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アラガミになった訳だが……どうしよう

作者:アルビス
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アラガミになった訳だが……どうしよう
  3話

以前コンゴウを喰らって以来、ちらほらと他のコンゴウを見かけるようになった。
お陰であれから十数体コンゴウ喰らって、腕の強化と空気弾を撃つためのパイプを背中から出現させられるようになった。
空気弾自体はザイゴートでも撃てたのだが、威力は圧倒的にコンゴウの方が上であり精度も中々だ。
という訳でなんだかんだと喰らい続けている内にこの辺りのアラガミを楽に倒せるようになった事もあり、少々予定より早いが北へ行こうと思う。
シユウはいつになっても現れる様子はないし、何より同じ相手ばかりでいい加減飽きてきたというのとこの辺りのアラガミが俺を見ると逃げ出すようになってしまったのだ。
コンゴウはそうでもないのだが、オウガテイルやら小型アラガミは俺を見つけた瞬間逃げる。
どうやら、人間かと思っていたが実はアラガミだったというのがばれたようだ……少々残念だが仕方ない。
名残惜しいがこの部屋から去るとしよう、再びここに戻ってきた時も無事にあることを願いつつ約一月程の世話になった我が家に別れを告げる。

街を出て、数日前に意を決して食べた音楽プレーヤーを模して作り出したオラクル細胞製の音楽プレーヤーから流れる音楽を口ずさみながら一路北へ。
アイムシンカーとぅーとぅーとぅとぅ…
森の中に入ったのだがどうやら自然は比較的無事らしく、それなりに木は生い茂り緑は豊かだ。
いやはや、ピクニックにはもってこいの環境なんだが、そこら辺にアラガミの死体やらが転がっているのはいただけないな。
しばらく森を歩いていると小さな泉を見つけた、空母の辺りに行った時くらいしか水浴びなどできなかったからこれはありがたい。
アラガミは老廃物はほとんど出さないから風呂やらに入る必要性はないのだが、やはり精神的には入りたいという欲求は強い。
マント代わりのタオルケットを近くの木に掛け、残りの服は水場のそばに置いて俺はゆっくりと泉に身を沈める。
ふぅ………やはりいいものだ。
アラガミの体のお陰で水の冷たさはそれほど気にならず、むしろ僅かに感じる冷たさは心を潤してくれる。
やはりこういう心の余裕を持って暮さねばこの殺伐とした世界を生きていくのは辛そうだな、何より衣食住全てが完璧とは言い難い状況なのだ、こうでもしなければやっていられない。
大体、少し前までごく普通にのんびりと生きていた筈なんだがこんな物騒極まりない世界に放り込まれたのだ、面倒だとかそんなレベルの話ではないぞ。
嘆いても放り込まれてしまったのだから仕方の無い事なのだが、こちらとしても文句の一つは言わせてもらいたい。
と言ってもその文句を聞いてくれる相手などいないわけだがな………あーやめだやめだ、ここで愚痴っても仕方ないのだからせめて音楽でも聴いて気持ちを改めるとしよう。
どんとふぉーげっとあほーるいんざうぉーる……
パイルバンカー持ちのアラガミとかは……いないよな?

