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アラガミになった訳だが……どうしよう

作者:アルビス
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派遣社員になった訳だが……どうしよう
  12話

で、数日雪原を放浪してフェンリルに納品するためのヴァジュラ二体、コンゴウ三体を捕獲して、ロシア支部の近くに置いてから街に戻ったわけだが。想像よりもこの仕事は相当にしんどい物だと実感させられ、俺のやる気は目に見えて下がっていた。何がつらいかと言えば、歩けども歩けども一面白い雪ばかりの景色、変化がありとすれば忌々しい吹雪か眩しい晴れかのどちらか。アラガミを狩るにしてもこんな変わりばえのない風景で、似たような作業を延々繰り返してただひたすら歩き続けてアラガミの数を数える。
何が苦しいわけではなく、何も変化がないという退屈さが途中で限界に達するのだ。ここが緑の多い土地や、まともな廃墟やらがあればそれを見て回り、退屈を潰せるだろうに。あるのは雪だけ、いるアラガミもコンゴウ、ヴァジュラ、コクーンメイデン、ザイゴート、オウガテイルともはや見飽きたアラガミばかりだ。たまにサリエルもいたりするのだがすぐに逃げられるか、ザイゴートの群れに妨害されたりで戦うこともない。
そんなウンザリした気分を晴らすために街の食料品店で適当な惣菜を買って、気を紛らわそうと考えた。こういった店ならば店員と会話する必要もないし、商品をカゴに入れて金を渡すだけで済む。さて、色々と見て回っているのだがあまり良さげな品物がないな……
仕方ない、自分で作るか。
これでもこの世界に来る前はそれなりに料理はしていたのだ、たまには鍋を振るうのも悪くない。
となると、何にするかだが……せっかくのロシアなのだからそれに因んだ料理がいいな。そうだな、ボルシチでも作るか。煮込み料理ならば日持ちもするだろうし時間さえかければ美味くなるのだから、俺のように時間に余裕がある場合には最適だろう。
確か、必要なのは基本としてビーツ、肉はブロック、野菜は香味野菜とジャガイモとキャベツ、あとは基本調味料に臭み消しのローリエであればいいな。ああ、ビーフストックがあるのならば出汁は確保できるな。それとサワークリームを忘れずに、と。こんなところか、金は普段使わない分余裕があるのだから、こういった趣味に使わせれもらうとしよう。
帰り道で大きめの鍋や食器を買って、数日ぶりとなる我が家に帰ってきた。
やはり、あんな味気のない雪原に居ては人間色々ダメになる、いや人間ではないが中身は人間なのだから同じだろう。そんな事を考えながらまっさらのキッチンに調理器具と材料を並べ、料理の準備を始める。
ビーツを刻んで水と少量の酢で煮込みながらとりあえず放置だ、煮詰まらないように様子を見ながら野菜でも刻んで……こんな時に来客か。こんなご時世に近所付き合いもあったものではないと思うのだが、仕方ない。無視というのはあまりに問題があるだろうし、別段急を要することもないのだ。火を弱火にしてから、玄関を開けるといつぞやのロシア人夫妻がいた。
どうやら、引越し祝いにピロシキを持ってきてくれたようだ。ロシアにもこういった風習があるのか、それともこの夫妻の性格なのか分からんが非常にありがたい。話を聞くところによると、この家の前の持ち主は夫妻の友人だったのだが二年前に外でアラガミに襲われて亡くなったらしく、ここに引っ越してきた俺に何かしら思うところがあるらしい。
何かしら困ったことがあったら相談して欲しいと言い残して、夫妻は家に戻って行った。彼らの後ろ姿を視線で追ってみて分かったのだが、どうや夫妻の住む家はこの家の隣らしい。いやはや、カナメ同様この世界でああいった人間に出会えるというのは、中々にいい気分になるな。
これだけでもここに来た甲斐があったというものだ、存外ここの生活悪くはないな。………仕事は最悪だが。

