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雲は遠くて
2章 MY LOVE SONG
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とても楽しみにしているみたいだわよ」

「えー、なんか、そういうの苦手(にがて)だなあ」

「だいじょうぶよ、さっさと、クルマを()いたら、
公園に行くわよ。
時間がないんだから、邪魔者(じゃまもの)は、必要ないし」

「美樹ちゃんに、お(まか)せしますよ。ご両親には、
うまく、紹介してください」

「はい、はい。うまく紹介させていただきますわよ。
川口信也(かわぐちしんや)さんは、大学の先輩で、
大学公認のバンド・サークルのミュージック・ファン・クラブ
(通称 MFC)に(さそ)ってくださった、
大切な恩人(おんじん)なんです、なんてね」

「そうそう、いま、特に仲良くさせてもらっている男性なんです、
ってことも、お話ししようかしら・・・」

美樹はわらった。信也もわらった。

去年、2011年の春に、大学に入学して、
美樹は学生証の交付も受けた。

しかし、3月11日の、東北の太平洋沖地震等による災害や、
おさまらない余震(よしん)や、計画停電による交通機関の混乱などから、
2011年度の入学式は、すべて中止となったのであった。

そんな混乱の中であったが、大学4年になった信也は、美樹を見つけて、
熱心に、バンド・サークルのMFCに、(さそ)ったのであった。

小学2年のころからピアノを(なら)っていた美樹は、
キーボードが()けた。

シャキーラ(Shakira)という呼び名で親しまれている、
1977年2月生まれの、コロンビアのラテン・ポップ・シンガー・ソングライターを、
美樹はコーピーして、歌うこともあった。
南米(なんべい)独特の明るいリズムやメロディを持つシャキーラは、
目標にするくらいに、美樹は中学生のころから好きだった。

そんな美樹だから、男女あわせて70人ほどもいるバンド・サークルでも、
すぐに注目された。

美樹を、意識する男子学生が何人もいることも、ごく自然な感じであった。

信也が、彼の好きな椎名林檎(しいなりんご)に何となく似ている美樹を、
意識しないわけがなかった。

しかし、サークルの仲間同士で、女子学生の獲得(かくとく)競争に
なるようなことは、ばかばかしくてやってられないと、信也は思うのだった。

『そんな獲得競争、恋愛競争なら、おれは、いち()ける、やめるよ・・・』
信也はそう決めたのだった。

そんな自分の判断に、自分の本当の心に、誠実ではない、
素直ではないんじゃないかと、思って、迷うときも、なんどもあった。

そんなときは、たまたま読んで、強烈に印象に残っている、
ロシアの文豪・ドストエフスキーの小説
『地下室の手記(しゅき)』の主人公が語る
「苦痛は快楽である」という
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