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雲は遠くて
2章 MY LOVE SONG
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言葉を思い出したりした。

その言葉は、逆転したテーゼ(肯定的判断)ともいえるわけで、信也は、
なるほど、ドストエフスキーは、現代作家にも影響の深いといわれるし、
偉大な作家なんだなあと、感心するのだった。

しかし、そんな信也を見ていて、どこか子どもっぽいと、
美樹は感じるのであった。

そして、好感や親しみも深まってゆき、美樹の信也に対する呼びかたも、
川口先輩(せんぱい)とか、信也さんとかから、
しんちゃんになっていたのであった。

「どうして、最近、おれって『しんちゃん』になったんだよ」

あるとき、信也がわらいながら、美樹に聞いた。

「だって、信也さん、私の好きな『クレヨンしんちゃん』と
どこか、かぶるんだもん」

そういって、美樹は悪戯(いたずら)っぽく、ほほえんだ。

「おれも『クレヨンしんちゃん』好きなほうだから、まあ、いいけど。
でも、どうせなら、『ワン・ピ−ス(ONE PIECE)』の
ルフィが好きだから、ルフィとかフィルちゃんとか呼んでくれたらいいのに」

そういうと信也は、何がおかしかったのか、腹を抱えるほど、わらった。

美樹が呼び始めた『しんちゃん』は、たちまち、みんなに(ひろ)まった。


美樹は家の駐車場に、信也のスズキ・ワゴンRを()めさせた。

家にいる両親を外に呼び出して、美樹は信也を紹介した。

母親は、「美樹も、よく、川口さんのことは話してくれています。
私どもも、川口さんなら安心と思っているんです。
これからもよろしくお願いします」といって、ほほえんだ。

「家でゆっくりしていってください」と父親もいった。

信也は「こちらこそよろしくお願いします」といって、
深々(ふかぶか)と頭を()げた。

「きょうは時間がないから、またね」と美樹はいうと、
信也の手を引っ(ひっぱ)って、ふたりは、
都立駒場(こまば)公園へと、早足(はやあし)で向かうのであった。

高校や東大の研究センターの横道を抜けると、
歩いて、15分ほどで、
広い芝生や樹の生い(しげ)る駒場公園だった。

「このへんにも、いい公園があるんだって、
しんちゃんに見せたかったのよ」と美樹が信也に話す。

「本当だ。立派な公園だね」

「あれが日本近代文学館よ」と、美樹は、グレーの
コンクリート(つく)りの建物を指さした。

「あっちの建物は、前田侯爵邸(まえだこうしゃくてい)とかいって、
100年くらい前に()てられて、当時は、
東洋一の邸宅と、うたわれたんだって」

「そうなんだ。あとで行ってみよう」

信也はポケットから、アップルの携帯型デジタル
音楽プレイヤーのアイポッド(iPod)を出した。

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