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ハイスクールD×D 新訳 更新停止

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第3章
月光校庭のエクスカリバー
  第57話 恋慕する千秋

 
前書き
イッセーと千秋のデートの話ですが、明日夏視点が多くなります。 

 
「ねえ、明日夏兄、これがいいかな?」
俺の目の前で千秋が服を体の前に持ってきて聞いてくる。
「……いいんじゃないか」
「ちゃんと答えてよ!」
俺の素っ気無い答えに千秋が不機嫌になる。
「……あいつが好きそうなやつを着ればいいだろ!」
「………それはそうなんだけど……」
俺がそう言うと、頬を染めてもじもじしだす。
あいつとはイッセーの事である。
明日、千秋とイッセーが買い物に行くと言う事になっている。
以前、バイザーと言う名のはぐれ悪魔を討伐に行った時、千秋はイッセーに暴走してしまった自分の姿を見せてしまった。
みっともない姿を見られたと落ち込む千秋を元気付けようと、休日に買い物に行こうと誘い、千秋はイッセーとのデートと言う事で、当然了承。
だが、アーシアの一件やライザーの一件など、いろいろと大変だったため、二人ともその約束の事をすっかり忘れていた。
が、先日イッセーがその約束を思い出し、ライザーの一件での協力のお礼がしたいと言う事で、明日行く事になった。
そして今、千秋はデートに着ていく服の選別中と言う訳だ。
で、俺に意見を求めてきたのだが、ぶっちゃけ俺は洒落とかに興味があまり無い為、さっきのような会話の繰り返しだった。
俺とて真面目に答えたいところだが、正直、どれも似合うとしか感想が出なかった。
「……明日夏兄、そんなんじゃ彼女できた時大変だよ」
「人の心配より自分の心配をしてろ」
俺は恋愛云々よりも一日でも早く正式な賞金稼ぎ(バウンティーハンター)になることに集中したいからな。
「とりあえず、副部長あたりに頼んだらどうだ?俺なんかよりはずっとマシな意見が出ると思うぞ?」
「……うん…」
「言いふらしたりする人じゃないだろ…たぶん?」
「……疑問系になってる」
千秋が他のオカ研の部員に相談しないのは、デートの事が部長やアーシア、鶇、燕の四人の耳に入るのを避けたいからである。
イッセーに好意を寄せる四人だ、黙っているはずがないだろう。
さすがに妨害はしないだろうが、尾行あたりはやりそうだ。
千秋が言うには、そうなると、落ち着けないと言う事らしい。
「まあ、大丈夫だろう。そんな事よりも準備するものがあるんじゃないか?」
「?」
「告白する為の気構え…」
ボフッ。
顔を真っ赤にした千秋に枕を顔面に投げつけられた。