さて、ビーツを煮たものを濾してから別の鍋で豚肉の塊をビーフストックで煮込み、ローリエ、オールスパイス、黒胡椒で香りを…………………今度は電話か。ん?カナメからか。
「ああ、マキナさん?今、大丈夫ですか?」
とりあえずしばらく煮込むだけだから、別に問題ないな。
「構わないぞ、どうしたんだ?」
「いえ、コトミの…ああ、二人目の娘の名前なんですけど、コトミの為に色々と送っていただいてありがとうございます。すぐにお礼を言おうと思っていたんですけど、中々時間が取れなくて…」
「いや、気にするな。別段大した事でもないし、俺自身金を使う機会があまりないから偶にはこういうことで使うのが社会のためだろう?」
すると、電話越しに微かな笑い声が聞こえた。カノンあたりだろうか?
「マキナさんらしいですね。今は何をしているんですか?こちらではあまりに見かけないんで気になったんですけど」
「ああ、ロシアで面倒な仕事だ。細かい事は教えられんが、当分ここにいなきゃならん。全く……あのマッドサイエンティストめ」
「サカキ博士ですか……遠くからですが応援していますよ」
「ああ、ありがとう」
俺の周囲でこういう心のこもった労いの言葉をかけてくれるのは、カナメやコトハ位しかいないので、こういった言葉は非常にありがたい。
「それと、今の仕事が終わったら、またうちに遊びに来てください。カノンも喜びますよ」
「………ああ、考えておくよ」
以前、カナメの家に行った時にマントをカノンにやたらと引っ張られたのが思い出されるな………正直、マントは俺の体の一部を変化させた物なんで引っ張られると痛いんだ。最後に台場家を訪れたのは去年の年始だったな。とりあえずおじさん呼ばわりだけは何とかやめさせられたが、代わりに大砲の模型をせびられたんだった。いや、それ程高い物でもないのだから別段気にするような事じゃないんだが、未来の彼女をしる俺からすれば彼女と大砲というのは余りに不吉すぎる組み合わせだ。
それも結構な勢いで模型を欲しがっていたのだから、ゲーム中のあれは確実に近付いているんだろうな。いや、そもそも赤ん坊の時からその片鱗があったのだから、どの道避けようはなかったんだろうはこうして目に見えてトリガーハッピーの要素が出てくると、なんだかやるせない気分になる。
その後、お互いの近況や益体の無い話を続けてから電話を切って、再び鍋の様子を見る。どうやら随分長い間話し込んでいたらしく肉は柔らかく煮込まれ、蓋を開けるといい匂いが部屋に広がった。
これで腹が膨れる訳ではないと知っているのだが、やはりこういった匂い嗅ぐと腹が減るな。


次に煮込んだ豚肉を一口大に刻み、濾したビーツに刻んだ野菜、残ったビーツを刻んだ物と共に投入。ああ、豚の煮汁も入れなければな。
さて、もう一煮立ちさせてから刻んだキャベツを入れて最後の煮込みで完成だ。それ程難しい作業ではなかったが、久し振りの料理なんだリハビリとしては丁度いいだろう。うん、実に完成が待ち遠し………………………電話か。しかも、サカキか。
「………なんだ?」
「物凄く不機嫌そうだね、何かあったのかい?」
その心配そうな声色が余計に腹が立つ。これが電話である事に感謝しよう、もし目の前にサカキがいたら助走をつけて殴っていただろう。
「やかましい。で、要件はなんだ?」
「いや、大したことではないんだけれど、調査は西側はしなくても構わないよ」
「ん?どういうことだ?」
「欧州の方のゴッドイーター達にある程度の余裕ができたらしくてね、ロシアの西側は彼らが調査するようなんだ」
そりゃありがたい、数日歩き回って分かったがロシアの国土全部を一人でやるのは精神的にもたないだろうし、俺自身途中でギブアップだろう。だが、欲を言えば北の方をやって欲しいのだが、あの吹雪を人間が乗り切るのは少々厳しいだろうし、その辺りは仕方ないのだろう。
サカキにしては珍しく有益な情報だったな、たまにはマッドサイエンティスト呼ばわりもやめてやろうか。なに、こいつも性格に難ありだが基本は善人なんだ、あまり一方的に悪人呼ばわりするのも問題だったな。
「それと、伝え忘れていたことがあったんだけど」
「なんだ?」
今度、素材を送るときは多めに送ってやるとしようか。
「いやね、軍の作戦に送るときのフェンリルからの援軍に、君を推薦してしまったんだよ」
……………………………オイ、コイツナンテイイヤガッタ?
「いやーすまない!!2、3人では少々不安があったんだけど、適任のゴッドイーターが見つからなくてね。正体がバレることはないように手は回しておいたから、ロシア支部のゴッドイーターという風に振る舞ってもらえれば問題ないよ」
よし、今月の素材は生きたヴァジュラをダース単位でお前の研究室に送りつけてやる、研究室ごと滅んでしまえ。
さっそく、仕事だ。これ程仕事のモチベーションが上がったことはないぞ、さぁ狩るぞ、すぐ狩るぞ、今狩るぞ!!
「いやいや、誤解していると思うんだけど君の仕事は後片付けだよ」
「は?なんだそれは?」
「不謹慎だとは分かっているのだけれど、軍の作戦は確実に失敗するだろう。その時、そこに集まったアラガミが周辺の街を襲うだろうから、その被害を抑えるために君を推薦したんだよ」
「………つまり、散ったアラガミを片付ける、軍の尻拭いか?」
「言い方は悪いけれどその通りだ。これは君にとっても悪い話ではないと思うけどね?」
成る程、文字通り餌で俺を釣ろうという訳か。どの道、あそこが原作までの間で言えば残っている最後のイベントのようなものだからな。今後の流れの確認のために一応見てはおきたかったので構いはしないのだが、やはり無断で俺を使うことを決定したことは腹立たしい。そもそも、見るだけで介入は避けるつもりだったんだがな………
結果としてはそこまで大きな介入には並んだろうから、その辺りは諦めるとしよう。だがな、サカキ……これだけは言わせてもらう。
「今度、一発殴らせろ」
 
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