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Ball Driver

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第二十四話 二者択一

第二十四話



ズパァーン!
「ストライクアウトォ!」

バッターがインコースに腰をひいた。
紅緒の146キロは、春の段階では中々に慣れない球速だ。それに加えて、しっかり緩急をつけて投げられ、スライダーもキレて、制球にも破綻が無いとなると、名門校の打者でも中々手が出ない。
力勝負一辺倒でも帝東を終盤まで抑え込めたピッチャーが投球の幅を広げたとなると、それは無双して当たり前だ。

「……東地区じゃなくて良かったなぁ。この打線に、このピッチャー。ウチがエースを投げさせていたとしても、簡単な勝負ではなかろう。」

ベンチでは吉大三高の監督が渋い顔でつぶやいていた。スコアボードには7-0のスコア。春の大会なので二番手三番手を投げさせた所、序盤に3本塁打を食らって大量失点を喫してしまった。7点を取った後、畳み掛けてこない辺りは集中力にムラがあり、詰めが甘いが、それでも圧倒されている事実に変わりはなかった。

ブン!
「ストライクアウトォ!」

最後のバッターは縦割れのカーブで腰を砕けさせ、紅緒は得意げな笑顔を無理矢理押さえつけたような、クールを気取った顔でマウンドを降りていく。捕ったジャガーは対照的に、実に良い笑顔でハイタッチを交わした。
これで春季東京大会の決勝戦に進出。
それと同時に春季関東大会への進出も決まった。

「……やっちまった〜」

歓喜の沸くグランドの中で、権城はただ一人だけ負けた吉大三ナインと同じような渋い顔をしていた。

権城は、春季関東大会の日程と、修学旅行の日程とを頭の中で必死に比較していた。


ーーーーーーーーーーーーーーー



「あちゃー。修学旅行と、関東大会の初戦が被ってしまいましたか。」

ジャガーは苦笑いしていた。
ジャガーと権城のクラスの修学旅行は、クラスでの相談の結果、5月に京都へ行く事になっていた。しっかりと、関東大会の日程と被ったのである。

「で、権城さんはどうなさるんですか?」
「どうするかなぁ……」

恐らく、紗理奈は修学旅行に行くのを許すだろう。春の関東大会など、その先が無いエキシビションマッチみたいなものだ。甲子園につながる秋の大会でさえ、昨秋においてはエースで4番、押しも押されもせぬ大黒柱の紅緒が修学旅行に行くのを許したのである。三番手投手兼代打要員の権城と、たかだか8番キャッチャーのジャガーが修学旅行に行くのを許されない道理は無いだろう。修学旅行は一生に一度だ。かけがえのない青春だ。青春の謳歌という点で部活と修学旅行に差など無い。南十字学園はそんな学校だし、そういう野球部である。

しかし。権城としては、引っかかりがある。
昨秋、自分は紅緒に修学旅行に行かれて、何となく恨めしく思った。今でも、何とか我慢して貰えなかったのかと思っている。ここで自分が修学旅行に行ってしまえば、自分にそう思う資格が無くなってしまうのではないか。
「もっとマジに野球してくれよ」と思う資格が。

キラキラ輝く青春の中で、泥臭い青春の可能性を見せてやる為に、都内から戻ってきたのが、権城英忠では無かったか?


「あー、京都行きたかったなぁ」
「と、言いますと?」
「俺は野球をとる!」

スッキリした顔で言い切った権城に、ジャガーはニッコリと微笑んだ。

「そうですか。では私も、関東大会に行きますよ」
「おいおい……別に俺に合わせる必要なんて無いんだぜ?お前が居なけりゃ俺が試合に出れるんだし、何より一生に一度の修学旅行だぜ?」
「行かない人がそれを言いますか?控えの権城さんが試合に行くのでしたら、レギュラーの私は尚更休めませんよ。」

ジャガーは少し当て付け気味に、斜めから権城を見てきた。権城は口をへの字に曲げて肩をすくめた。

「それに……」
「あ?」
「権城さんが修学旅行に居ないんでしたら、私、1人だけで行っても困ってしまいます。」
「おい、止めろ。勘違いさせるような事言うんじゃねえよ。」

少しジャガーの頬は赤らんでいた。
そんなジャガーの顔から目を背けて、権城はぶっきらぼうに答えた。

「もう。何が勘違いですか。私に友人が少ないことを嘆いているのですっ」
「あーはいはいわかったわかった」

あしらいながら、権城の鼻の下は若干伸びていた。ジャガーは照れ隠しに、わざと怒った顔を見せていた。






(どこに行くかも大事だけど、誰と行くかも大事か……青春の形は一つじゃないしね)

2人の会話を柱の影から聞きながら、紗理奈が頷きながら微笑んでいた。



 
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