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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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拠点フェイズ 4
  拠点フェイズ 北郷盾二

 
前書き
これで拠点フェイズ4は終了です。
次回は新章『群雄割拠の章』となります。

注意)文章中に人によっては不快な場面があります。ご注意ください。 

 




  ―― 盾二 side 梁州回顧録から抜粋 ――




 黄巾の乱が終わり、桃香は梁州という新しい州の刺史となることが決まった。
 歴史に反することかもしれないが、俺はそれを選んだ。
 後悔はしていない。

 だが、やはり後ろめたさがある。
 ゆえに、誰にも見せない、俺の心の内を綴った日記のようなものを書くことにした。
 わざわざ大枚はたいて買った紙の書だ。
 幸い、ポケットにボールペンがあったので、これで携帯しながら書ける。
 いつか向こうの世界に戻った時、報告の必要もあるだろう。
 多分俺は罰せられるかもしれないが……それでも俺がどう思ってこういう歴史改変をしたかを自分で思い出すためにも、報告書のつもりで書いていく。

 元々は、スプリガンの試験のために始めた任務、あれからすべてが始まった。
 その目的である銅鏡を手に入れた途端、一刀の頭がそれから出てきた闇のようなモノに喰われた。
 遺体を背負って逃げていたら、追いつかれて……闇の中にいた。
 何言っているかわからないかもだが、未だに俺にもよくわからない。

 そして闇の中で変なオカマ声に導かれて、気がついたら目の前に三人の美少女がいた。
 あ、いや。
 報告書に美少女って書いていると、馬鹿か俺はって気になるが仕方ない。
 (注)『向こうでちゃんとした報告書で書くときはこれを書き直すこと』

 その少女たちは劉備、関羽、張飛という、中国三国志の英傑だという。
 最初はなんの冗談かと思ったが、もしこれがタイムリープだとして、この頃は女尊男卑の世界から男尊女卑の世界になった時に、歴史書が書きなおされた可能性もあると思って受け入れた。
 事実、女性であるのにその武力は、スーツを着た俺達以上だ。
 以前、朧や優先輩から教わった『気』の力で強化されていると推察した。
 AMスーツのサイコブローを使わせたら、多分とんでもないことになるんじゃないだろうか?
 俺達の着る最新型は、俺達専用なのが少し残念だ。

 ああ、忘れていた。
 この世界に来たら、一刀の頭が戻っていた。
 ……変な言い回しだが、遺体が元に、ではなく、生きた一刀だ。
 その事で、ここは時間が戻った世界ではないかと思ったのだが……それじゃあ俺はどうだとか色々不可思議なことは残る。
 まあ、それはいい……俺にとっては一刀が生きていることが重要だから。

 だが、その一刀は何日経とうと目を覚まさない。
 なので、劉備という人(真名という風習がある、諱より重い習慣で知っていても許可した相手以外が呼んだら相手を殺していいらしい。怖い世界だ)の真名が桃香という。
 ちなみに関羽は愛紗、張飛は鈴々という。
 この三人が街に案内してくれて、一刀を医者(華佗という医師。気と鍼の達人。人物像は後述)に見せたが、覚醒方法が不明とのこと。

 俺は一刀の安全を確保するため、三人と共に公孫賛(史実の公孫瓚)という人のもとで客将になった。
 この世界は、黄巾前で盗賊が我が物顔で跋扈している。
 この辺りは歴史のとおりだ。
 
 どういうわけか、俺が三人に混じって部隊を率いることになってしまったが……まあ、状況的にしょうがないと諦める。
 おまけに俺がご主人さ……(横線が引かれている)
 いや、なんかいやに慕われている気がする。
 ともかく公孫賛(真名白蓮)のところで半年ほど転戦した。
 さすがに千単位の指揮は難しかったが、愛紗や鈴々というお手本があっていい参考になった。
 試行錯誤しながらだが、人をまとめるのがこの頃からうまくなったような気がする。

 その後、とうとう黄巾の乱が起きた。
 桃香たちと共に義勇軍を率いて乱を戦う。
 この時に諸葛亮孔明や鳳統(史実の龐統)らしき幼女と、ひげもじゃのオヤジが俺の臣になった。
 正直、どうしてそうなったのか……俺にもわからん。
 別箇で戦闘記録報告書に書く時にでも、そのあたりはまとめておく。

