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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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反董卓の章
  第25話 「……本当に、これでよかったのかの? 玄徳殿……」

 
前書き
長らくお待たせしました。
反董卓の章、最後です。 

 




  ―― other side 洛陽 温徳殿 ――




「……本当に、これでよかったのかの? 玄徳殿……」

 温徳殿の渡り廊下で、劉表は前を歩く劉備を呼び止めた。
 劉表にとっては予定通りの展開であるとはわかっていても、どうしても納得出来ないものはあった。
 だが、そんな劉表の内心を裏切るかのように、振り返った劉備の顔は笑顔で満ちていた。

「はい。これでいいんですよ」

 劉備の笑顔には、一片の曇りもなかった。
 心の底から笑っているように、劉表には感じられる。

「……じゃが、の」
「いいんですって、景升様。私には将軍職すらもったいない恩賞です。元々、州牧どころか刺史になったのだって二年も経ってないんですから。早過ぎるぐらい早い出世だと思いますよ?」

 劉備の言葉に嘘偽りはない。
 無位無官で義勇軍から成り上がった劉備が、たった二年で州牧であり末席とはいえ鎮軍将軍という将軍位まで得たのである。
 劉表という後ろ盾があるにしても、この出世は異例中の異例といえるものだった。

 だが、それでも成した功績を鑑みれば、それでも報いるに足りないと劉表は感じている。

「それでも、じゃ。すべての功を儂や孟徳の嬢ちゃんに譲って……お主は一体何を得たというのじゃ?」

 劉表にとって、今回の自分の功は全て劉備の……いや、盾二の功績と言える。
 自分は単に連合に参加したにすぎない。
 劉表自身の兵の損失は、逃散によるものが全てだった。

 にも拘らず、連合の第一武功とされたのだ。
 正直言えば、それが一番後ろめたく感じているのである。

「十分……十分過ぎるほどのモノを得ました。過分なほどの、恩賞を……」
「………………」

 静かに呟く劉備に、その真意を探ろうと目を細める劉表。
 多少なりの裏事情は知っているとはいえ、それがとても功に見合うとは思えない。

 なにしろ……『厄介者』を引き取っただけではないか。

「それに、私にはこれ以上の新しい領土なんて、本当はいらないんです」
「……なんと?」

 劉備が笑顔とともに言った言葉に、目を見開く劉表。
 あろうことか、劉備はこれ以上の野心はない、とまで言い切ったのである。

「だって、私にはもう梁州があります。慕ってくれる民がいます。信じて任せられる仲間がいます。これ以上を望むのは、今の私には分不相応だって思うんです」
「………………」

 劉備の笑顔、そしてその目を劉表は見る。
 そこに嘘偽りがないことを感じて、その無心に再度驚かされた。

(この乱世に、まだこれほどまでに私心無く、民を想う者がおったとは……)

 劉表は不意に自分の過去……野心に溢れ、無茶と無謀を繰り返した若かりし頃を思い出し、急に恥ずかしくなる。
 自分が劉備の年齢の頃、民の事をこれほどまでに考えたことがあっただろうか……と。

「梁州に帰ったら、やらなきゃいけないことがいっぱいあるんです。もっと皆が住み良い土地にして、いろんな特産品を作って、それを大陸全土に広めていく。ご主人様に教えられたんです。民を救うのに必要なものを」
「盾二に……? 一体それは何なのじゃ?」

 劉表が首を傾げる。
 その姿に愛嬌を感じて、劉備はくすっと笑った。

「私が放浪していた時、民を救うためには大陸を統一しなきゃいけないと思っていました。でも、ご主人様と出会って、いろんな教えを受けて……方法はひとつじゃないとわかったんです」
「こ、これ、嬢ちゃん!?」

 突然の劉備の発言に慌てる劉表。
 洛陽の……しかも中枢である温徳殿の渡り廊下で、大陸を統べるなどと言ったのだ。
 冗談にしても、下手なものに聞かれれば首が飛ぶぐらいじゃ済まされない。

「例え誰が大陸を治めようと、民を知らない人にその暮らしを劇的に変えることなんて出来ないんです。それが出来るのは、土地に根ざした民自身なのですから」
「……嬢ちゃん」

 劉備は渡り廊下から庭へと出る。
 天は晴れ渡り、雲ひとつない青空がまぶしかった。

「だから、その民が本当に欲しい物を作るんです。まずは食べ物。次に便利な道具。全てはそこから始まるんだって」
「……食べ物はわかるが、道具、じゃと?」

 劉表は、劉備の後を追うように庭へと出る。
 心なしか、声を潜めている。

「ご主人様が言っていました。『衣食足りて礼節を知る』、これが最も大事なんだって」
「……はて。似たような言葉を何処かで聞いたな」
「正確には『倉廩満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る』だって言っていました。これは朱里ちゃんが教えてくれましたけど」
「諸葛殿か……おお、思い出したわ。管子、管仲の著書の一節じゃな」

