケの姿勢になる。
 ――少なくとも彼らは、とっては贅沢な結末を得られたわけだ。
 束の間も楽観的思考に浸り、新城は素直な気持ちで彼らに告げる。
「諸君、故国だ。御苦労様でした。」


三月五日 午後第三刻 皇都水軍埠頭
駒城家 御育預 新城直衛少佐

帰還の式典は簡素な物だった、軍監本部から来た代表が1ヶ月の休暇と路銀の支給を伝え、そして、新城直衛は陸・水軍、両方で少佐の階級を得た事を伝えたのみであった。
兵達が解散し軍監本部の人間との話を終わらせ、肩書きが幾つか増えた新城直衛に初老の男性が歩み寄る、――新城家の家令(正確を期すなら直衛一人の新城家の)である瀬川である。
「直衛様、荷物を」
「ありがとう」
 そして新城は彼を待つ陸軍中将の元へと歩く
「駒城閣下。新城直衛少佐、只今戻りました」

「御苦労様でした。少佐。」
 敬礼を交わし、中将と少佐の間に沈黙が降りる。それを破ったのは乳母の抱く幼子の声だった。
「麗子様、初姫様ですか。一年ぶりですか。大きくなられましたね」
 新城の義兄である駒城保胤が顔を緩ませた。
「あぁ驚く程にな。何はともあれよく帰ってきた。直衛」
「直ちゃん」
 ――この声は
「ただいま戻りました、義姉上」
 直衛と共に東州の戦野を彷徨い、蓮乃のおまけで保胤の庇護を受け、直衛は育預になり、新城直衛と成った。
 蓮乃、新城直衛最愛の女性は、大恩ある義兄の妾にして事実上の正室として彼がもっとも慕う駒城保胤と共
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