翌日、待ち合わせらしき場所で千秋はイッセーを待っていた。
ちなみに俺はその場所から少し離れたところにいる。
まあ、見ての通り、気になったので来た訳だ。
とりあえず、気付かれ難いように今日着てきた黒いパーカーのフードを被っている。
ちなみに千秋は結局、自分で服を選んだ。
洒落っ気の無い俺とは違い、活発そうながらかわいさのあるお洒落していた。
(それにしてもイッセーの奴遅いな?)
千秋が待ち合わせ場所に来てから、もう二時間近く経っている。
その間千秋はガラスに映る自分を見て何回も前髪を弄くったりしていた。
(これは千秋が待ち合わせ時間より早く来てるな)
イッセーの奴が女子との約束の時間に遅れる事はまず無いだろうからな。
何回目かの前髪の整えを終えた千秋に男が二人近付いてきた。
明らかにナンパだな。
俺は首に掛けているヘッドホンを装着する。
コイツは賞金稼ぎ(バウンティーハンター)内で、使われている集音機である。
視界が利かない時の周りの状況の確認や討伐対象の索敵などに重宝する。
試運転も兼ねて今回の様子見に持参した。
視覚強化で様子を見ながら聴覚強化と併用して千秋と男達の会話を聞く。
ヘッドホンから会話内容が聴こえてきた。
『「ねえねえ君一人?よかったら俺達とどっか行かない?」』
『「……いえ、人を待ってますので」』
千秋は仏頂面で返す。
『彼氏?彼女を待たせるような男なんて放っておいて、俺達と遊ぼうぜ♪』
『「………」』
ガン無視だった。
『「どうせ冴えない奴なんだろう?」』
『「俺達の方が断然カッコいいぜ♪」』
男達は自己アピールしだすが、千秋からしてみれば鬱陶しいだけだった。
ちなみに助けずに傍観しているのは…。
『「おい!さっきから無視してんじゃ…」』
『『っ!?』』
未だに無視する千秋に苛立ったのか、男の一人が千秋の手を取ろうとするが、千秋は軽やかに避け、顔面に向かって鋭い蹴りを寸止めで放つ。
余談だがこの時、千秋はもう一人の男にも蹴りを放っていたが、速すぎて端から見れば手を取ろうとした男にしか蹴りを放っていないようにしか見えなかった。
男の方は確実に蹴りの風圧を感じているだろうが。
『「……次は当てる」』
『『は、はいぃぃぃっ!!』』
千秋の声音の低い言葉に男達は悲鳴を上げて逃げていった。
周りの通行人(特に女性)が今のやり取りを見て「おおぉ~…」と感嘆の声を出していた。
とまあ、こうなるだろうと思い、特に手を出さなかった訳だ。
イッセー柄みになればいろいろとアレだが基本アイツは冷静に物事に対処できるのである。
とかやってる間にイッセーがやって来た。
とたんにさっきまで不機嫌だった顔が嬉しそうに笑顔になる。
イッセーと千秋の会話がヘッドホン越しに聴こえてきた。
『「ごめん、待ったか?」』
『「ううん、私も今来たところ。寧ろまだ約束の時間じゃないし」』
『「はは、一時間も前に来るなんて、お互いよっぽど楽しみだったんだな」』
おいおい、約束の三時間も前に来てたのかよ、千秋の奴。
『「早いけど行くか」』
『「うん!」』
想定外の一時間も早くのデートに千秋は顔がほころびていた。
イッセーと千秋は自然に手を繋ぐ。
千秋は照れていたがイッセーは普通そうだった。
付き合いの長さのせいか、イッセーは千秋との多少のスキンシップに特にあまり狼狽えない。
まあ、千秋が幸せそうならいいか。
イッセーと千秋はその場をあとにした。
「……さてと」
俺はフードとヘッドホンを外し、物陰にいるとある集団に近付き、声を掛ける。
「何やってるんですか?」
『っ!?』
俺が声を掛けると先頭の四人が肩を思いっきりビクつかせた。
「ど、どちら様でしょうか?」
「士騎 明日夏ですよ部長」
「………」
そう、俺が声を掛けた集団の正体はイッセーと千秋と俺を除くオカルト研究部の総メンバーであった。
先頭の四人は帽子を被り、サングラスを掛けた部長、眼鏡を掛けたアーシア、私服姿の鶇と燕、後方に私服姿の残りのメンバーがいた。
部長とアーシアは変装のつもりなのか?
「部長達は分かるが、他の面子は何やってるんだ?」
イッセーに好意を寄せる部長達は分かるが、他のメンバーが何故いるのか気になった。
「うふふ、面白そうで、つい」
「僕も似たような感じかな」
副部長と木場がそう答える。
「……イッセー先輩がスケベな事をしないか監視に」
と、ソフトクリームを片手に塔城が答える。
(……お前は食べ歩きが主目的だろ?)
今度は部長が聞いてきた。
「そう言う貴方は何をしているのよ?」
「アイツらの様子見兼尾行者の監視ですかね」
「妹贔屓いけないんだ~!」
「お前が言うな」
鶇が贔屓と喚くが、コイツの方が燕の贔屓をしそうだった。
「つまり貴方は私達の邪魔をすると言う訳ね」
「まあ、今のアイツはデリケートな状態ですし、せっかくのデートですから」
「それは分かるわ。でも私達にも譲れない物があるのよ」
「でしょうね。ですが…」
「部長」
「何よ朱乃?」
「イッセー君と千秋ちゃん、もうどこかに行ってしまいましたわよ」
『あっ!?』
副部長の言葉に部長達は急いでイッセーと千秋がいた方を見るが、すでにそこには二人の姿はなかった。
「……あんた、これが狙いだったのね!」
燕が目付きを鋭くして俺を睨む。
二人の事を見失うように注意を引いたが、こうも簡単にいくとはな。
て言うか副部長、わざと二人がいなくなるまで黙ってたな。
副部長に目を合わせると、副部長がペロッと舌を出した。
「まあ部長、今回は我慢してください」
俺はそう言い、ヘッドホンを装着してその場から立ち去る。
無論、二人を探す為だ。