さて、気も晴れたことだしそろそろ旅を続けるとしよう………ん?
地震か?やたらと地面が揺れているような気がするが、どうやら気のせいではないぞらしい周囲の木がやたらと揺れている。
この体には倒木など何の問題でもないが、何故だか嫌な予感がするぞ?
それを証明するかのように地面の揺れが不自然なまでに大きくなり、まるで何か規格外の大きさの何かがこちらに向かっているような……うん、不本意極まりないが全力で逃げるとしよう。
明らかに今の戦力じゃ勝てないアラガミが見えた、ゲーム中盤の難関で山のような巫山戯たサイズの体を持ち、ゲーム本編でも並のゴッドイーターではどう足掻いても勝てないとされるアラガミ ウロヴォロスがこっちに向かって来ているのだ。
正直な話、この時代では本編より幾分か弱いだろうが今の段階では無理な相手だ。
戦力以前に倒したところで俺一人ではコアを喰いきる前に、体のダメージを修復されかねんからな。
だが、最悪な事にウロヴォロスはここを通りかかったのではなく、間違いなく俺を狙っているのだからどうにかしてあれを振り切らなければならない。
動きは鈍重だが一歩一歩の歩幅が桁違いなのだ、足にオラクル細胞を集め速度を上げてはいるもののいずれ追いつかれるだろう。
全く、気分転換した直後にこの扱いは不幸にも程があるぞ!!
くそ、こっちは木やらなんやらに道を妨害されながら進んでいるのに、向こうは何の問題もなく木を踏み潰しながら来ているではないか。
悪態をついていても仕方ない、ウロヴォロスをどうにかする方法を考えなければならないわけだが一体どうしたものか?ゲームであれば麻痺用のトラップかスタングレネードでどうにかできるんだが、今はそんなものがあるはずがない。
となるとどうにかしてこの身一つでウロヴォロスをダウンさせなければならないんだが、サイズが違いすぎるお陰で硬質な脚しか攻撃できず、しかもこっちの刃よりも向こうの脚の方が硬いのだから傷すらつかないだろう。
今の武器でウロヴォロスに攻撃がまともに効く部分など精々頭についている複眼くらいだろうが、コクーンメイデンのレーザーでは当たったところで何のダメージにもならん。
コンゴウの空気弾ならば可能性があるだろうがそんなものを溜めていたら、即座に追いつかれて踏み潰されるか触手で串刺しになるのは目に見えている。
となると、残った手段は地の利を活かしてどうにかするって位か……ウロヴォロスは触手はやたらとあるが、実際に地面に経つのに使っているのは触手の一番奥にある二本の足だ。
つまり、バランス的には相当無理をして動いている、平地ならばそれはさしたる問題ではないだろうが、坂道になるとそれは変わってくる。
坂道、それも山のような傾斜のキツイ坂ならあの移動速度も大分落ちるはずだ。その状態で頭にコンゴウの空気弾を打ち込めば体勢を崩すのにそう手間は掛からんだろうし、あわよくばそのまま坂を滑り降りてもらえると助かる。
幸い山はもう見える距離にある、この獣道で追いつかれさえしなければ逃げることは可能なのだ、ここで追いつかれないことを祈りつつ走り続けるしかない。
途中何度かウロヴォロスの複眼からビームが発射されたものの、どうにか腕を掠める程度にしか当たらなかった。
少々焦げたがこの程度ではこの体は痛みを感じないらしく、足を止めることなく逃げ続けられた。
だが、ウロヴォロスの一番厄介な触手が届きかねない距離までには詰められてしまった、これは正直かなりマズイ状況だ。
ウロヴォロスのビームは威力はともかく攻撃範囲はそこまでもなく軌道も直線的なものであるが故に、後ろから撃たれても多少横に体を逸らす程度で直撃は免れるが触手に関してはそうはいかない。
範囲、軌道ともに非常に回避が困難極まりないのだ。ゲームでは足元に潜り込めば問題なかったのだが、それはウロヴォロスを倒せる場合の戦法であり、今のような退却戦に置いては論外の戦法でしかない。
これから先、恐らく距離として1km程はウロヴォロスの触手の突き、払い、叩きつけその全てを回避しなければならない。
一撃でも当たれば運が良くても手足の一、二本は確実に使えなくなる重傷を負わされる、運が悪ければ一撃で完全に行動不能にさせられて一巻の終わりだ。
既に三回ほど触手の叩きつけを回避しているが、かなり危険と言わざるをえない。
それでもアラガミの身体能力のお陰で三回避ける内に山道までの距離は半分を切った、ウロヴォロスが叩きつけを三度外したこともあり僅かだが距離を空けることができた。
油断するつもりなど毛頭ないが、この逃走劇にもようやく終わりが見えてきたことは確かだ。
あと二回やつの触手を回避できれば山道に逃げ込める、その二回で最後だ。
まず一回目、風を切る音が聞こえる。当たれば死ぬ、掠ったとしても詰む、賭けとしては分が悪いどころではない。この体が人間であったなら心拍数は跳ね上がり、握り締めた両手は汗が滲み出ているだろう。
が、この状況をどこか楽しんでいる自分がいる、この世界に来る前には決して体験できなかった恐怖、それが今自分は生きているのだとかつてない程に実感させる。
体の隅々まで血が通っていると実感できる程に感覚が研ぎ澄まされ、周囲の時間が酷く緩やか進んでいるのように感じられる。
その感覚のままに俺は右に跳んだ、どうやら今度の攻撃は突きだったらしく鋭く変化した触手が視界の端に見えた。
あと一回、それでこの危機から逃れられるそう思うと気が引き締まる、この一回に今までの全てがかかっているのだから当然といえば当然だろう。
先程突き出された触手がウロヴォロスの方へ戻っていく。どうやら、相手も次を逃せば俺に逃げられると本能的に察したらしい。
次の一撃は向こうも当てることのみに重きを置いた攻撃になる、つまり広範囲かつ高速の攻撃それは……全て触手を使ってのなぎ払い。
案の定、周囲の木々がなぎ倒される音が響いてくる。しかも、範囲は想像よりも遥かに広くこのまま走ったところでどう足掻いても回避は不可能だ。
そう、このまま走った場合は、だ。
少々惜しいが反撃の為に溜めていた圧縮空気を足から噴出し、瞬間ではあるものの爆発的な加速を得る。
そして、そのままある程度の高さまで、顔などをコンゴウの物に変化させた両腕で守りながら山道を突き進んだ。
そして、恐らく安全であろう距離をとれたと考え、振り返った俺の視界は触手で地面を叩きつけ跳躍し、こちらに飛んでくるウロヴォロスの巨体に埋め尽くされた。













 
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