 管仲……春秋時代、斉の宰相だった人物である。
 この一節には、民生の安定があってこそ政治が行えるという意味が込められている。
 その話に、深く頷く劉表。

「確かに……確かにそうじゃ。民の安定があってこそ、正しい政治が行われる。逆を言えば、腐敗する政治が横行するということは……おっと」

 呟いた言葉に、不穏なものが混じったことに気付く劉表。
 すぐさま口を閉じたのは年の功といえる。

「だから、政を正すだけでなく、民の意識からも変えていかなきゃ、こんな乱世は終わらない。その為にはまず飢えないこと、そして着る物に困らない程に富ませることが必要なんです」
「……飢えない事と、着る物に困らない事」

 劉表にとっては、目から鱗が落ちた思いだった。
 民を安んじることは、劉表自身としても考えて政を行ってきた自負はある。
 だが、そこまで明確な方針を考えてきたとは言いがたい。

 治水をすること、商業を発展させること……そんなことを漠然と考えて、あとは文官に任せていたのだ。

「食べさせるだけじゃダメです。食べるために働くことを覚えさせること。富ませるだけじゃダメなんです。富を流通させて一箇所に留まらないようにすること。これが一番必要で、一番難しいことなんだって……」
「………………っ!」

 劉備の言葉に、劉表は言葉を詰まらせた。
 劉表に全てが理解できたわけではない。
 だがその思想、その政略は並の人間の考えるものではない。

 今の劉備は、この洛陽にいるどんな文官高官たちよりも、遥かに高度な政治的思想を持っているのだ。

(これは嬢ちゃんが自ら考えたことではあるまい)

 劉表には劉備の後ろにいるであろう、盾二の姿が見えるようだった。
 今この時、この大陸の誰よりも高い政治能力を持っているであろう盾二に、畏怖と尊敬の念が劉表の心中に同時に生まれる。

(……やはり、わしの目に狂いはなかった)

 自分が盾二に惚れ込んでいることを、劉表自身は自覚している。
 だからこそ、盾二をいっそ自身の後継者に出来ないかと本気で考えてもいた。

 その考えに間違いがないことを、改めて思い知った瞬間だった。

「だから、その為には技術を発展させること。その技術を流布することで効率を高めて……景升様?」
「……む、あ、いや……その、なんでもない。じゃが、まあ……あまりおおっぴらに言うことではないのではないかな?」
「……そうですね。私も覚えたばかりで……実は、その方法はまだご主人様や朱里ちゃん任せなので」

 てへっ、と舌を出して苦笑する劉備。

「しかし……嬢ちゃんもいろいろ考えておるのじゃな」
「あー! ひどいですよ、景升様! 私だっていっぱい勉強しているんですよ? そりゃご主人様や朱里ちゃんには全然敵いませんけど……」
「あ、いや……」

 ぷーっと膨れる劉備に、なだめるように言葉を濁す劉表。
 だがこの時……劉表が心に決めたことが、劉備にとって新たな試練になる事を。

 誰も予測し得なかったのである。




  ―― 曹操 side 虎牢関出口 ――




 時は遡る――

 虎牢関での戦いからすでに二日。
 兵の被害を纏め、統制を取り戻し、行軍が可能になるまで実にそれだけの時間を必要とした。
 周辺の天変地異の爪痕もあり、洛陽方面への出口付近にも崖崩れが起きており、その復旧にも時間が取られたのも痛い。

 ようやく今日にも行軍できる状況となった朝。
 私は自陣天幕内で、斥候からの報告を受けていた。

「……どうやら、北や南の関に配置されている董卓兵が待ち構えている様子はないわね」
「そのようです……ですが虎牢関での異変には気付いているはずです。あれだけの天変地異が起きたのですから……」

 私の言葉に、桂花が頷きつつ警告する。
 確かにあれだけのことがあったのだ。
 当然、北や南の関は言うに及ばず、洛陽でも気付かれているに違いない。

「あれだけの事があり、尚且つ呂布も敗れ、張遼はこちらの軍門に下りました。北や南の関の董卓兵すら逃散したかもしれませんね!」
「その可能性もなくはないけど……」

 春蘭の言葉に桂花が言葉を濁す。
 だが、それでも董卓が洛陽にいる以上、何らかの行動を起こしていると考えるべきかもしれない。
 董卓がまだ洛陽にいれば、の話だが……

「……秋蘭。張遼を呼んでちょうだい」
「御意」

 秋蘭はすぐさま天幕から出ていこうとするが……

「ウチならもうおるで」

 その言葉とともに天幕内に張遼が入ってくる。

「張遼……」
「ウチからも報告したいことがあってん。丁度よかったようやな」
「……報告したいこととは何かしら?」

 私の言葉に、張遼は肩を竦めた。

「まず、ウチについてきてくれた兵の助命について。これに感謝を述べたくてな。ほんまにありがとさん」

 そう言って頭を下げる張遼。
 ……まずは兵のこと、か。
 さすがは音に聞こえた神速張遼。
 部下思いでもあるのね。

「気にしないでいいわ。元々、貴女直属の兵は本人たちの自由にさせるつもりだったから。貴女を慕ってこちらに来るぐらいだもの。余程の忠臣たちなのでしょう」
「……ほんま、おおきに」