 この世界は時系列が少しおかしいようで、黄巾の時代に孔明や鳳統、しかも馬超までもがいた。
 なんだかんだで共闘することになる。
 しかも孫堅はすでに故人で、孫策が孫呉とかいって兵を率いていた。
 この辺からもう、歴史書の記載と明確な差異がある。
 下手をすると、これは俺達のいた世界じゃないかもしれないと思い始めた。

 その黄巾の乱で、俺はどうやら暴走したようだ。
 で、夢の中でオカマっぽいのが色々説明してくれた。
 やはり別世界のようなもので、オカマはどうやら仙人らしい。(朧が目指しているものらしいが)
 まあ、人物像が見えないので想像するしかないのだが……多分ろくでもない外見をしていそうだ。
 しかも、この世界は一刀が作った世界らしい。
 一刀が起点になった世界構成……それが三国志の武将が女体化した世界とは。

 とんでもないムッツリスケベ……と思ってしまった俺は悪くない、と思う。
 まあ多次元宇宙論の話で、俺達がいた元の世界もその一つだという。
 スプリガンになる教育の中で、そういう話はいくつも聞かされてきたけど……本当にそうだと言われると、ちょっとショックだ。
 おそらく、アーカムに戻ったら研究が始まるのだろうな。

 ともかく、そのオカマ仙人から俺も一刀と同存在と言われ、なんとなく納得できるものがあった。
 暴走の時に見たイメージといい、俺の中にはなにか爆弾があるように思える。
 自分自身の変化がこの世界の住人、桃香や愛紗たちに悪影響を及ぼさないように、しばらく一人で旅をすることにした。

 目的はこの世界に眠っている賢者の石。
 アーカムでの資料にあった、世界有数の賢者の石発掘場所であったミニヤコンカに向かうため、俺はもうすぐ荊州に入る。
 どのみちオリハルコンが精製できないのだから、全部金にしてしまおう。
 それで新規に州になった『梁州』を一気に発展させてやる。
 チートだ、チート……と一刀に言われそうだ。

 だが、一刀が目覚めるまで、俺は止まるわけにはいかない。
 この世界が異世界だとわかった以上、歴史を守る必然性もない。
 一刀が目覚めた時、俺は一刀と共にこの世界を旅して回ること。
 それを密かな楽しみにしているのだから。




  ―― ??? ――




「――ました」
「そう――――――ら、いよ――」
「でも――――――するんですか!」
「――――――めない」
「それ――――では……」
「――――――と思え」
「「 ―――――――― 」」
「――――から」
「――ですっ! 私達も――――」
「――――――――」
「――――――――――――っ!」
「――から」
「「 っ…… 」」
「―――――――――くる」
「―――――――――――――――――――――――ですかっ!」
「――――――…… すまない」




  ―― 盾二 side 梁州回顧録より抜粋 ――




 いろいろあって、すっかりこの覚書のことを忘れていた。
 正直、いろいろありすぎた。
 自分の存在とか、一刀のこととか、この世界のこととか……まさか自分が世界の中心近くにいるなんて。
 ともかくも、まとめておく……後で報告書にするときに頭痛めながら書くのだろうなぁ。

 荊州の白帝城で黄忠、厳顔、劉表に出会った。
 江賊との戦いに巻き込まれた挙句、口八丁で劉表を煙に巻いた。
 黄忠(真名紫苑)、厳顔(真名桔梗)が妙齢の女性であるのに、劉表は爺だった。
 どういう基準で一刀がそうしているのか、いまいちわからん。

 ともあれ、白帝城で華佗に会い、紫苑、桔梗と共に、桔梗の治める巴郡へ船で移動する。
 そこで、この時代にないはずのじゃがいもまで見つけた。
 下手をするとトウモロコシもあるかもしれない。
 これで醤油があったら、一刀を殴ってやりたい。
 いや、(ひしお)はあるけどさ……味噌も。

 その巴郡で夢のオカマとは違う仙人にあった。
 ああ、夢のオカマは貂蝉といい、巴郡のは于吉というらしい。
 多分、演義の名前か? 史実での知識ではよくわからん。
 演義は、斜め読みしていたことが悔やまれる。

