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雲は遠くて
4章 多摩川(たまがわ)花火大会
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喪失感(そうしつかん)に、美樹の心は()れた。

しかし、美樹は、愛のキューピッド(天使)みたいに、
陽斗(はると)(たの)まれたとおりに、姉に陽斗の気持ちを伝えたり、
姉のメールアドレスを、陽斗に教えたりもしたのだった。

姉の美咲は、表向きは(こま)った顔をして、迷惑(めいわく)そうに
していたのだが、内心は、悪い気はしないようであった。

「美樹ちゃん、心配しないで。美樹ちゃんの大切にしているものを、
(こわ)したりしないから。
陽斗(はると)くんの、相談相手になることくらいしか、わたしにはできないんだから」

美樹の気持ちを察して、そんなふうに、美咲はいうのだったが、
嫉妬(しっと)のような気持ちを感じる、美樹だった。

美樹は、美咲や陽斗に対して、無関心で、よそよそしい態度が、しばらく続いた。

早瀬田(わせだ)大学に入学した美樹が、大学公認のバンド・サークルの
MFC(ミュージック・ファン・クラブ)に入って、音楽に熱中したのも、
そのトラウマ(心的外傷)のような、その複雑な心境を、解消するためでもあった。

男女あわせて70人くらいの、バンド・サークルで、川口信也たちと出会った。

現在、松下陽斗(まつしたはると)は、東京・芸術・大学の音楽学部、
ピアノ専攻の2年。
父親は、下北沢駅近くで、ジャズ喫茶を経営している。
ジャズの評論とかも、雑誌に書いている、ジャズの著作家だった。

美樹は早瀬田(わせだ)大学の教育学部の2年。美樹は進路に(まよ)っていた。
芸術;高校の生徒たちの中で、自分には特別な才能があるという、
自信が持てないのだった。現在、美樹は、中学校の教師になろうと、
漠然(ばくぜん)と思っている。

「わたしたちの芸術・高校は、なくなっちゃったね」

美樹の満面(まんめん)の笑みが、一瞬だけ消えた。

「しょうがないね。時代の流れってやつだから。
おれらの学校は、完全になくなるんじゃなくて、新宿(しんじゅく)
総合芸術・高校に受け継がれるというから、まだ、よかったよ。
また、こうやって、一緒(いっしょ)に、花火なんて、
うれしいよ。高校のころの気分を思い出せそうで。
でもきょうは、大勢(おおぜい)だなぁ、女子高生もいたりして。
何人いるのかな?」

陽斗(はると)は、小田急線の成城学園前駅・南口に(あつ)まった、
みんなを(なが)める。

「みんなで、12人だよ。予約したテーブル(せき)が、
12あるから、ちょうど、12人に、お(あつ)まりいただきました」

森川純(もりかわじゅん)が、陽斗にそういった。純の思いつきで、
みんなを招待したという形の、今回の花火の見物であった。

はじめ、陽斗(はる
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