 張遼は再度頭を下げる。
 その様子に、思わず私の頬が緩んだ。

「ああ、でもそうね……ならそれについての謝礼をもらおうかしら」
「……謝礼?」

 顔を上げた張遼の目に不審な色が浮かぶ。
 ふふ……

「そう、貴女の部下の命の代わりよ。どうかしら?」
「………………なんでもええで。ウチはもう、あんさんらに降伏した。ウチの身一つであいつらの命が助かるなら、ここで首を掻っ切っても――」
「そんなものいらないわよ。私は生きている貴女がほしいのだから。死んだ貴女の躰なんかいらないわ」
「……は?」

 覚悟を決めた張遼の表情が、途端に崩れる。

「華琳様。あんまりお戯れは……」
「ふふ……ごめんなさい、秋蘭。冗談が過ぎたわね。張遼、貴女の真名、ここにいる全員に預けなさい。それが条件よ」
「………………そんだけで、ええのん?」

 ぽかんと目を見開く張遼。
 ふふ……ちょっとからかいすぎかしら?

「それだけ、とは自分を過小評価しすぎね。私は貴女ほどの武人ならば、例え百万の兵と引き換えでも欲しいぐらいよ。だからこそ、命じるわ。張遼文遠、貴女の真名を預けてくれるかしら」

 張遼は私の言葉に一瞬身震いする。
 そしてすぐ、その場で跪いた。

「姓は張、名は遼、字は文遠……真名は霞と申します。我が武勇、存分にお使いくださいませ」
「ええ、確かに真名を預かったわ。私は、姓は曹、名は操、字は孟徳……真名は華琳。我が真名を我が臣である霞に預けましょう」
「!?」

 私の言葉に、張遼――いえ、霞は驚いた顔を上げる。
 そしてすぐに再び頭を垂れた。

「うむ! これで霞も仲間だな! 私の真名は春蘭だ!」
「私も預けよう。我が真名は秋蘭だ」
「……ふん。姓は荀、名は彧、字は文若(ぶんじゃく)。真名は桂花よ。せいぜい頑張ることね」

 春蘭達の言葉に、霞は顔を上げてにこやかに笑った。

「よろしゅう頼んますわ! それで……ウチに何ぞ用があったんとちゃいますん?」
「ああ、そうね……では、霞。董卓軍の内部事情がどうなっているのか……私達に教えてくれるかしら?」
「………………は?」

 私の言葉に、またもぽかんと口を開ける霞。
 ……?
 何故、そんなに驚いているのかしら?

「どうかしたの?」
「あ、いや……てっきり盾二や、桃香達から聞いとるもんやと思っとったんやけど」
「………………やはり、繋がりがあったのかしら?」

 あの天の御遣い……どこまで人をコケにすれば。

「あ、いや……そうや。桃香達は、月……董卓とは直接面会したことないんやった。いやけど、ウチは梁州に事の顛末の書状を送ったはず……」
「……書状を? それはいつかしら?」
「え? あ~……連合が結成されると噂が立ってからやね。集合場所が宛やって話やったから、そこに……」
「…………………………」

 となると、袁術が……いえ、その臣下の張勲が握りつぶしたって話。
 あながち出鱈目でもないかもしれないわね……

「どうやってその書状を……?」
「ああ、宛にはウチも桃香たちも世話になった商人がおんねん。その商人に内密に頼んだんやけど……その様子じゃ、届いてへんかったんか」
「……そのようね」

 もし、その書状が届いていたら……劉備達は、間違いなく董卓側に参加していたでしょうね。
 そして同盟相手である劉表も……
 そう……だから最初の集合場所が宛だったのに、急遽許昌に変更したのね。

 許昌に変更した理由も、袁術からの進言だったはず……正確には張勲ね。
 やっぱりあの女が全部の元凶ってことかしら。

 いえ……ある意味慧眼だったのかしらね。

「もしその書状が劉備の、天の御遣いの元に届いていたら……霞、貴女と私の立ち位置は逆だったでしょうね」
「……かも、しれへんな。けど、それは『たられば』やろ。現実にはその書状は届かなかったんやから」
「そうね……届いていれば、か」

 もし劉備が董卓軍にいれば……
 劉表と合わせて約四万が董卓軍に加わる。
 連合の兵力は十万弱、董卓軍は二十万以上……兵力で完全に負けね。

 そしてあの呂布と、天の御遣いの二人が敵に回る……その事に我が身が震えるのを抑えられなかった。

 それは、私の横にいる桂花も……

「……ねえ、春蘭。念の為に聞くのだけど」
「なんだ?」
「あの天の御遣いの男か、呂布、片方とでも互角に戦える自信はある?」
「……………………………………」

 いつもの春蘭らしからぬ、無言の答え。
 一瞬『おう、もちろんだ!』というのかと思ったのだけど……

 全員が春蘭に注目する中、目を閉じて考えていた春蘭は、静かに首を振った。

「……姉者」
「……だが、華琳様がお命じくださるのならば、例え一太刀なりとも傷を負わせてみせる!」
「つまり、命を捨てても討ち倒すことは出来ない、ってことね……」