 ともかく、于吉という仙人が俺を試すとか言ってミニヤコンカの山頂付近の洞穴までこいという。
 元々行く気だったので、そこにあることが確定しただけにやる気がでたが……
 もう二度と、軽装備で山は登らん。
 マジで死ぬかと思った。

 いや、その洞穴で出会った仙人の左慈ってのに実際に殺されたし。
 不老長寿の水とかいう、漫画の○豆みたいなもののおかげで助かったのだが。
 まあ、試験は合格して賢者の石はもらえることになった。
 体調回復した後、半月程度だが修行をつけてもらえたおかげで、だいぶ訛っていた体を鍛え直せた。
 だが、やはり仙人だからか、時間にのんびりというか、ボケているというか……
 仙人界と現世との時間の流れが十倍違うとか、もっと最初に言えって話だ。

 おかげで、二・三ヶ月で帰る予定が、一年後になってしまった。
 帰ったら追いかけられるわ、泣かれるわで、すんごく気まずかった。
 おまけに漢中で桃香たちのファンに、卵だの泥だの水だのぶつけられた。
 どうやら武将が全部俺の嫁だとか、触れ回ったバカがいたらしい。

 それが趙雲(真名星)という……あの義将と言われた五虎将だ。
 中身はとんでもないいたずら者で、結構よくサボる。
 だから馬正をその下につけてサボらないように見張らせるようにした。

 あ、馬正は黄巾で助けた俺の臣。
 髭そったら女性にモテるようになったという、ナイスミドル。
 なんというか……この人がそばにいると、すごく安心できる。
 年の離れた兄というか、すごく親しくて人のいい親戚のおじさんというか。

 周りが女性ばかりだから、色々相談できる馬正の存在は、本気で助かっている。
 締める処は締めてくれるし、本当に助けてよかった。

 あ、いや、他の二人の幼女……孔明(朱里)や鳳統(雛里)も大事だ。
 ものすごい政務能力・事務能力で、俺が指示した内容を忠実に実行してくれるばかりか、更にその発展までさせてくれる。
 元いた世界に連れて帰りたい。主に、俺の副官として。
 この二人をアーカムに連れて行ったら……いや、まて。
 ティアさんと三人で経営したら、本気で経済で世界を支配しかねないな。
 ティアさんに、ヘンリー・ガーナムのような野心はないだろうけど……ちょっと怖い。
 少し考えさせて。

 まあ、ともかくも持って帰ってきた賢者の石を使って、盛大に梁州を発展中だ。
 次の歴史イベントといえば、反董卓連合。
 だが、まだ数年は余裕があるから、それまでに梁州の力を強くして、その被害を小さくできるようにコントロールできればいいと思う。
 確か、史実では連合に劉備は参加していないし(公孫瓚の配下で参加していたかもしれないが)、裏で手を回して張遼(霞)やその上司の董卓さんを死んだことにして匿うこともできるだろう。
 どうも董卓って人が、歴史のような悪人には思えないしなぁ……多分。
 もう少し力をつけたら、洛陽への工作も始めなきゃならないな。

