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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第九十幕 「夏だ!海だ!暴走だ!!」

 
前書き
しかし公開するのは冬である。 

 
 
視界はゼロ。
周囲は灼熱。
装備は棒切れ。
頼れるのは勘と聴覚のみ。

さて、これなーんだ?

「ずたぼろの戦闘機で、自爆する敵要塞から子供たちの声に導かれて脱出する白い悪魔ですの?」
「違う!というかそれ無理あると思う!」
「棒という名の核爆弾を抱えてレッツ灼熱の太陽へ・・・みんなに別れを告げながら彼はそのまま一人で太陽に消える!?」
「それも違う!しかもそれも無理ある!!」
「水を操る盲目の超能力者で、杖から伝わる声の振動を頼りに遠隔攻撃を仕掛けるしりとりの救世主!?」
「違ーう!!でも条件は結構満たしてる!?」

セシリア、ジョウ、佐藤さんの順に次々発射されるボケを見事に捌ききったユウは、ぜえぜえと肩で息を切らしながら砂浜の一角に置いてある西瓜を力いっぱい木刀で叩き割った。目隠ししながらなので周囲のヒントが頼りなのだが、簪以外は面白がって明らかに嘘の方向を教えたり、勝手にクイズを始めたりと結果は散々。相も変わらずこの学校は問題児が多い。

まぁ、それはそれとして―――お察しの通り、ついに臨海学校当日である。移動は済ませ、既にバスから降りた1年生たちはこの日のために用意した水着で母なる海を満喫している。
空は見事に快晴。さんさんと白い砂浜を照らす太陽の光と風に乗る潮の香りはずっと学校に缶詰だった生徒達に一時的な解放を与え、自由時間である現在は各々が自分流の楽しみ方で青春を謳歌していた。

「ささ、箒ちゃんはこっちこっち♪センパイとのデートについてじっくりねっぷり聞かせてもらわないとねー!」
「オイルも塗ってあげちゃうわよ~?」
「・・・・・・揉んでいい?」
「駄目に決まっているだろ!というかなんだお前ら人を囲って・・・あっ、ちょっ・・・ほ、本当に揉むな!しかもオイルを塗りたくりながら!?・・・ひっ!?誰だ人のお尻を鷲掴みにしてる奴!?や、やめろ・・・やめ、ぁっ、ああああっあーーーーーーー!?!?」

完全に周囲の玩具と化した箒が複数人の女子に取り囲まれて艶っぽい悲鳴が上がっている。人の壁に阻まれて見えないが、おそらく全員にオイル付きの掌で体を弄ばれているのであろう。一種の集団暴行に見えなくもないが、彼女たちをどけるとそれはそれで危ない姿になった箒が白日の下に晒される気もする。
時折幼馴染に助けを求める悲鳴が聞こえる中、それから目を逸らして空を眺める一夏であった。

「助けに行かなくていいのおりむー?」
「え!?あの中に突っ込めと!?」

とハイテンションな所もあれば、逆にローテンションな所もあり・・・その反対側では鈴とラウラが体操座りしながら周囲の女子達に恨めし気な目線を送る。あの辺りだけカビが生えそうなほどに空気が淀んでいるのは気のせいか。

「何故神は・・・我々の身体にお恵みを与えられなんだのだ?何故神は胸の大きい女性を求めるよう男を作ったのだ・・・!」
「寄越せ・・・身長を、お尻を、おっぱいを寄越せぇ・・・!私に大人っぽい体を寄越せぇぇ・・・・・・!!」

二人とも十二分に可愛らしい恰好ではある。が・・・いかんせん周囲とスタイルが違い過ぎて明らかに迷い込んだ小学生みたいな形で浮いていた。鈴は少なくともラウラよりは胸も体も大きいがその差は五十歩百歩、しかもそれでも学園平均と比べると大きく下回る。
流石は学園の二大幼児体型。そっち方面に需要はあるかもしれないが、2人はきっと喜ばないだろう。簪は体の大きさ的にギリギリセーフである。

「こうなったら・・・ラウラ、泳ぐわよ!!私たちのしょっぱい青春を海水に捧げるのよ!!」
「応ともさ鈴!!我々はマーメイドに・・・岩礁に妖しく唄うローレライとなって(むね)あるものに災いをもたらすのだ!!」
「先だっては、あそこでキャッキャとはしゃいでいる胸と尻に贅肉溜めこんだ女どもを一人残らず水中に引きずり込んでやる!!」

