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万華鏡

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第七十五話 大雪の後でその十

「というか日本でペストなんて流行ったことないですよね」
「そういえばないわね」
「一度もね」
 先輩達も琴乃の言葉に顔を見合わせた。言われてみればだ。
「天然痘はあるけれど」
「それでもね」
「ペストはね」
「ないわよね」
「あんな病気ないですよ」
 日本には、というのだ。
「ゴキブリやムカデだけでも相当ですし」
「まあ流石に私達もそこまでいかないけれど」
「注意する様になったから」
 清潔、整理整頓にというのだ。
「今は綺麗にしてるわ」
「ちゃんとね」
「本当にお願いしますね。けれどこの雪は」
「ええ、参ったわ」
「当分雪はいいわ」
 雪の話に戻るとだ、先輩達はまた言った。
「一日寮にいたらね」
「あまりよくないから」
「外出止めとかなかったことないけれど」
「その気持ちはわかったわ」
「外出止めって何ですか?」
 琴乃にとってははじめて聞く言葉だ、それでその言葉に対して首を傾げさせて先輩達に問い返したのである。
「それは」
「ああ、それはね」
「寮の罰則であるのよ」
 先輩達は琴乃のその問いにも答えた。
「悪いことしたらね」
「寮から出られなくなるのよ」
 そうなるというのだ。
「一週間とかね」
「休日でもなのよ」
「その間おトイレとかお風呂とか掃除させられてね」
「そうしたことをさせられるのよ」
「そうしたこともあるんですね」
「そう、寮はね」
「そうした罰則もあるのよ」
 こう琴乃に話すのだった。
「外出出来なくなってね」
「そうしたことやらされるから」
「だから皆気をつけてるの」
「寮にいたらね」
 そうだったというのだ。
「他にも色々罰則あって」
「結構厳しいのよ」
「まあ自衛隊程じゃないけれど」
「江田島よりずっと楽だけれどね」
 ここでまた江田島の話が出た。
「あそこは極めつけだから」
「今もね」
「あそこは本当に凄いみたいですね」
 琴乃も江田島の幹部候補生学校についてはしみじみとした口調で言った。あの場所はとにかく、というのだ。
「一年あそこですか」
「あそこ逃げられないわよ」
「脱走無理よ」
 自衛隊では脱柵と呼ぶ。
「周り海だから」
「そうですね、あそこはですね」
「だから監獄って言われたのよ」
 逃げることも出来ないからだ、周りが海に囲まれているだけに。
「あそこの海が危ないのは聞いてるわよね」
「鮫ですね」
「そう、瀬戸内海って鮫が結構多いのよ」
 宇野先輩は広島人として琴乃に話す。
「シュモクザメね」
「人襲いますよね」
「襲うわよ、しっかりとね」
 あまり有り難くない返答だった。 
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