 と、そろそろ会議なので、ここで〆ておく。




  ―― 盾二 side ――




 ああ、まただ。
 またこの夢を見ている。

 周囲は血の海。
 倒れている大勢の民。
 燃える漢中の街。

 その中で、一人の男が子供を、女性を、老人を殺していく。

 またこの夢だ。
 その男は、手に持った『刀』で周囲を殺しまくる。
 それに向かっていく愛紗、鈴々、星。

 だが、それすら瞬く間に殺していく。
 首を刈り、四肢を千切り、その血を飲むようにして。

 横たわる死骸が、妙にリアルだ。
 転がってくる愛紗の顔は、涙で濡れていた。

 そして。
 その男は無抵抗で膝をつく朱里を、雛里を殺す。
 死んだはずの馬正が、そいつに何かを叫んでいる。
 だが、その首すら虫を払うかのように跳ね飛ばした。

 漢中が燃える。
 みんなの努力の結晶が、燃えてゆく。

 そして……
 その男は、その場で助けを求める少女を掴む。
 服を破り、胸をしゃぶり、強引に股を開かせる。

 少女は泣き叫びながらこちらを見る。
 その目が、言葉より雄弁に叫んでいる。

 タスケテ……と。

 だが、俺は動けない。
 何もできない。
 これは夢だ。

 ずっと、何度も見てきた夢。

 燃え盛る漢中を背景に。
 おびただしい死体の山の中で。

 少女は……次第に小さく嗚咽をこぼすだけとなり。
 男は……ただ腰を振る。

 そんな光景が、ずっと続く。

 しばらくして、男が立ち上がるのを見て、俺はようやく夢の終わりに気づく。
 いつも、ここで終わるんだ。

 その少女――『桃香』は目を見開いたまま、事切れていて。
 その男――『一刀』が、俺に邪悪な笑みを浮かべる最後で。



  * * * * *



「――っはあっ! ハッ、はぁっ、はっ……ひはっ……ぐっ……おえええええええええええええええええっ!」

 俺はいつものごとく、寝台のそばに用意させた壺の中に、盛大に汚物をぶちまけた。
 とはいえ、いつも寝る一日前には腹に何も入れないようにしている。

 どうせ毎回この夢を見て、胃の中の物をぶちまけるのだ。
 食料だって安くない時代。
 そんなもったいないことはできない。

 俺は胃液の酸っぱさに顔をしかめ、しばらく吐きつづけた後、用意してある水で口の中と喉を洗う。
 もう、この作業にも慣れた。
 
 眠れば必ず見るこの夢。
 最初はきつかったが……今ではもう習慣になってしまった。

 しばらく息を整え、ムカつく胸を押さえる。
 その間、目だけが周囲を確認するように動き回す。

 燃えていない。
 死体もない。

 いつもの確認。
 それが終わった後、大きく息を吸い込み――吐いた。

 胃液臭い息が、鼻についた。




  ―― 盾二 side 梁州回顧録から抜粋 ――




 なんてこった。
 反董卓連合の結成が早過ぎる。
 あと二年はかかると思っていたのに、もう起こった。
 しかも、梁州は連合に参加せざるを得ない。

 くっそ……仕事が早過ぎるぞ、于吉め。
 歴史の保守派を名乗るなら、時系列も守りやがれ!
 ……ち、愚痴ってもしょうがないか。
 歴史改変を自分で起こしてしまっている以上、言う資格はないしな。

 とにかく、明日には連合に参加しなきゃならない。
 劉表の爺さんが参加する以上、三州同盟の手前、梁州も参加することになった。
 だが、それならそれでやりようはある。

 要は中から連合に遅滞行動させればいい。
 その上で、洛陽に潜入して董卓さんや霞を助け出す。
 だが、霞は武人。なら前線にいる可能性が高い。
 どうにか無事に撤退させて、董卓さんと一緒に梁州に匿うようにしよう。

 とりあえず子午道は突貫で開通させて、潜入部隊の退路を確保は指示した。
 それが開通するまでの時間稼ぎと、潜入部隊の選別が必要だな。
 洛陽内部に詳しいのは、馬正ぐらいしかいない。
 現状では馬正を案内役にして、影の薄い雛里と器用な星を説得と護衛役にするしかないか?
 そうなると第三軍の指揮は……俺がやるしかないか。
 くそ、人材が少なすぎる。

 はやく蜀建国できれば……いや、まだ早いか。
 第一軍にも有望そうなのがいるし、本来ならもっと発掘できたろうに。
 返す返すも時間が足りない。
 やっぱ、今度于吉にあったら嫌味たっぷりにネチネチ言ってやる。
 殴ると喜びそうだからな、うん。

 連合が終われば、次は官渡と大移動だ。
 なら、その仕込みもしなきゃいけないな……状況次第だし、向こうで各将を実際に見てから煮詰めよう。
 問題はどっちが先かということだが……時系列がここまでめちゃくちゃだと予想がつかないな。
 とにかく、北の動向を詳細に調べてすぐに対応できるよう、雛里の細作を広範囲にばらまかせよう。
 『草』となって情報を得られるようにしないとな……そういう意味じゃ、この連合は都合がいい。