瞬間、凄まじい速度で飛び出した2人は、プロ級に美しい飛び込みフォームで水中に潜り込む。
次の瞬間海抜50センチくらいのエリアで遊んで居た生徒達が次々に悲鳴を上げて海に引きずり込まれた。恐怖から必死で逃れようと伸ばした手が、抵抗虚しくずるずると引きずり込まれ、やがて海に沈黙が訪れる。
一通り沈めつくして満足した2人は息継ぎの為に浮上し、互いにハイタッチを済ませると再び潜水。次のグループへ音もなく忍び寄る二人の影は、もはや人魚ではなくどこぞの肉食鮫にしか見えなかった。
というかさり気に2人とも体格の割に身体能力は高いが、胸が無い分水の抵抗が・・・などと迂闊なことを口走れば水死体(どざえもん)にされること請負だろう。


そんな感じでいい具合に暴走する周囲を眺めながら、佐藤さんはユウの叩き割った西瓜の一欠片をしゃくっと齧った。ついさっきまでクーラーボックスで冷やしてあったためまだひんやりとした冷気を持ったままだが、この西瓜は品種改良されて種無しなので種を飛ばしたりは出来ない。佐藤さんとしてはその方が食べやすくて好きなのだが。
砕かれた西瓜は既に西瓜割り参加者に配分され終わり、向こう側ではユウと簪が一緒にスイカを食べながらビーチバレーを見学していた。簪はレースが可愛らしい黒の水着を見せてユウに感想を迫ったりと最近かなり積極的な行動とる様になってきた気がする。バックに潜むラズィーヤさんとやらは強敵だよ、ユウくん?などと他人事のように笑いながらも、実際には佐藤さんは別の事を考えていた。

(原作ISの大きな山場の一つ、銀の福音事件・・・とうとう明日になっちゃったなぁ)

アニメで言えば第一期のラストに近づいて来ちゃった。まぁあの話では専用機持ちとワンサマーにしか被害が及ばなかったんだけど・・・不確定要素がいろいろあるからねー。正直、そろそろ危ないんじゃないかとか考えちゃうのですよ、私は。

状況をまとめておくと、現在IS学園側は原作勢+まだ出ていなかった簪ちゃん、ユウジョウ兄弟、更には明日に来ると思われる紅椿。それとひょっとしたら最上重工の新型や楯無さんの参戦する可能性が無いわけではない、っと。正直ジョウさんがいる時点で負ける要素が無いような気もするけど、ちょっと気になることがある。

最初の襲撃事件は原作とずれていた上にそれなりの苦戦を強いられた。ラウラちゃんも結局暴走は起こさなかったが、大会では怪我人(ユウ君だけだけど)が出た。ちまちまとだが、確実に原作と変わってきている。ユウ君とつららちゃんが襲撃にあった件も織斑先生経由で耳に挟んでいる私としては、これが一筋縄で終わる事件じゃなくなるのではという疑惑が拭えない感じがする。

不確定要素は他にもまだある。ベル君の事だ。
ベル君は今日、ISの調整を学園でやっているため来ていない。明日から来るそうだが、まだ体力や心の問題で皆と一緒に合宿という訳にはいかないようで、私が付きっきりになることが決定済み。・・・その1日ずれるというのが、何となく気になるのだ。
もしもベル君が今回起きるであろう事件に関わるとしたら、それは非常にまずい。ベル君のIS操縦技術は未だに素人並みなのだから、『専用機全機出撃で福音を叩け!』とか委員会から要請が来たら・・・最悪、戦いで本当に死んじゃうかもしれない。

いやそれともこちらに辿り着く前に何かに巻き込まれたり、兎さんの悪巧みでイタズラされたりすればベル君は耐えられるんだろうか?いや、そもそも教務補助生の私にも出撃のお鉢が回ってくる可能性はある訳で―――駄目だこれ、考えてもしょうがないや。なるようにしかならないね、こればっかりは。

と、考え事をしてたらいつの間にかワンサマーが目の前に。のほほんやら他の子は一緒ではないようだけど、鈴と一緒にいないってのは意外だね?今の所ワンサマー狙いは鈴ちゃんだけだからてっきりもっとくっつくと思ってたんだけど・・・

「どうしたんだ佐藤さん?考え事してたら西瓜が温くなっちゃうぜ」
「それもそーだね。あむ・・・っと」

全ての西瓜を食べ終わった私は近くのゴミ集め袋の中にぽいっと西瓜の皮を放り込む。指に西瓜の汁が付いちゃってたのでぺろりと舐め取ると、ワンサマーがなんかこちらから顔を背けつつもチラチラ見ていた。取り敢えず弄ろう。

「ん?何?」
「いや、何だろうな・・・女の子っぽいな~なんて?」
「それはあれなのかな?私は普段女っぽくない粗雑な人物だとでも言いたいのかな?」
「ええ!?い、いやいやそういう事じゃなくて!なんだかほら、この学園の女の子達って結構ノリがおかしいからちょっと普通の女の子として見れなくて・・・そういう仕草を見ると普通の女の子って感じがしたんだ」
「は、はぁ・・・」

