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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第24話

シエル嬢の一撃は決まったが、デュノアを倒すまでは至らず、2人は取っ組み合い、転がり幾度も上下を逆転しながら、キャットファイトを繰り広げる。その間も、互いに悪口を言い合いながら。

「アレでは子供の喧嘩ではないか…」

俺と睨み合っていたボーデヴィッヒが、呆れ顔でデュノアを止めようとする、それを俺が手で制した。

「やらせるんだ。2人の気のすむまで」
「何故だ?」
「生まれて初めての兄弟喧嘩なんだ、納得するまでやらせた方が良い」

準備期間中にシエル嬢から聞いた。今まで、あまり接する機会が無く、デュノアとどうコミュニケーションを取ればいいか分からないと。
シエル嬢は本妻の子、デュノアは妾の子と立場も違い、面と向かって話し合うなんて、今の今まで無かったのだろう。
ならば、今、気持ちを吐き出した方が後々お互いの為になる。

「それに、決着はもうすぐ付く」
「…どういう意味だ?」
「簡単な事さ、あの2人はもうすぐ相打ちの形でエネルギー切れ、それに…、」

試合終了のブザーが鳴る。

「俺もガス欠だ」
『試合終了、勝者、ラウラ、シャルロットペア』

微妙な空気の中、勝者のアナウンスが響く。

「うぅーっ!シャルの癖にー!」
「コッチの台詞だよバカシエルー!」

試合が終わっても喧嘩を続ける2人、呆れて肩をすくめるボーデヴィッヒ、疲れたように天を仰ぐ俺。
観客もどう反応したものかと、困惑が広がる。
斯くして、この戦い、業を煮やした織斑先生が仲裁する事で、ようやく幕を下ろすのであった。

──────────

「お疲れ、ハル」
「お出迎えどうも。結果はどうあれ、意味がある試合になったか?」

シエル嬢のデュノアへの蟠りは、あの取っ組み合いで少しは無くなった筈だ。加えて、シエル嬢が自分のスタイルを朧気ながら披露した。今後、ゼロの指導と己の力で完成した姿を見る事もあるだろう。

「トモハル…ありがと、ボク上手く言えないけど、凄く、凄く感謝してるよ!」
「俺は質問しただけだ。後はゼロ達と仲良くやってくれ。…先に撤収する。喧嘩の付き合いはこりごりだ」

シエル嬢を労るゼロ達に背を向け、更衣室の戸に手をかける。疲れた体に甘々なイチャツキタイムは毒だ。

「…っ、トモハル師匠ー!今日は本当にありがとー!!」
「師匠じゃないっ!」

独り立ちしたかと思えば、師匠呼ばわりは変わらんのかい!

「ボクにとっては、いつまでもトモハルは理想の師匠だよ!またいつか、一緒に戦ってね!」
「この娘は…。次が無い事を切に願うよ」

今度こそ更衣室の戸を開き、中へ入る。連戦による肉体的疲労と、今回の姉妹喧嘩の精神的疲労で、しばらくは何もしたくない。
それでも、何らかの事態で振り回されるのだろう、モテる男と仲が良ければ。
半ば確定事項となっている事実に気を重くし、ノロノロと着替える。

