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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第23話

さて、戦闘が開始したが、戦況は単純化している。

「シャルは頭が固すぎるんだよ!そんなのだから胸も大きくならないんだ!」
「胸は関係無いでしょ!そんなに変わらないのに!」
「ボクはDあるもーん。最近またブラがキツくなってきたし、差がつく一方じゃないかな?」
「嘘だっ!!」

片方は口喧嘩の合間に攻撃が繰り広げられ、


「速い…!これがボーデヴィッヒの本気か!」
「言うわりには命中させない、楽しめるな、丹下智春!」

もう片方は攻守の入れ替わりの激しい空中での高速戦闘。一見お互いに敵を請け負っているように見えるが、実際はデュノアだけしか見えていないシエル嬢にボーデヴィッヒが攻撃するのを俺が防ぐ構図だ。

救いなのは、デュノアもシエル嬢のみを見ているので、二対一で攻められない事か。

「どけよボーデヴィッヒ!」
「貴様がどけ!」

俺のエネルギー弾とボーデヴィッヒのレールカノンが衝突し、激しい爆発を起こす。俺もボーデヴィッヒも狙いは一つ、いかに早く相方と合流するか、コレに尽きる。

喧嘩している相方の援護が出来れば、片方は容易に始末できる。後は、残ったもう一人をゆっくり追い詰めればいい。
それが分かっているからこそ、双方供にお互いのパートナーの所へ行こうとして邪魔される、それの繰り返しになっている。
このままでは埒があかない。賭けに出てみるか…!

「シエル嬢!」

シエル嬢に呼び掛け、握った右拳にエネルギーを纏わせ、巨大な拳を生成する。そして瞬間加速で一気にデュノアに詰め寄る。来い…!

「なるほど?」

感心した様子のボーデヴィッヒが俺を停止結界で止める。後は、シエル嬢がボーデヴィッヒを攻撃し、停止結界を中止させれば、再び動いた俺がデュノアを攻撃出来る。命中せずとも、手は増やせる!
シエル嬢の動きを待つ。だが、シエル嬢はそのままデュノアにかまけっぱなし。馬鹿な、『聞こえていない』のか…!?

「残念だったな、丹下智春」

本当に残念そうに、ボーデヴィッヒが俺を見据えている。

「己をデコイにして戦況を変える、途中までは見事だった。惜しむらくは…、相方との意識の齟齬か!」
停止した俺の背中に、ボーデヴィッヒのレールカノンが直撃、衝撃でシエル嬢の近くに墜落してしまう。

「師匠!?」
「気にするな!俺のミスだ!」

表情を驚愕に染めるシエル嬢にあえて大声でミスをアピールし、体制を立て直す。
俺が墜落した事でデュノアも冷静を少し取り戻したようだ。賭けは失敗、苦しい展開になってきたか。

「シエル嬢、頭は冷えたか?俺が前衛になる、背中は任せる!」

シエル嬢にフォローを頼み、盾になるべく前に出る。自分の失態は、自分で挽回する!

───────────

「クソっ!攻めが激しすぎる!反撃もままならない!」
「トモの反応が以前とは段違い…!ここまで当たらないなんて!」
「だが、それでこそだ!丹下智春ゥ!」

急加速、急停止、上昇、旋回、宙返り、ありとあらゆる方法でボーデヴィッヒとデュノアの攻撃を回避していく。しかし、それが途切れないため、防御に手一杯になっている。流石は代表候補生、技術もさることながら、デュノアのフォローが抜群に上手く、ボーデヴィッヒの隙を完全に補っている。

何度もスピードで振り切ろうとしても、デュノアの牽制で足を止められ、ボーデヴィッヒに追い付かれる。シエル嬢も援護射撃をしてはくれるが、デュノアのみを狙っているので有効とは言い難い。

「シエル嬢、ボーデヴィッヒを足止めしてくれ!これじゃどうしようもない!」
「師匠こそ、しっかり攻撃してよ!ボクがシャルを討てないじゃないか!」

シエル嬢の返答に耳を疑った。状況が分からないのか!?

動き回り、何とかエネルギー弾を発射するが、所詮苦し紛れ、通用などしようもない。そうして、何度目かのボーデヴィッヒのレールカノンを避けきれず、左手のスフィアで受け止め、背筋が凍る。デュノアが接近している。パイルバンカーを打ち込む気か!