 我が軍勢、最強の春蘭がそう言うほどなのだ。
 連合に勝機など、ありはしなかったのでしょうね。

「……霞はどうかしら? あの男と手合わせしたことは?」
「盾二が義勇軍時代ならば、やな。けど、あんな化け物じみた力はなかったで。普段の盾二は、ウチや愛紗相手に五本中一本とれるかどうかやったけど……まあ、本気やなかったってこっちゃ」
「……どういうこと?」
「盾二の着ている服な、あれ剣も槍も通さへんねん。しかも、多少本気になると力も速さもごっつあがるんよ」
「なっ……」

 剣も槍も通さない……?
 そんな鎧が、この世にあるというの?

「それの力を使えばまず勝てへんな。それでもあないな化け物のような力は見たこともなかったわ。あれが盾二の本気の本気なら……恋、いや呂布にも勝てんウチじゃ手も足も出んな」
「……まさに無敵、ね」
「その服を奪えば、誰でもあの力が使えると……?」
「桂花っちも、そう考えるやろ? けど、あかんねん。盾二以外が着るとただの服になるんや。まあ、剣や槍を通さないって意味じゃ、そのままやとか言っとったけどな」
「け、桂花っちって……」

 霞の言うとおりだとすると……あの男がいつも来ている黒い服こそが、神器ということかしら?

「それに、あの服にはウチも知らん力があるみたいや。鈴々……張飛が前にとんでもない竜巻を見たって言うたことがあったし、黄巾の砦で見せたあの火柱も……今回のが本気だったとしたら、頷けるっちゅうもんや」
「……天の御業、ってことね。まさか本物の御遣いだったなんて……」

 本物の、人知を超える天の力………………………………危険すぎるわ、ね。

「まあ、単純に武力だけでもそないな状態なのに……盾二の本当の恐ろしさは、知謀のほうやっちゅうんから、ホンマに空恐ろしいで」
「……………………」
「はあ……『たられば』やけど、ホンマやな。あの書状が届いておったら……あかんあかん。そんなん、なんの意味もあらへんのやし」

 霞はそう言うけど……私は流れ出る汗で、背中が冷えていくのが分かる。
 もし、本当にあの御遣いを敵に回したことを考えると……

「(ボソッ)今のままでは、覇業なんて夢のまた夢……」
「……華琳様」

 桂花がこちらを伺うように、不安げな顔をしている。
 桂花が言った『暗殺』……この子は私より正しく『敵』を認識しているのかもしれない。
 
 この連合がまだある内に、あの天の御遣いを殺せば――

「伝令っ!」
「 !? 」

 突如、天幕の外から聞こえた声に、心の臓が跳ね上がった。
 まさか今考えた事を、あの男が見透かしてなにか仕掛けてきたのか――

「劉景升様より、諸侯に大天幕への集合してほしいとのこと! 行軍についての伝達があるそうです!」
「………………」

 む、胸が、胸が……

「……了解した、とお伝えしてくれ」
「ハッ!」

 私の様子に、秋蘭がいち早く伝令に伝える。
 ……助かったわ。

「……ありがとう、秋蘭」
「……大丈夫ですか、華琳様」
「ええ……何も問題はないわ」

 この曹孟徳が……覇道を往く者が……こんな、こんなに怯えてどうする!

「……なにも、問題……………………ないわ」




  ―― 盾二 side ――




 ……?
 なんか、曹操が俺から目を背けているような気がするんだが。
 なんかしたかな……?

「うむ、では揃ったな。これより洛陽への進軍を開始するのじゃが……盾二から報告がある」

 劉表の爺さんの言葉に、その場にいた雪蓮と周瑜が俺を見る。
 だが、それでも曹操は俺を見ようとしない。
 はて……?

「えー……先日お伝えした伏兵との連絡が取れました。その事についてです」

 俺はそう言って席に座する一同を見る。
 といっても、この場にいるのは……俺の横にいる桃香と劉表の爺さん、雪蓮と周瑜さん、そして曹操とその軍師という荀彧しかいない。
 袁術と張勲は、劉表の爺さんの天幕で軟禁状態とのこと。

 というか、爺さんいわく――

『脅かし過ぎじゃ。ちびっておったぞ』

 とのこと。
 ……やれやれ。

「洛陽の状況は、やはり知らされている内容とは違いました。献帝陛下は自ら董卓の庇護を受けていたとのこと。董卓は袁紹の檄文により、身を守るために防衛したとのことでした」
「……やはり、そうじゃったか……」

