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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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転入の理由

「ねぇねぇ鈴蘭さん!入学してから僅か一週間で転入してきたのは、一体なんで!?・・・・・・あっ!言いづらい事なら、別に言わなくても・・・。」

 誰だって、入学してから一週間という短い時間で転入してきた生徒には興味を持つ。例えばそれが、暗い雰囲気を持つ人物ならば、イジメにでもあったかと思うだろうが、やってきたのはまるで太陽かと見紛う程に明るい美少女だ。彼女を見て、イジメなどの重い話は連想しにくい為、気楽に聞けるような空気が出来上がっていた。

 一時間目が終わった休み時間。鈴蘭は、質問したくてウズウズしていたクラスメイトに囲まれていたのだ。これも、転入生の宿命といえよう。

 とはいえ、彼女はこの空気を嫌っていない。そもそも、注目されることなど承知の上でこのクラスへとやってきたのだ。権力をフル活用して。この程度、いくらでも対応出来る。

「私がここに来た理由?それはねー・・・。」

 何やら鈴蘭が楽しそうに話している間、草薙護堂とエリカ・ブランデッリはヒソヒソと話をしていた。

「おい、どういうつもりだあの人。なんでここに来たんだよ・・・?」

「私に聞かないで頂戴・・・。三度の飯より騒動が好きっていうカンピオーネの方々(貴方たち)の思惑なんて知るわけないじゃない。・・・それにしたって、サルバトーレ卿やヴォバン侯爵の動きが不穏だっていうのに、彼女に気を配るような余裕なんてなかったわよ。私、この国の地盤はないのよ?」

 そう。ここ数日、カンピオーネの中でも特に問題児とされる二人の行動が怪しくなっていた。ドニの側近である王の執事は行方不明になるし、ヴォバン侯爵の居城付近では、常に風雲雷雨が轟いているのだ。

 二人共が超ド級の戦闘狂の為に、周囲の魔術師たちは不安を隠しきれないでいた。実際、ヴォバン侯爵は自分が戦う為にまつろわぬ神を招来したり、ドニはこの間の事件の時、【伊織魔殺商会】にまつろわぬ神の連絡が行き渡らないように工作したりしていた。この二人、強い相手と戦う為には手段を選ばないという点で似ているのである。

 当然、新たなカンピオーネ草薙護堂の側近であり、【赤銅黒十字】の幹部であるエリカも、彼らの動きを把握しようと動いていたのだ。
 しかも、彼女にとって【魔界(日本)】はアウェー。情報網の構築も出来ていない・・・というか、多数の術者が鈴蘭たち【伊織魔殺商会】に惹かれてくるであろうまつろわぬ神を恐れて国外に逃げてしまっていたので、この国の術者人口は過去最低のものとなっていたのだ。これでは、いくら情報収集をしようとしても無駄である。何せ、一応は国家公務員である【正史編纂委員会】のメンバーでさえ人手が足らず、機能不全に至っていたのだから。

 これではエリカを責めることなどできまい。

 ―――と、彼らが内緒話をしていたところで・・・

『キャアアアアアアアアアアアアアア!?』

 悲鳴・・・というか、黄色い歓声が上がった。

「なんだ!?」

「・・・どうしたのかしら・・・?」

 それまで話に夢中になっていた彼らが周りを見渡すと・・・

『・・・・・・!(*>v<)ゞ*゜+キラキラキラキラ』

 とした女生徒からの好奇の眼差しと・・・

『コイツ殺してぇ・・・・・・!(#^ω^)ピキピキ』

 とした男子生徒からの妬みの眼差しの、二つが向けられていた。

「・・・な、何だこの空気は・・・?」

「・・・・・・まあ、原因は分かりきっているのだけど、ね・・・。」

 二人の視線の先には、ムフフ、と口に手を当てて笑っている鈴蘭の姿があった・・・・・・






「・・・で、何しに来たんだ・・・?っていうか、アンタクラスメイトに何言ったんだよ・・・?」

 額に青筋を立てて静かに起こる護堂は、昼休みに入ると同時に鈴蘭を屋上へと連れ出した。その隣にはエリカと、なんと護堂と同じ高校に入学していた祐里がいる。眷属となった彼女は、必要なら自分が転校することも視野にいれていたのだが、最初から同じ高校に入学予定だったことを知ると、何か運命のような物を感じて顔を綻ばせていたものだ。
 彼女も、【正史編纂委員会】から、自分の学校に鈴蘭がやってきたと連絡を受けて、慌ててやってきたのである。

 しかし、護堂の言葉遣いがだいぶ砕けている。今日だけで色々と迷惑をかけられた為、敬語を使うような気が失せてしまったのだ。
 まあ、そんなことを気にする鈴蘭ではないのだが。

「クラスの子達に言ったこと?・・・『気になる男がいたら、近くにいたいと思うじゃない?』って呟いて、護堂君を意味ありげに見ただけだよ?」

「それが原因だよ!!!」

 勿論、鈴蘭は確信犯である。

「嘘は言ってないよ嘘は。『カンピオーネ仲間(同類)として』気になっているのは確かだし。好きとは一言も言ってないよ私は。」

「そ、そんな言葉を鈴蘭様が言ったら、全員がそういう勘違いをするに決まってます!ただでさえお綺麗なのに・・・。」

 と祐里が苦言を申すが・・・

「え~でも~。元はと言えば、『あ~、エリカさんと祐里さんに続き三人目の登場か~。流石は護堂君。草薙一族の力は伊達じゃないわね~。鈴蘭さんも気を付けないと、そのうち四人目や五人目が出てくるわよ~?』なんて認識されてる護堂君が悪いんじゃない~?二股も三股も四股も五股も一緒だと思われてるんだよ。」