 どんな時代も情報を持つ者が、先手を打てる。
 不確定要素が多いから、とにかく信頼できる情報がほしい。

 この世界に来てもう二年弱、梁州にとっては最初の試練だ。
 なんとか被害を少なく、次の群雄割拠へ移行させないとな。




  ―― 盾二 side 漢中近郊 ――




「星、一刀の様子はどうだ?」

 俺は第三軍の視察に来ている。
 久しぶりに漢中の外に出た。
 移動中は、馬の上で仮眠が取れるから楽でいい。
 深く眠ると……またあの夢を見るからな。

「これはご主人様……そうですね。なんとかやっている、という感じですな」
「……指揮官としての見込みを。正直に言ってくれ」
「……………………今の段階では、おそらくご主人様の代わりは務まりますまい。精々、警邏隊の隊長か、副将が精一杯でしょう」
「そうか……」

 元々、一刀に人を指揮する才覚は殆ど無い。
 あいつは人に甘すぎる。
 人を人としか見ることができない。
 それは美徳だ。

 だが指揮官は、時として人を駒にしなきゃいけない。
 効率を優先し、兵に死ねと言わねばならない。
 綺麗事が通じず、クレーバーに物事を考えなきゃいけない。

 理想を抱きつつ、人を愛しすぎず、それでも効率的に兵を殺し、敵を屠る。
 そうでなければ、守るものを守れない。

 だから桃香や一刀は……兵を率いることができないのだ。
 人を愛しすぎるが故に。

「一刀がただの警官なら……いや、警視や隊長なら、多分人徳あふれる馬正に比肩しうる存在になっただろうな」
「……そちらの方には就けない、と?」
「俺の存在がそれを許さないさ……例え、俺がいなくなっても」
「ご冗談を。ご主人様にいなくなられたら、梁州は崩壊します」

 ……それじゃあ、困るんだよ。

「……例えその素質がなくとも、一刀には人を率いることを覚えこませてくれ。多少、厳しくしてもいい。盗賊狩りでもして実践に慣れさせるように」
「それはかまいませぬが……ご主人様」
「?」
「何故、そこまで一刀殿を急いで鍛えるのですか? 時間をかければ、ご主人様ほどでなくとも……」
「……………………」

 アイツが目覚めた以上、俺はもう……

「星も感じているだろう? この先の大陸の行く末を」
「………………」
「一人でも多くの人材がいる。梁州を守るためだ。第一軍からの武将候補の選別も、愛紗に急がせている。あまり時間が、ないんだよ……」
「…………ご主人様」

 もう『物語』は、動いているのだから……

「頼むぞ。詠と連携して一刀を鍛えてくれ」
「……承知。ですが、ご主人様……」
「なんだ?」
「…………いえ。ご無理は、なさいませぬように……」
「……ありがとう」




  ―― 盾二 side 梁州回顧録より抜粋 ――




 馬正が、死んだ。
 俺を慕ってくれた人が死んだ。
 俺のせいで……死んだ。
 俺の目の前で……この世界で出来た、俺の兄が、父が、死んだ。

 殺したのは唐周だ。
 すぐに雛里の細作に捜索を命じた。
 だが、この混乱でどこに逃げたかわからない。
 諸国の諜報もある……人出があまり割けない。
 時間がかかるかもしれない。

 今すぐ行って、殺したい。
 アイツは殺さなきゃならない。
 馬正のためにも……俺のためにも。

 一刀が目覚めた以上、俺の存在価値はもうないのだから。




  ―― other side ――




「――――ですね」
「ああ……」
「ひっく……ぐじゅっ……ひぐっ……」
「お帰りを……――――、いいですか?」
「………………ダメだ。もう、俺は――――――じゃない」
「っ……っく、っ……」
「ぐじゅっ、ひぐっ、ひっく……」
「もう――――は――――――だ」
「…………って、です。貴方は………………私達は………………」
「そ、でっすっ、ぐじゅ、わた、わだし、わだじ、わっ……」
「……………………」
「………………っ、――――――も、くれないんです、か……?」
「ひぐっ、くっ、じゅっ、くっ……」
「……………………行って、くる」