 劉表の爺さんが、疲れたように落胆した様子で肩を落とす。
 多分、自身が漢への反逆に手を貸していたことを悔いているのだろうなあ。

「……それで、私達はこのままだと反逆者ということになるのか?」

 周瑜さんが厳しい目で俺を見る。
 なんか『まさかそんなことにしないだろうな、あ?』と威嚇されている気がするんだけど……

「いえ、それについては手を打ちました。詳しくは彼女に説明してもらいましょう」
「彼女?」

 周瑜さんの隣にいる雪蓮が、首を傾げる。
 一瞬、皆の視線が俺の隣にいる桃香に集まり――

「え? 私!? 違うよ!?」

 ……いや、桃香。
 君は知っているのだから、そんなにキョドらなくても……

「ごほん……では。たんぽぽー」
「ここにいるぞー!」

 俺が天幕の外へと声をかけると、一人の少女が入ってくる。
 それは――

「……あら。貴女、確か馬岱とか言ったわね」
「はーい、たんぽぽは馬岱でーす! 極秘任務を終えて、ただ今帰還しましたー!」

 手を上げ、元気に言うのは蒲公英(たんぽぽ)
 馬岱伯瞻、その人だった。

「貴女……劉備と繋がっていたのね」

 曹操がたんぽぽを睨みながら呟く。
 その視線に、ビクッと怯えるたんぽぽ。

「た、たんぽぽは、桃香姉様や北郷さんに頼まれたんだよ! 洛陽の状況を調べるのと、董卓さんの助め――」
「あーと、ですね。俺――じゃない。私が、彼女に頼みました。捕らえた華雄の案内で献帝陛下に接触できないかと」
「……献帝陛下に、じゃと!?」

 劉表の爺さんが、思わず声を上げた。

「はい。事の真相は片方からの情報では確証できません。董卓だけでなく陛下ご自身の言も必要かと思いまして」
「よ、よく陛下にまで……」
「董卓が噂通りの人物なら、たんぽぽ――馬岱を会わせないでしょうし、そうなれば排除すればいいだけです。でも、そうじゃない……だろ、たんぽぽ」
「あ、はい! 献帝陛下にお目通りが叶いまして、劉虞は漢の反乱を企てた大罪人として討伐令を出されるとの由。袁紹、袁術以下、連合の発起人は大罪なれど、その想いは漢への忠義から来ているものとし、減封に留めるとのこと。なお、連合に参加したものの罪は問わない、とのことです」
「な、なんじゃと!?」

 劉表の爺さんは、椅子から立ち上がって叫んだ。
 今にも小躍りしそうな状況だ。
 だが、雪蓮や周瑜さん、それに曹操と荀彧は訝しげな視線を俺に向けている。

「……ずいぶん破格な待遇ね。一体どんな詐欺を使ったのかしら?」

 詐欺って……
 まあ、曹操ならそんな事も言ってくるだろうとは思っていたけどね。
 にしても……目、合わせようとしないな。

「あ、あの……まだ続きがあります。なお、この度の出来事については他言無用の上、こちらの申し出を受けるのであれば、恩賞を与えるものとする」
「「「「 !? 」」」」

 その場にいた者、俺と桃香、そしてたんぽぽ以外が思わず立ち上がった。
 無理もない。
 まさしく信じられないような話である。

「な……ど、どういうことじゃ!?」
「景升様、まだ続きがあります……たんぽぽ」

 俺の言葉に、たんぽぽは胸元から書簡を取り出し、それを広げて読みはじめる。

「はい。陛下からの条件は、一つ、董卓軍に参加していた将兵の助命。二つ、董卓、並びにその将である賈駆は死んだ者として、今後一切の存在の明言は禁ずること。三つ、両名は劉備にその身柄を預けること。四つ、劉表、もしくは曹操は、董卓に変わる献帝陛下の後見を担うこと」
「「 !? 」」
「五つ、袁紹、袁術他、連合の発起人である諸侯は、劉虞討伐軍として私財を持って行動すること。なお、その指揮は劉表、もしくは曹操が担うこと。六つ、劉虞が治めていた平原は、平定後に公孫賛に譲渡すること。七つ、今回の連合の真実は一切他言無用とした上で、連合は董卓に勝利して洛陽を開放したことを喧伝すること。八つ、以上のことを自身の身命、並びに真名に懸けて約定し、その血判を陛下に献上すること。と……以上です」

 ふう、と息をついて読み上げたたんぽぽに、劉表の爺さんや曹操は言うに及ばず、雪蓮や周瑜さんも唖然としていた。

「わ、わ、儂が、儂が陛下の後見……!? い、一体、なにが、なにが……」

 劉表の爺さんはガクガクと膝を揺らして、そのまま椅子に倒れるように座り込む。
 雪蓮と周瑜は互いを見て、一体どういうことかと思案しているようだ。
 そして曹操の軍師という荀彧は、驚きつつも顔を顔をほころばせ――

「お、おめでとうございます、華琳さ……」
「ふ、ふざけないで!」

 その荀彧の言葉を遮るように、いきなり俺を見据えて()えた。
 ……あ、やっと俺を見た。

「一体どういうつもりよ、天の御遣い! こんな都合のいい……いえ、あからさまに劉表と私に都合のいい条件を出させるなんて! 一体何を考えているの!?」
「……えーと。詳細はともかくとして、何故に怒っておられるので?」

 若干すっとぼけながらもそう答える。
 まあ、こう言えば……

「ふざけないで! この曹孟徳が! 何故貴方に功を譲られねばならないと言うの!」

 当然、更に激昂するわな。
 わかっているのにやっちゃうところが、自分でも腹黒いと思うところなんだけど。

「別に功を譲った覚えもありませんが。これは献帝陛下のご書状です。私が決めたわけではありませんが?」
「この状況で、よくもまあぬけぬけと……」

 いやいやいや。
 状況的にそうだとしても、普通に考えて皇帝に俺が要求できるとお思いで?