支度を終え、更衣室から出た時に、ゼロとシエル嬢の甘い空間に遭遇し、非常に気まずい雰囲気になったのだが、これはまた別の話。

──────────

「丹下智春、約束を果たしてもらいに来たぞ。さあ、渡してもらおうか」
「ボーデヴィッヒ、何も終わってすぐ来ること無いじゃないか…」

疲れ気味の俺をムチ打つように、ボーデヴィッヒが参上した。宣言通り潔く渡すが、後日改めて、でもいいと思う。と言うより、少し休みをください。

「善は急げ、とこの国では言うらしいではないか。それに、後日では貴様が忘れたりしている可能性もある。さあ渡せ」

別に忘れたりは…、と言っても、ボーデヴィッヒは聞かないだろう。ああ、無情。

「はいこれ。好きに使ってくれ」
「ホウ、コレが…、…!クククッ、感謝するぞ丹下智春ゥ!!」

差し出した写真を見て、大興奮かつご満悦なボーデヴィッヒ。ヤレヤレ、コレで一件落着…「僕の分は?トモ?」してねぇ…。

「デュノアとは何も約束してないだろう?」
「でも、ラウラだけは不公平なんじゃないかな?」

ああ言えばこう言う…!シエル嬢も厄介だが、その姉は更にたちが悪いな!そんなにー夏の写真が欲しいか!…欲しいだろうな。我ながら、今更過ぎる。

「敗者は黙って差し出しますよっと」 

ー夏のマル秘写真を渡す。

「フフッ…。今日はありがと、トモ、僕達の為に…」
「何の事かさっぱりだ。」

デュノアの気持ちは分からなくはないが、基本的に捲き込まれただけで解決した訳ではない。
寧ろ、今後の方が気がかりである。

「今度は姉妹喧嘩に俺を引っ張るなよ。勿論、他の奴もだ」

そうなる前に注意しておけば、ある程度押さえられるだろう。…ヒートアップし過ぎなければ。

「そう言えば、もうすぐ臨海学校らしいけど、トモ、準備してるの?」

うっとりと秘蔵写真を眺めていたデュノアが、思い出したように聞いてきた。

「夏の海はアロハと麦わら帽子だろう?ばっちりさ!」
「水着は!?」

一体何を驚いているのか。いいかい、デュノア、

「海に入らなくとも、海は満喫できる!!」

それに、俺が居ると一夏は君達に近付かないぞ、あんまり。

「言われてみれば、そうだ。丹下智春、貴様、絶対に水着を買うなよ!」
「元から買う気無えよ」

最初から除外したよ、水着なんて。

そこで会話を切り上げ、疲れ切っていた事もあり、早々に俺は寮の自室で眠りに落ちた。

──────────

気がつくと、いつぞやの懐かしき前世の部屋にいた。
自称神様が今更何用かと訝しがっていると、その神様が夕日の逆光の中登場した。

「やあやあお久しぶり。どう、充実してる?」
「何の用だよ?俺のやり方にどうこうは言わせないぞ?」
「やり方に文句は無いよ?でもさ…、負け過ぎじゃない?」

それこそ言われても困る。そんな簡単に勝てたら、長年努力してきたIS使い達に申し訳がたたない。
加えて、敗因の大半は俺にある。ISが高性能でも、操者が力不足ならば、満足に力を発揮できはしない。

「だからこそ、だよ。君にはぜひともレベルアップしてもらわなきゃいけない!」

神様が指を鳴らすと、夕日差し込む俺の部屋が、突如学園のステージに変わった。

「言い忘れてたけど、僕は大変負けずぎらいなんだ、僕が携わったISが負けるのは、我慢できないんだよ」

再び指を鳴らすと、ISを展開した女性が。アレは、まさか…っ!

「君には全盛期の織斑千冬、つまり、最強と戦い、勝ってもらうよ?あ、ちなみに勝つまで起きられないから」
「馬鹿言うな!んなもん昏睡状態で大騒ぎになるだろうが!」

不可能に近い難題を押し付けるのも最悪だが、起きるという行為を封じられては、たまったものではない。

「大丈夫、ここの時間が那由多程に過ぎようと、『向こう』の時間は一瞬も経たないよ。安心して、強くなるんだ!」
「無茶苦茶言いやがって…、やりゃいいんだろ!?」

ヤケクソ状態でヴァンガードを起動し、構える。実力差がはっきりしすぎて、自分が場違いな錯覚すら感じる。

神様が出した織斑先生、正確にはその幻影だが、よもや剣を交える羽目になるとは思いもしなかった。

武装は太刀一本の先生だが、まるで隙がない。どう攻撃しても、確実に仕留められてしまうだろう。それ程までに、『織斑千冬』は圧倒的なのだ。

だが、仕掛ける!

爪先のエッジを剣に変形し、先生の武装を狙う。が、目にも止まらぬ速度で反応し、逆に一撃を喰らってしまう。分かってはいたが、対応できない。

「遅い」

太刀を突き付け、冷たい顔と声を俺にくれる織斑先生。

随分と、長い永い夜になりそうだ。

─────────

同時刻、某所では、先の智春の戦いで、こまかく言えば、ヴァンガードから得た発想でインスピレーションを得た篠ノ之束が、鼻歌混じりで『何か』を作っていた。

「いや~本当に驚いた。まさかの二段階ブースト!しかも、私の予想が外れてなければ、二次移行とは『少し違う』な~。他にも彼は隠してるみたいだけど。おかげでコッチも意欲全開!作ってみたくなっちゃった、私作ヴァンガードを!」

彼女は実に楽しげであった。そしてそれが完成するのは、僅か数日後の事である。
それが原因で智春が大変な事態になることになるのだが、未だ夢の中で地獄を見ている智春には全く予想も出来ないことであった。



 
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