ごめん、何言ってるのかよく分かんない。
ノリがおかしいのはちょっと分かるけど・・・というか若干顔赤くない?さっきクラスの女の子たちに囲まれて体を弄ばれていた時でさえ顔色一つ変えなかったのに、ひょっとして舌フェチの方でしたか・・・?なるへそ、それならば納得・・・・・・するかい!本当に舌フェチなら今後の付き合い方を考えなければいけないね。
などと反応に困っていると、向こうも困ったように後頭部を掻く。普段は人の顔色も気にせず言いたいことだけ言うくせに変な男だ。原作もそうだったけどこの人の言動ってあんまり普通じゃないよね?やーい変人ー。

「あ、あはは・・・何言ってんだろう本当。えっと、それじゃ俺向こうで泳いでくる!それと佐藤さん、その水着似合ってるぜ!じゃ!」
「あ、うん。ありがと・・・って、行っちゃったね」

ノリがおかしいのは肯定するけど、私に女の子を求められても・・・って気はしないでもない。まさかとは思うけどスケベな妄想とかしてないよね?それこそ凄い反応に困るし。ともかくそのままワンサマーは行ってしまわれた。若干挙動不審だったけど大丈夫なんだろうか?と思って見ていたら・・・

「一夏ぁ~!!何を佐藤さん口説こうとしてんのよ!!罰として海に沈みなさい今すぐにッ!!」
「ぎゃぁぁぁ!?そ、そういう所が女の子っぽくないって・・・がぼぼぼっ!?」
「わー!わー!ちょっと鈴それは流石に洒落にならないからっ!?」
「止めないでシャル!一夏は、一夏だけは・・・ここで沈める!」
「いやむしろ君が鎮まって!?」

・・・シャルと三つ巴の戦いになった末に、ワンサマーの手はしっかりとシャルロったんの胸を鷲掴みにしてし、結局沈められることとなった。私も一歩間違えたらああなの?ラッキースケベを主人公にやらせるシナリオ考える人って女の子のコトなんだと思ってるんだろ・・・はぁ。

「男ってほんと馬鹿ねぇ・・・・・・」

思わずそう言った瞬間、うしろでどさどさと砂が鳴ったので何事かと振り返ると・・・何故か周囲のみんなが手に持つ物や膝を砂上に落としている。呆然自失といった感じだけど、なんか変なこと言ったっけ?と思っていると・・・

「さ、佐藤さんが魔性の女みたいな雰囲気醸し出してる・・・!?」
「そんな!普通じゃない佐藤さんなんて佐藤さんじゃない!さては偽物ね!?」
「言われてみれば西瓜の汁を舐めるとき、妙にエロティックだったような・・・!?」
「つまり今の佐藤さんはエロモードなんだね!」
「普通モード、おかんモード、策士モード、乙女モード、真面目モードに次ぐ第六の人格・・・エロモード!」
「・・・って、何でそうなるのぉぉぉーーーーーッ!?!?」

―――などと皆は口々にあらぬことを申され始めた。
ふと漏れてしまった精神年齢40歳越えの部分が起こした盛大な勘違いを修復するために、更なる困難に見舞われる佐藤さんだった。



実際の所、一夏は佐藤さんにちょっとした憧れを抱いていたりする。自分と違って専用機も無しに第一線級の実力を保持し、大会でも決勝まで引っ張ってくれた佐藤さんは密かな目標だったりするのだ。何より佐藤さんは自分が護ると決めたあの千冬にさえ一目置かれ、頼りにされているのだ。一度自分が佐藤さんを守るシチュエーションとはどんなものかを考えたことがあるが、結論は「ありえん(笑)」という悲惨な結果に終わった。

そんな完璧超人のようなイメージがある佐藤さんの水色と白のストライプ模様の水着姿は、見た目もそのままかなり普通だった。普通過ぎて、逆に美少女に見慣れてしまっていた一夏はそんな彼女が指を舐める仕草に女の子っぽさを感じてしまったのだ。とびっきりの美少女ではないがゆえに、“普通の可愛さ”というものが一夏の顔をわずかに赤く染めたというのが真相だったり。

・・・この出来事が後に今年の流行語大賞として猛威を振るうあの一言に繋がるとは、この時誰も予想していなかったとかなんとか。
  
 

 
後書き
読者のみなさん、本っ当にお待たせいたしました!
と同時にフライングで謝っておきます。これからの臨海学校篇全体の展開はかなり寝耳に水というか、何で今までそれを黙ってたの?という話になってきます。第百幕ではっきりしますので・・・・・・今のうちに別れを惜しんでおいてください。 
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