 ………………うん、出来ると思っているな、こりゃ。
 実際したんだけどね。

「じゅ、盾二……儂でもこれはおかしいと思うぞ? そもそも、道理に合わんわい」
「と、おっしゃいますと?」
「まず、お主は汜水関が落ちた時点からその……馬岱の嬢ちゃんに策を授けたとしよう。その時点では、まだ袁紹の嬢ちゃんが連合の総大将となっておったはずじゃ。にも拘らず、何故儂と孟徳殿に功を譲るような話になっておる?」

 まあ、そう思うわな……さて。

 ――よし。
 全部ぶっちゃけてしまおう。

「それについては簡単です。状況に応じて前もって幾通りもの方針を伝えてありましたから」
「………………その内容は?」
「その前に。劉備が董卓殿と……その臣下である張遼と以前から(えにし)があったことはご存じですか?」
「……黄巾の時のことかの?」
「はい。雪蓮達も一緒にいましたからいいとして……孟徳殿はいかがでしょう?」
「~~~~~~っ! 知っているわよっ!」

 怒りが収まらないと言った様子で、吐き捨てるように言う曹操。
 おお、怖……隣の荀彧も俺から目を逸らすし。

 君、さっき喜んでたよね?

「ですので、私どもが参加した真の理由は、董卓殿を含めた霞……張遼を死の淵から救うことでした」
「………………」

 劉表は桃香へと視線を移し、その桃香はこくっと頷く。
 俺はそれを見て、曹操へと視線を戻した。

「張遼から聞いていた董卓殿の性格から考えますと、とても非道を行うとは思えない。ですが、皇室であらせられた劉虞の証明がある以上、それを覆すだけの証拠がない。それ故、私達は連合内部からその真実を暴こうと、この連合に参加したのです」
「つまりは、最初から裏切り者だったわけね!」
「孟徳殿……お怒りはわかりますが、まずは聞いていただきたい」

 はあ……怒らせすぎたか。
 もうちょっと感情コントロールが出来る人物かと思っていたんだが……

 怒らせて多少視野を狭くするつもりだったのに、感情のままに理屈を覆すまでになるんじゃ逆効果だ。
 ちとまずったか。

 てか荀彧さん、あんた自分の主君抑えなさいよ。
 いつの間にかその主君と一緒に俺を睨んでないでさぁ。

「まず、この連合の状況からして怪しかったのは袁紹、その従兄弟の袁術でした。ですのでその二人の信用を得て、情報を得るために汜水関ででしゃばったマネもしました。その際、案内役である華雄、そして馬岱の協力を得られたので、一気に状況を調べることにしたのです」
「……まあ、確かに真相はお主の言う通りじゃったわけじゃがのう。しかし、儂にも秘密にするとはの……」
「それについては申し訳なく思っております。ですが、景升様は、天下に隠れることなき漢の忠臣にて重鎮。確証もないのに巻き込むわけにはまいりませんでした」
「う……む。心遣いはありがたいが、やはり水臭くは思うのう……」

 ……?
 どうもこの爺さんは、最初にあった頃とずいぶん印象が違うな。
 あの疑り深さはどこにいったんだ……?

「それについては改めてお詫び致します。ともあれ、汜水関陥落後に劉備陣営から将を同道させ、たんぽぽに虎牢関の抜け道から洛陽へと潜入してもらいました。結果、このようになったという次第です」
「……私からも聞きたい。先ほどの劉景升様の質問と同じになるが、その時点で袁紹が総大将であり、尚且つ疑いはまだ確証がなかったはずだ。それなのにどういうことかな?」

 声を上げたのは雪蓮の横にいる周瑜さんだった。
 相変わらず挑戦的な眼で『答えてみせるがいい』と目が言っている。

 ……どうして曹操はともかく、雪蓮の軍師である周喩さんにまで厳しい目を向けられるのだろうか?