 扉が開き、扉が……閉じられた。

 後に残るは、小さな嗚咽と、

「っ………………なん、で………………」

 小さな、呟き。




  ―― 盾二 side 漢中近郊 夜 ――




 俺は一人、共同墓地に来ている。
 そこに建てた慰霊碑に華を添え、手を合わせた。
 しばらく無言で祈る。

 安らかに眠るように。
 命を駒にしたことを、詫びるように。
 俺の命を守ってくれた感謝を捧げるように――

 どれだけ祈ったことだろう。
 雲の隙間から、月が俺の頭上まで来ている。
 月の光が、周囲を淡く映し出す。

 気がつけば、人の気配がした。
 どうやら来たようだ……

「……ご主人様、いるの?」

 桃香の声。
 月明かりの中、慰霊碑へと歩いてくる。
 俺は立ち上がり、振り向いた。

「桃香……呼び出してすまないな」
「あ、ご主人様!」

 俺に気づいた桃香の顔が、ぱぁっと明るくなる。
 そのまま俺の元へと駆け寄ってきた。

「こんな夜中に……どうしたの? 話なら別にお部屋でも、その……」
「………………」

 俺は空を見上げる。
 月の光が、雲の隙間から辺りを照らしている。
 その光に照らされた桃香を、改めて見た。

「……綺麗だな」
「え? あ、え? あ、えと……あ、つ、月ね。うん、き、綺麗だよね」

 桃香は少し慌てたように空を見上げる。
 その言葉に、俺は目を閉じ、少し笑みを浮かべた。

「桃香には……話しておこうと思って」
「え? えと……何を?」
「俺の……いや、今後のことを、な」
「えっ………………?」
 
 俺はその場に用意していた布を広げた。
 そして同じく用意していた酒と盃を出す。

「座って話そう……これは馬正にも話しておきたいんだ」
「………………うん」

 桃香は、そのまま布の上に座る。
 俺は盃に酒を入れ、桃香に渡す。

「ご主人様、お酒は……」
「これは甘酒を濾して澄ませたもの。酔う成分はほとんどないよ」

 料理長に頼んで作ってもらった甘酒を口につける。
 糖分は、気持ちを落ち着かせてくれる。

「……一刀が、帰ってきたよ」
「うん……おめでとう、ご主人様」
「ありがとう……思えば、一刀を助けてくれと頼んだ相手が、君でよかった」
「そんなの……私、何もできなかったのに」
「いや……十分、君は俺を助けてくれたよ」

 そうだ。
 こんな世界にいきなり連れて来られ。
 右も左も分からない状態の上、一刀は目覚めない。
 アーカムの仲間とも連絡が取れない。

 俺一人だったら……途中で壊れていたかもしれない。

「あの時……実は結構テンパ……混乱していた。君たちがいなければ、俺は狂っていたかもしれない」
「そんなの……こっちこそお礼が言いたいよ。私はあの時……すべてを諦めようとしていたんだし」
「……諦める?」
「うん。みんなを助けたい。でも、私一人じゃ助けられない。愛紗ちゃんや鈴々ちゃんがいても、その(すべ)が見つからない。私の道は間違っているかも……そんな風に思ってた。だから……天の御遣いという占いに縋ったの」
「それが俺と一刀……」
「うん。私はきっと、ご主人様と出会わなかったら、全てを諦めていた。ただ世の中を儚んで、腐っていただけだったと思う。そうすれば愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも、きっと私から離れていた」
「……あの二人が、桃香を見限るなんてことは絶対ないさ」
「……人の心は変わるもの。良くも悪くも……絶対なんて、ないかもしれない」

 桃香は、そう寂しく笑って盃を煽った。
 俺は、その空の盃に甘酒を注いでいく。

「そうかも、な……だけど、変わらない絆だって絶対にある。君たちの桃園の誓いは、そういうものだろう?」
「そうかな……そうだと、いいな」

 桃香は自嘲気味に笑った後、俺に微笑み。

「ごめんね。ご主人様の話なのに……なんか遮っちゃって」
「いや……嬉しいよ、話してくれて」

 本音だ。
 桃香の本気の悩みを……聞けた気がする。

 ……話しづらいな。

「あの時……桃香に力を貸すと言った時の、俺の言葉を覚えているかい?」
「え? えと……私の大志は、未完成だけど、間違ってはいない。だから力を貸してくれる、だったかな?」
「ああ……だが、こう言ったんだよ。『劉玄徳を万難から護り、『矛』である一刀の目覚めるときまでは『矛』ともなり……貴方の恩義に報いることを誓う』と……」
「っ………………うん」
「恩義に……報いることが、できた、かな……?」
「ごしゅ、ご主人……様?」

