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髑髏の山

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第五章

 だがここでだ、老人はというと。
 その髑髏達に塩を投げつけた、それも一度ではなく。
 何度も投げ付ける、するとすぐに髑髏達は動きを止めた。
 そして塩をありったけ投げ付けた、すると髑髏達は消え去った。
 だがそれで終わりではなかった、老人は持って来た仏具をすぐに並べ祭壇の様なものを作るとその前に座り念仏を唱えた、そしてだった。
 それが終わってからだ、三人にも念仏を唱えてからこう言った。
「危ないところだったな」
「はい、何かです」
「急に髑髏が出てきました」
「それで穴の中に」
 引きずり込まれていたというのだ。
「あんな穴一体」
「何時の間にかありましたけれど」
「そもそもどうしてなんですか?」
「髑髏なんてのが」
「ここに出たんでしょうか」
「あれはまさか」
「うむ、怨霊だ」 
 まさんにそれだとだ、老人は彼等に答えた。
「あれはな」
「怨霊ってまさか」
「じゃあ噂通りのですか」
「ポル=ポト派に殺された坊さんや尼さんのですか」
「そうだ、怨霊だ」
 まさにその彼等だというのだ。
「あの人達はな」
「まさかこんなことになるなんて」
「本当にあと一歩で生き埋めにされてましたよ」
「その怨霊達に」
 三人共胸を撫でおろしながら話す、だが。
 ここでだ、ナムが老人に彼の背中から尋ねた。
「あの、怨霊のことはわかったんですが」
「わしのことか」
「はい、どうして怨霊のことを知ってるんですか?」
「わしは僧侶だったのだ」
 それでだとだ、こう答えた老人だった。
「この寺のな」
「っていいますと」
「わしは若い頃この寺にいた」
 老人は顔を俯けさせていた、そのうえでの言葉だった。
「かつてな」
「それって何時ですか?」
「ポル=ポトが政権を 握った頃だ」
 まさにその頃にだというのだ。
「この寺に入って修行していた」
「じゃあ」
「そうだ、ポル=ポトは宗教を否定した」
 もっと言えば自分達以外の存在をだ。イデオロギーを絶対とするのは共産主義の特徴であるが彼等もそうだったのだ。
「それ故にだ」
「あの頃は相当殺されましたしね」
「寺の者は皆殺しになった」
 まさに文字通りだ、そうなったというのだ。
「だがわしはだ」
「助かったんですか」
「運よくその時寺におらずジャングルの近くの村で布施を行っていた」
「それでジャングルの中に逃げてですか」
「隠れて難を逃れていた」
 まさに幸運にだ、それが出来たというのだ。
「そしてポル=ポト派が政権を追われ内乱も落ち着いたところでな。状況を人里に降りて聞いて戻って来たのだ」
「そうだったんですか」
「だが。もう僧侶に戻るつもりはなかった」
 決してだというのだ。
「それはな」
「それはどうしてですか?」
「若しも。またあの連中の様な輩が出てきたらと思うとな」
 ポル=ポト派の恐ろしさをよく知ったからだ、それが心に留まってだというのだ。
「どうしてもな」
「僧侶には戻れなかったんですか」
「そうだ、とてもな」
「それでなんですか」
「縄を作って生きていたがな」
「ジャングルの中で身に着けたんですか」
「ジャングルの中では一人で生きていた」
 まさにだ、孤独の中で生きていたというのだ。 
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