「それが先ほどの状況に応じて、となります。まず連合が問題なく虎牢関を落とした場合、董卓殿は洛陽にてたんぽぽ――馬岱が討ち取ったことにして逃亡させるつもりでした」
「なっ……」
「当然でしょう? 連合内で董卓殿を見た人物は誰も居ないのです。適当な死体に董卓殿の服を着せて燃やしてしまえば、あの袁紹なら多分信じたでしょうし」

 ありえそうだ、とその場にいた一同が思わず頷いている。
 だが、周瑜さんだけはまだ納得していなかった。

「……どこにどうやって逃亡させるつもりだったのだ? 西の長安か?」
「いえ、漢中に」
「……桟道は直っていないのではなかったのか?」
「はい。なので、出立前に突貫工事で長安から洋県……上庸の西に繋がる『子午道』を開通させるように指示してあります。かなり簡素に設計したので、多分ギリギリ開通しているでしょう。まあ、使っていたら追手を遮るためにも通過後、燃やす予定でしたし」
「……………………………………」

 ――全て計算の上で見通すか。
 そんな眼で俺を睨んでいる周瑜さん。

 ……この視線に快感覚えたら、人として終わりそうな気がする。 

「そして次に連合が負けた場合。この場合は献帝陛下に詔を戴いて、真実を明らかにした上で、袁紹たちを断罪するつもりでした。もっともその場合は、諸侯にはそれぞれ生き残りの道を探る羽目になっていたでしょうけど」
「う……む」

 劉表が唸る。
 この爺さんなら切腹とか言われてもやりそうだ。
 あ、この時代に切腹はないか?

「そして不確定要素が起こった場合に備え、同道していた将に自己裁量で動くように指示も出していました。図らずも、その不確定要素を……私自身が起こしてしまったわけですが」

 まさか暴走した上、炎蛇を出すことまでは予測し得なかったけどなぁ。

「……つまり、この内容はその将が独自に判断した内容だと?」
「我が意を汲んでくれた……と言いたいですがね。実際には戦闘終了後、細作に状況をしたためた書状を持たせて放ちました。ここから洛陽までの距離ならば、馬を使えば半日も掛かりませんからね」
「……連絡が来てないというのは嘘だと言うことね」
「孟徳殿……嘘は言っていません。こちらから連絡を出しただけで、向こうからの連絡待ちだったのは確かです」

 そもそも無線もないこんな時代だ。
 連絡手段はいくつも用意するのは当然だろうに。

「孟徳殿とて斥候を出しておりましょう? 北や南の関はいかがですか?」
「……………………」
「無論、私達も出しています。特に動きはないはずです。たんぽぽ、関の方への命令はどうなっている?」
「えと、うちの部隊から足の早い騎馬で伝令は出してあるよ。献帝陛下直々の戦闘停止命令が出ているから」
「とのことです」

 俺は報告を終えると、席へと座った。
 さて……

「待ちなさい! 話は終わってないわよ!」
「は?」

 なんかあったっけ……?

「どうして! 私に功を譲るのか! あれだけの事を貴方が成したなら、それを受け取るのも貴方のはずよ! 劉表はともかく、何故私を指名した!」

 劉表はって……すでに敬語なしか。
 相当キてるな。

「……情勢を鑑みれば当然でしょう。劉備は成り上がってまだ二年。献帝陛下の後ろ盾など出来るだけの政治的基盤はありません。望まれても果たせないのです」
「っ…………そ、それなら劉表だけでいいでしょう! 何故私まで……」
「曹孟徳殿。貴女はご自身を少々見くびっておいでのようですな?」
「……っ!?」

 曹操の顔がかあっ、と赤みが増す。

「先日も申し上げたように、貴女の祖父、お父上共に漢の忠義溢れる臣であり、貴方自身も典軍校尉であり、兗州(えんしゅう)の州牧でもある。官吏としては景升様と同格の上、軍属としての地位は貴女のほうが上なのですよ」
「それは――」
「実績では景升様が無論上ではありますし、何進幕閣内では袁紹よりも上でもありました。しかし、何進大将軍がご落命なさった現状では、貴女のほうが軍属では上位に当たります。それに景升様は元々官吏。軍属ではなかったのですから」
「………………」
「景升様とて、今の貴女を差し置いて上位に立つのは憚られる程なのですよ、貴女の立ち位置は。この連合の現在の盟主とて、『貴女が了承したから』景升様が盟主になられている」
「――っ!」
「……私は今の盟主を決める時に『貴女に』申し上げたはずです。盟主を誰にするか、と」
「くっ……」

 それはつまり、この連合の最上位者を示した献言だったのだ。
 その言葉に、曹操は劉備を指名した。
 だが、劉備は上位者である劉表にそれを移譲した。
 そして、曹操はそれを認めたのである。

「故に、景升様と曹孟徳殿のどちらかに、とお願い致しました。たんぽぽ、献帝陛下のご希望は聞けたか?」
「ふへっ!? あ、は、はい! へ、陛下は叶うならば、亡き霊帝陛下の信が厚かった大宦官・曹騰様の孫である曹操様にお願いできれば、とのことでした!」
「……………………」

 たんぽぽの言葉に、苦虫を百匹くらい噛みちぎったような顔を見せる曹操。
 その曹操から視線を外し、黙したまま眼を閉じている劉表を見る。

「景升様。霊帝陛下のお言葉ですが……もし希望なされるならば、景升様が後見なさることも出来ます。いかがいたしますか?」
「……いや、陛下のご慧眼であろう。儂の影響力は以前ほどではないし、中央の基盤は殆ど失われておる。孟徳殿に比べれば、戦の才など無いに等しい。後ろ盾にするならば、孟徳殿にはるかに及ぶまい。儂は辞退しよう」
「……っ」