「トモォォォッ!!」
「デュノアァッ!!」

絶叫と、激突音が響く。連続で襲いかかるパイルバンカーをスフィアが防ぐ。そして、均衡が崩れる瞬間が訪れる。パイルバンカーが遂にスフィアを砕いた。即座に武器をスイッチし、俺を狙うデュノア、右手を向ける俺、攻撃を放ったのは同時、爆風に曝されながら、着地する。ボーデヴィッヒはシエル嬢を抑えに動いている、真綿で首を絞められているような感覚すら覚える。

この状況…ひっくり返すには…。

───────────

一方その頃、モニターで観戦していたー夏やゼロ逹も、智春の想像以上の苦戦に苦い顔をしていた。

「トモが押されてる…!」
「半分二対一でまだ戦っていますから、かなり善戦していますわ、ー夏さん…!」

友人を案じるー夏をセシリアが宥める。
モニターを見つめるゼロの顔は固い。苛立たしげに靴を鳴らし、体を揺らす。

「何をしている、シエル…!ハルが孤立しているじゃないか…!」
「もしかして…、シエルさん、お姉さんに固執しているのでしょうか…?」

そののぞみの考察に、ゼロは黙り込んだ。シエルは頑固で融通の利かない一面があるのを、ゼロはよく知っていた。

臍を噛み、見据えるモニターに智春とシエルの声が響く。

『思い出せシエル嬢!』
『何を!?』
『ゼロと何をやってきた!』

智春の言葉に、ゼロは目を細めた。逆転の目が見えたからだ。

────────────

「いいかシエル嬢、これから暫く攻撃するな!いいな!?」

師匠の発言が理解出来ない。攻撃するな?思い出せ?何を?何故?

「何度か質問する!それに答えていけば、自ずと分かる!」

そう言って、師匠のヴァンガードが翡翠色に輝き始めた。先日圧倒的な力を見せた、師匠の奥の手。

「シエル嬢、ゼロに教えてもらった時、一番最初に何を言われた?」
「何をしたいのか、どの距離で戦いたいのかを決めろって…」

シャルとボーデヴィッヒさんを近づかせないようにウイングを射出しながら、更に師匠は質問を重ねる。

「何と答えた?」
「ボクは接近戦を、師匠みたいな出入りで戦いたいって、ならゼロは周りを見る事から始めろって…ああっ!?」
「ようやく落ち着いてきたみたいだな…。次だ、シエル嬢とデュノアの違いは?」

物凄い加速力で、シャルに師匠が剣を振るう。けど攻撃に当てる意志は感じない。あくまで時間稼ぎみたい。

「背はシャルに負けるけど、スタイルは完勝だし、体重も多分ボクの方が軽い!」
「トモ、死にたいのかな?」

おお、シャルから強い殺気が!自業自得だね師匠。

「…言い方を変えよう。二人のISの違いは?」
「基本は同型だけど、武器に違いが…、」

ボクのISもシャルと大元は同じ、違いは兵装くらい。師匠は何を言いたいのだろう?

「なら、何故デュノアの土俵で張り合った?ゼロはそうしろと言ったか?」

刀剣から生じる衝撃波で、シャル逹を牽制する師匠。師匠は待っている、ボクの答えを。

「シャルが羨ましかった、シャルと同じ距離で勝って、認めて欲しかった。『シャルロット・デュノアの妹』じゃない、『シエル・デュノア』を」
「だから躍起になってデュノアを狙い、周りを疎かにした。…これからどうする、シエル嬢?」

どうするか?そんなの決まってる!

「師匠、いやトモハル!力を貸して!ボクはボクのやり方で戦う!」
「ようやく答えを出したな。任せろ、一発たりとも当てさせはしないさ!」

頼もしい『相棒』に背を任せ、前に出る。呼び方は変えたけど、ボクの師匠であるとの認識は不変、やっぱり、まだまだ遠いな。
それはさておき、仕切り直しだ、気分も一新した方が良いよね。

「それじゃあ、行くよ?イッツ・ショーターイム!!」

なるべく明るく声を出し、援護を受けながら前進。沢山苦労させた分、今度はボクが動く番だ!

──────────

シエル嬢が前に出た事で、状況が一気に変わった。今までデュノアとほぼ同じ武器で戦ってきたシエル嬢が人が変わったように接近戦を仕掛けてくるのだ。デュノア達の驚きも大きい。何より、シエル嬢に目が向くようになったが故に俺が動けるようになった。
当初の作戦とは異なるが、今となってはこの方が良い。

…しかし、シエル嬢接近戦巧いな。ゼロの教えあってか…。

活き活きと攻撃するシエル嬢をエネルギー弾で援護する。相手の動きを阻害するのが目的なので、命中せずともかまわない。

「ナイス援護、トモハル!」
「上からちまちまと…!」

意気揚々なシエル嬢と苛立たしげなボーデヴィッヒの声。場も暖まってきたようだ。

「シエル嬢!デュノアを任せる!最高の一発、俺に見せてくれ!」

ボーデヴィッヒに突撃し、動きを遮る。姉妹喧嘩で始まったこの戦い、やはり姉妹喧嘩で締めるのが筋だろう。

俺の言葉を受け、デュノアに迫るシエル嬢、待ち構え、パイルバンカーを準備しているデュノア。だが、射出された俺のウイングが、デュノアを止める。

シエル嬢の武器の篭手がデュノアの胴に決まるのは、そのすぐ後だった。




 
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