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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十四話『猛獣使い』帰還せり
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皇紀五百六十八年 三月五日 午前第八刻 皇国水軍 巡洋艦 大瀬 上甲板
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長代行 新城直衛大尉

独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長代行と肩書きを変えた新城直衛は海原を眺めながら思いを巡らせていた
 ――僕が残るべきだった。アイツが先に行けと言った時、僕は――俺は安堵した。
豊久はそれを見透かしていたのだ。奴は昔からそうだ。
  内地の事を考え、内心で舌打ちをする。
――大隊長、か。最後の最後でまた大隊長が代わった、あの馬鹿め、最後の面倒だけ僕に押しつけて残りやがった。
 新城は、豊久の生死次第では自分も厄介なことになりかねない事は理解している、身内の結束が強いのは将家の特徴であり、それは馬堂家も例外ではない。
確かに馬堂家は陪臣の中では数少ない自分に好意的な家だったが、嫡男を失って尚もそうであると思うほど新城は自分の人間的魅力を信じる人間ではないし、相手が理性的であるとも信じていなかった。

「新城大尉」
 笹嶋中佐が残した転進支援本部の人間である浦辺大尉が新城に声をかけた。
「浦辺大尉、騒いでいる様ですが何でしょうか。」
「ええ、天龍が接近しておりまして――
一昔前までは戯れに転覆させられていましたから警戒しています。
龍は教条的な程に〈大協約〉を尊ぶと言いますがどうも若い龍のようですから念の為です」
 心配は要りません、と言いながら指された方向を見る。
 ――確かに天龍だ、わざわざ此方に来るか、
「もしかしたら、『知己』なのかもしれません。」
「知己、ですか?」
「はい、北領で〈大協約〉絡みで。」
 それを聞くと何かを悟ったのか浦辺大尉は暫く考えると
「ならば艦橋に行きましょう。坪田艦長は良くも悪くも叩き上げの船乗りですから、警戒して合戦準備も考えているでしょう」
と云った。

 新城が坪田中佐へ近づくと、それを見つけたのか天龍が大瀬へと接近してきた。
 坪田中佐が体を強ばらせるのとほぼ同時に導術の声が頭に響く。
『当方に敵意なし、当方に敵意なし 貴艦便乗中の友人に挨拶を送りたし。』
船員達のどよめきが新城の耳にも届いた、天龍程になると術師の素質のない者達にも導術の声を聞かせられる事は〈皇国〉人ならば誰でも知っている。だが、実際に天龍の“声”を聴く事ができる者はめったに居ない。
船に並走した天龍は、やはり新城が〈大協約〉に従い負傷したところを救助した坂東一之丞であった。
「お出迎え痛み入ります、坂東殿。」
『とある筋より貴官の生還を知りまして、ご迷惑かと思いましたが
兎にも角にも一言お祝いを申し述べたく参上致しました。
助けていただいた時に申した一斗樽は持ち合わせていませんがね。』
笑いのような導術の細波を感じた。
『皇都まではもう僅かですお乗せしましょう
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