 曹操は宣言した劉表から目を逸らし、俺を睨む。

 ……どいつもこいつも、何故に俺を睨むんだよ。
 ほんとに快感を感じるようになったら、どうしてくれるんだろうか。

 曹操はまだ納得できていないようだ……しょうがない。
 どうせ嫌われているのはわかっているんだし、ここは突き放すか。

「わたしはっ……」
「孟徳殿」
「っ!」
「それ以上は私に申されるより、ご自身で献帝陛下に奏上なさってはいかがでしょうか。私は現状の説明と取次をしているだけです。献帝陛下にはありのままの現状報告を致しました。あとは盟主名代である景升様と、献帝陛下からご依頼されている孟徳殿自身の問題です。今ここで私に申されても、これ以上ご返答のしようがありません」
「………………………………」

 歯ぎしりが聞こえてきそうなほど、俺を睨む曹操。
 横にいる荀彧は「華琳様……」と言ったまま声もかけられないようだ。

 まあ、諦めてくれ。
 史実的にも後見役は曹操なんだし。
 そうなるようにお膳立てしたのだから、素直に受けてくれよ。

「まあ取次させて戴いている以上、一言添えることぐらいはできますが……それ以上のことを求められても困ります。そして私は……いえ、劉備の意思は」

 俺は横にいる桃香を見る。
 桃香は俺を見て……頷いた。

「献帝陛下の意思に従います。私はそれ以上を求めるつもりはありません」
「……っ!」

 桃香の言葉に、曹操は歯ぎしりをしながら目を逸らした。

「と、いうことです。報告は以上です」
「うむ……」

 俺は曹操から目を逸らしつつ、席に座す。
 ふう……

「ご苦労じゃった、盾二。馬岱殿もよくやってくださった。感謝する」
「あ、はい……い、いえ!」

 たんぽぽは、劉表が頭を下げたことに少し慌てながら桃香の横に座る。

「……孟徳殿。まずは落ち着いて、お座りになられよ」
「…………」

 劉表の言葉に激情を抑えるように目を閉じ、その場に座る曹操。
 噴火する寸前の活火山のように、顔を真っ赤にして憤怒を堪えているといった様子だ。

 プライド高すぎじゃないかねぇ……

「うむ……ともかく、陛下からのご温情により、儂らは漢の大逆臣にならずに済んだわけじゃな。すぐにも洛陽に向かい、陛下に御礼申し上げるべきと思うが……」

 劉表は俺達全員に視線を向ける。
 俺と桃香は頷き、雪蓮は周瑜さんを見て、その周瑜さんもしばし黙考して頷いた。
 荀彧はバツが悪そうに己の主人を見ている。

 そして最後の一人、曹操は――




  ―― other side ――




 ――そして時は戻る。

 こうして反董卓連合は『董卓の死』という結果を世に知らしめ、終結することになった。

 ある者は賜った恩賞に、足取りも軽く。
 ある者は減封という処罰をされ、足取りも重く。
 それぞれの諸侯は、自身の領地へと兵とともに帰ってゆく。

 だが、この大乱とも呼べる大事件は、次に来たる戦国乱世の予兆でしかないことに気づいているものはいただろうか。

 袁家を始め、今回の主犯とも言える諸侯による劉虞討伐軍が新たに編成されたのは、それから二月後の事となる。
 その討伐軍の指揮を任されたのは、曹操だった。

 そもそもが処罰的な為、著しく士気の低い劉虞討伐軍であるにも拘らず、自領地にて防衛戦に苦戦していた公孫賛を助け出し、返す刃で劉虞軍を粉砕する。
 人々はその神がかり的な曹操の采配に、賞賛の声を上げた。
 そして曹操は、献帝の後見人として、その地位を確固たるものとしていくのである。

 だが、その本人は激しく不満を持っていた。
 賞賛の声に、ではない。
 なによりその相手であった劉虞軍の弱さにである。

 後日、その様子を同行した張遼将軍が呟いたという。

『あれはおかしかったで。それまで散々公孫賛の北平を攻めとったのに、まるでウチらを待っていたかのように勝手に崩れよるん。あんなん、そこらの盗賊でも勝てるで』

 だが、その呟きも賞賛の声の中に埋もれていった。

 そしてその戦いの中で劉虞は命を落とし、劉虞が治めていた平原は公孫賛が治めることになる。
 こうして大陸は再び平穏を手に入れた――かに見えた。

 だが、すでに大陸は激しく揺れ動いていたのである。

 そう――後世に三国志と呼ばれた時代。
 その群雄割拠は、もうすぐはじまろうとしていた。









 一人の男の失踪によって――
 
 

 
後書き
実は後2~3話書くつもりでした。
ですが長らくおまたせしたことと、話がどうまとめても蛇足になりそうなのでバッサリカットすることにしました。

細かいところは次の拠点フェイズで補足して、蛇足はそのうち外伝でもと思っています。
次は拠点フェイズをいくつか書いて、次の章になります。

以前のような更新スピードに持っていくのは無理かなぁ……?

※5月19日 誤字・文法のおかしなところを修正しました 
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