 鈴蘭が実際に、クラスメイトの女性から言われた言葉である。彼女はどうやら、草薙一族の悪癖をキチンと知っている人間のようだった。

 ・・・というより、入学してからこの一週間の内に、草薙護堂は女たらしだというのは学校全体の共通認識となっていた。
 新入学生でありながら文句なしの学園二大美人に選ばれたエリカと祐里を隣に侍らせているのだから、当然であるが。

 しかも、よくある『一人の女性と付き合いながら、影で他の女性と付き合う』訳ではなく、『二人の女性と同時に付き合っていて、その二人も納得している』のだと周囲には認識されていた。

 そりゃ、昼休みになるたびに、違うクラスのハズの祐里が毎回手作りのお弁当を持ってやってきて、護堂とエリカと一緒に三人で屋上へ行き、仲睦まじく食事をしているのを見れば誰だってそう思う。
 おまけに、放課後は放課後で、三人で引っ付きながら下校しているのだ。たまに、お互いの家に寄ることもあるようだし。

「なんだそれ!?俺はそんな外道じゃないぞ!?」

「護堂・・・。」

「護堂さん・・・。」

「護堂君・・・それはないわ~。」

「なんでだよ!?」

 必死の弁明も、何の意味も持たない。屋上に、虚しく響いただけであった。





「・・・・・・で、何しに来たんだ・・・。」

 先ほどよりも更に疲れた顔をした護堂が問いかける。鈴蘭は、実に美味しそうなプリプリのエビフライを囓りながらそれに応えた。

「全部ドニ(バカ)ヴォバン侯爵(ジジイ)が悪い。」

「はあ?」

『あぁ・・・。』

 裏の世界に入りたてである護堂には意味不明だったが、エリカと祐里の二人には痛いほど理解出来た。つまり、最近の不穏な動きが、ここに繋がっていたのだろう。

「二人共、護堂君の話を聞いて、もう限界みたい。ドニは、自分が倒せなかったクトゥグアを倒した君に興味津々だし、ヴォバン侯爵も、一週間にも満たない短すぎる時間で、三体の神を倒した君と戦いたがってる。」

「最悪・・・ね。あの二人なら、【伊織魔殺商会】との敵対なんてなんとも思わない・・・というか、むしろ嬉々として敵対しそうだし。」

 ドニは兎も角、ヴォバン侯爵はどちらかというと狩人である。そのため、勝ち目がゼロ%の勝てない戦いはしないだろうが、逆に言えば、一%でも勝目があれば、好敵手を求めている彼は襲ってくるだろう。
 カンピオーネとは、『どんな絶望的な状況でも、勝ち方を見つけてしまう』生物である。そのことを、彼はよく知っているのだから。数が不利だからと言って、絶対に勝てない訳ではないのだ。

「そろそろ日本に着く頃だろうね。私としても、普通に決闘とかで満足してくれるなら放っておいてもよかったんだけど・・・。」

 と、鈴蘭は護堂を見る。

「護堂君・・・決闘とか申し込まれて、受ける?」

「受けるわけがないだろう!」

 決闘は、法律違反である。自身を、『真っ当な』日本人だと自負する彼が、そんなことを受けるはずがないのだ。

「でも、相手はそれじゃ納得しないんだよねー。仮に決闘を受けたとしても、嫌々やったんじゃ面白くない。・・・なら、本気にさせるにはどんな方法を取る?」

 まあ、どうせカンピオーネなんて連中は、戦い始めたら段々とテンションが上がってきて、最終的にはヒャッハーしちゃうのだろうが、最初から全力を出してくれたほうが、決闘としては面白い。

「ま、人質とかね。そういう手段に出るだろうね。」

 ドニなんかは、『うーん、何人か殺したほうが、やる気が出るかな?』とか言って切りそうであるし、ヴォバン侯爵は『貴様がやる気を見せないのなら、やる気にさせてやろう!さあ、この狼を殺し尽くさねば、この街の人間が食い尽くされるぞ!』とか言って狩りを始めそうである。

「だから、そうならないように、最初から隔離世で戦ってもらおうと思って。」

 いつ彼が奇襲を受けても大丈夫なように、鈴蘭が近くに来たのだ。彼女が近くに居れば、流石の二人も襲撃を躊躇するとは思うが・・・それもいつまで持つか。ほぼ間違いなく、近いうちに襲ってくるハズである。

(後・・・この国にこれ以上カンピオーネが増えるのは、ちょっと勘弁してもらいたいんだよねー・・・)

 彼女たちだけが知っている理由により、複数のカンピオーネに日本で戦ってもらっては困るのだ。だからこそ、隔離世に送ることの出来る彼女が護衛についている。

(・・・あぁ、戦闘狂は面倒くさいなー)

「この際だから、全力で『殺っちゃえ』♪」

「いや、殺さねえよ・・・。」

 苛立ちを込めた鈴蘭の笑みに押される護堂であった・・・・・・ 
 

 
後書き
お久しぶりです。ダクソ2で遅くなりましたよっと。
あと、今回も難産でした。やりたい話はある程度形になってたんですけど、どうやってそこに繋げるかが問題で。
・・・でも、カンピオーネの定番で乗り切りました。

・・・困ったときは、ドニに任せればいいんだよ!w

彼なら騒動を起こしてくれますw 
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