 桃香の顔色が変わる。
 俺が言いたいこと、気づいたようだ……

「えっと……も、もちろんだよ? けど……」
「……馬正を殺した唐周を、覚えている?」
「えっ……?」
「やっと……やっと見つけたよ。一年、かかった。今も細作が、奴を見張っている」
「馬正さんの……仇が!?」

 ……仇、か。
 そうだ。やつは……馬正の仇だ。

「場所は!? すぐに捕らえに行こう!? 馬正さんの前で……みんなの前で謝ってもらうの! あの時の……あのひどいことを!」
「………………」
「ご主人様!?」

 でも桃香……君だけは、その言葉を使っちゃいけない。
 君は……劉備玄徳。
 大陸の誰よりも……人徳あふれる人なのだから。

「……唐周は、俺が殺す」
「……っ!?」
「それが俺の為でもあり……馬正の為でもあり、唐周の為でもある」
「えっ……?」
「恨みは……連鎖する。どこかで断ち切らなきゃならない」
「けっ……けど、ご主人様、今『殺す』って……」
「ああ……だから、俺で終わりにする。ちょうど、俺は役目を終えたし、な」
「えっ……えっ……? どういう……」

 俺は空を見上げた。
 天頂にかかる月が、眩しい。

 こんなに闇を照らす月も、陽が昇れば翳ってしまうのだ。
 夜明けが来れば、闇は消えるのが道理。

 光が目覚めれば、影は……

「これは、馬正の主である俺の……やるべきことだから」
「っ…………で、でも、ご主人様、役目っ……て」
「俺の後は、一刀に託す」
「………………っ!」
「俺は……唐周を殺した後、この地を去るつもりだ」
「そんなっ!?」

 桃香が青い顔で俺の腕にしがみついた。

「嫌だよ! ご主人様がいなくなるなんて、嫌だよ! 私を、護ってくれるって……」
「……その役目は、その誓いは……果たせた、よな」
「…………っ!? なんで!? 私、なにか悪いことした!? 私、改めるよ! 悪いところ、何でも言ってよ!」
「違う……違うんだ、桃香。そうじゃない……」

 俺は縋り付いてくる桃香を見る。
 まるで幼子だ。
 目に涙を浮かべ、母と離れたがらないような……そんな瞳。

「この梁州は、州牧は……誰だ?」
「えっ……!?」
「本来、州牧が州の最高権力者だ。だが、この梁州で最も力を持つのは誰だ?」
「あっ……け、けど……だって……」
「民が、この人の元なら大丈夫だって言える、その人物の名前は……………………誰だ」
「…………………………」

 ずっと……ずっとだ。
 俺は、この日が来るのがわかっていた。

「今のままじゃ、遠からず梁州は自滅する。内側から……必ず」

 両雄並び立たず……二天は国禍の元。
 派閥は生まれ……そして、崩壊する。

 そしてそれは、俺と一刀でも……ありえるのだ。
 この世界が『一刀』の世界であるが故に。

 この世界の『異物』は……俺なのだから。

「俺は……君の敵にはなりたくない」
「………………っ!」
「だから……朱里と雛里に、(いとま)を出した」
「!?」
「二人はもう自由だ。誰の臣になろうと……二人に任せる」
「あっ………………」
「天の御遣いという『神輿』程度なら……一刀でもできる。だが、州は……国の行く末は、最高権力者が……道を指し示さなきゃダメだ」
「ご、ごしゅ――」
「俺をご主人様と呼ぶな!」
「っ!?」

 彼女を弱くしたのは、俺。
 『劉備玄徳』を英雄から引きずり降ろしてしまったのは……俺だ。

 だからこそ、俺は彼女を……突き放さねばならない。
 だが、それは………………痛い。

「君は誰だ!? 俺の傀儡か!? 名ばかりの州牧か!? 漢王朝、中山靖王の末裔は、ただの傀儡で終わるのか!? 宦官の傀儡だった霊帝のように! 曹操の傀儡になった劉協のように!」
「あっ……あっ……あ……」
「漢の劉氏は! 自ら立たず、高祖のように最後まで漁夫の利で全てを手に入れるというのか!?」
「ちがっ、ちが……ちがっ……」
「ならば! なんで俺を臣下にしなかった!?」
「…………………………っ!」

 桃香の目に、驚きと怯えが広がる。

 心が……抉られる。
 呂布と戦った時よりも……全身が、きしむように、痛い。

「力を貸す!? それはあくまで共闘だ! 自分の下に置かずば、いずれは裏切られる! 俺が無条件で君に力を貸していたと!? 違う! 俺は一刀を……一刀が目覚めるために、君の力が強くなるのが必要だったからだ!」

 本当の理由も話せず……桃香を傷つける刃を吐く。
 そう……諸刃の刃で。

「権力者は無能ではいけない……それは罪だと、俺は常に言っていた。それは力ないものが上に立てば、実力ある下のものを生かせないどころか、自分の権力を脅かすものとして排除するからだ。だから……権力者は、強さを内外に示さねばならない」
「………………」
「そういう意味では……劉表は偉大だ。自分の力を常に示そうとし、自分の力が及ばない俺を取り込もうとした。自分の養子にしようとしてまで……あれが、本当の上に立つものだ」
「………………」
「……それに対して、君は俺に何をした?」
「えっ……?」
「引き抜かれようとする俺に対し、君は……何かを言ってくれたか?」

 ……我ながら、卑怯な物言いだ。
 桃香の気持ちなど、とうの昔に知っている。

 知っていながら踏み込めなかったのは……俺だ。
 彼女と結ばれるのは………………『俺』じゃない、から……

「……………………」
「信じている……それだけの想いを持つのはいい。だが、人は誰しも……言葉を以って伝えなければ……伝わらない」
「……………………」

 桃香の顔が歪む。
 その顔を見られない。

 ごめん、ごめん、桃香……
 でも俺は……もう決めていたんだ。

 君のことを、本気になってしまった、その前に。

「君は最後まで……俺をご主人様としか、言わなかった」
「だ、だっ、だって……」
「俺は君の兄でも父でも……家族でもない!」
「!?」

 胸に、大きな穴が開く。
 桃香の胸に……俺の、胸に。
 その桃香の腕が……俺の腕にしがみついていた手が……ゆっくりと力が抜けていく。

 そして俺は……心を氷のように固めて……桃香を見た。

「俺は……唐周を追う。神輿がほしいなら……すがりつく存在がほしいなら……一刀を使え」

 本当は……けど決めてしまった……
 いいのか、これで……何度も葛藤して、何度も狂いそうなほどに迷った……

「ご、ごしゅ、あ……」
「それを是とするかどうかは一刀が決めることだ。俺は一刀に、そして君に、居場所を用意した。自らの夢でも希望でも野望でもいい。それを叶える場所を……用意したつもりだ」

 それでも俺は……一刀を……
 『かずと』を……

「あっ……あっ……あ……」
「俺は……誓いを果たした。役目を終えた……だから」

 だから……今までの俺は、これで――

「さよなら……だ」

 桃香は、俺の言葉に。
 崩れ落ちるように、その手が離れた。

 俺は、そのまま立ち上がる。

「君の大志……このまま未完成のままだと、いずれ周りのものを巻き込んで、滅ぼすだろう」
「………………」
「自らの夢は……自分の意志で掴め。これは……最後のっ………………」

 ……っく!
 こらえろ、バカがっ!
 想いを凍らせて……言わなきゃならない!

 これが………………………………最後、なの、だか、ら……

「………………っ、最後の、献言、だ」

 ――そして俺は、歩き出す。

 言うべきことは……全部、言えた、はず、だ……
 慰霊碑を背に、崩れ落ちる桃香を背にして。

 俺は…………

「あなたが好きです!」

 !?
 思わず足が止まる。

 桃香が叫んだ言葉。
 俺が、欲しかった……恋い焦がれた。
 そして……ずっと聞いていたかった、言葉。

「貴方を……愛して、います……」
「……………………」

 だが、俺は。
 唇を噛みちぎり。
 歯をガチガチならし。
 拳を砕けるほど握って。

 溢れそうになる涙をそのままに。

 自分の心の全てを引き裂いた。

「……………………」
「……………………」



 俺は――



「……ありが、とう」
「………………っ、うっ…………あっ…………あ…………」

 狂い死にそうな心を抑えて。
 それだけを、ようやく、言葉に出来た――
















 ―― other side ――

 この日。

 梁州から、一人の男が……姿を消した。
 
 

 
後書き
7/19 誤字を修正しました。 
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