「イッセー兄、これどうかな?」
「ああ、似合ってると思うぞ」
そう答えると、千秋は嬉しそうにして別の服を手に取る。
「こっちはどう?」
「うん、そっちも良いぞ」
今俺達は千秋の要望で服屋に来て、千秋がいろいろな服を手に取って似合うかどうか聞き、俺はそれに答えていた。
うん、どれも千秋に似合っていた。
「やっぱ千秋はかわいいから何でも似合うな」
「ふぇっ!?」
いきなり千秋が驚愕したかと思ったら、今度は顔をうつむかせて、なにやらごにょごにょと呟いていた。
「どうした?」
「………な…何でもない………かわいい……」
最後の方の言葉は聞き取れなかったが、何でもないようだ。
「……そ、それより、どの服が似合いそうだった?……」
「う~ん……二番目の服かな?試しに試着してみたらどうだ?」
「う、うん」
千秋は服を持って試着室に入った。
そして千秋が試着室に入ってから数分後…。
「ど、どう?」
着替え終えた千秋が出てきた。
「………」
うん、正直見惚れてしまった。
「い、イッセー兄?」
黙って見つめてくる俺を見て不安になったのか、千秋はもじもじしながら聞いてきた。
「……に、似合ってない?…」
「ああ!ごめん、かわいくてつい見惚れちゃって!うん、とっても似合ってるぞ!」
俺の答えに顔を赤くしながらも、嬉しそうな表情をした。
「……じゃあこれにする…」
「じゃ、会計行くか」
ちなみに支払いは俺が出す事になっている。
「……自分で出すのに…」
「いいって、今回は俺の恩返しなんだから」
会計を済ませ、俺と千秋は店を出る。
「次はどこ行くか?」
「……うん、それじゃあ…」
それにしても、こうして女の子と買い物って言うのは、楽しいものだなあ。
ましてや、千秋みたいなかわいい女の子となるとテンションも上がるぜ!
「イッセー兄、どうしたの?」
「え?」
「なんかにやけてる」
「ああ」
どうやら、楽しさのあまり顔が緩んでしまっていたようだ。
「いや、千秋みたいなかわいい女の子との買い物が楽しいなぁ、って思って」
「……そ、そう………えへへ、またかわいいって言われた……」
なんかまたうつむいてごにょごにょと呟いていた。
一体どうしたんだ?


千秋が顔を赤くさせてうつむきだした。
距離がある上、周りの騒音でヘッドホン越しでも会話があまり聞き取れなかったが、僅かに聞き取れたイッセーのかわいいと言う言葉に照れているのだろう。
イッセーは分かってないのか、首を傾げていた。
あの後、二人の事をすんなりと見つけた俺は二人から大分離れた所から二人の事を見ていた。
ちなみに俺から少し離れた所に部長達がいた。
おそらく俺を着けてきたんだろう。
まあ、俺を警戒してか、あれ以上イッセー達に近付こうとしなかった。
あの位置なら千秋も部長達に気付く事はないだろう。
元々、俺のいる位置は千秋が気付くか気付かないかと言う距離であり、イッセーとのデートに夢中になっている今の千秋では俺の存在に気付けない位置取りだった。
と、イッセー達が移動しだしたので、俺も気付かれない距離を維持しつつ、部長達に意識を割きながら後を着ける。


日が暮れ始めた中、俺と千秋は帰路についていた。
「いろいろ見て回ったな」
「うん。……でも私の物ばっかりでイッセー兄はつまんなかったんじゃないの?…」
「そんな事ないって。千秋とこうして出掛けるだけでもめっちゃ楽しいぜ!」
「ならよかった。私も楽しかったよ」
「そっか。ならよかったよ」
ああ、なんか平和だなぁ。
悪魔になってからいろいろと気の休まらない日々が続いたからな。
片腕がドラゴンになったりしちまったしな。
もっとも、今は見た目だけ元の人の腕に戻っていた。
その腕を戻す方法を明日夏が教えてくれたのだが、まさか部長と朱乃さんがあんな事をするなんて、グフフ、部長も取り戻せて一石二鳥だぜ!
なんて思いながら、何気なく左腕を見てると、千秋が左腕に触れてきた。
「千秋?」
千秋は沈痛な面持ちで俺の左腕をさすりだす。
「……もうこの腕はイッセー兄の腕じゃないんだよね?……」
「……ああ…」
さっきまであんなに楽しそうにしていたのに今は見る影もなかった。
部長を助けた出した後、腕の事を知った千秋に鶇さんがアーシア同様に泣き出してしまった。
燕ちゃんも今にも泣き出しそうな顔をしていた。
俺にとっては安い犠牲だったけど千秋達にとってはそうもいかなかったらしい。
「……ねえ、イッセー兄…」
「何だ?」
「……もし、部長や仲間の誰かが危険な状態になって、どうしようもなくなったら…」
「……また、あの鎧を着るかな」
俺はそう答えた。
……それでまた、千秋を泣かす事になるのが心苦しいだけどな…。
案の定、千秋は今にも泣き出しそうだった。
「……鎧を着ずに解決…て言うか、何事も無いのが一番なんだけどな。……でも、本当にどうしようも無い時、俺の体の一部であの力を手にいれて、部長や仲間を助けられるのなら、安いもん…」
「安くないよ!!」
千秋が顔を険しくして叫ぶ。
「……もう無茶しないで!……ゲームの時は死に掛けて!……部長の為に片腕を差し出して!……」
「……ごめん、本当に心配掛けて…」
俺は千秋の頭を撫でながら告げる。
「でも、取り返しのつかない事になるのは嫌だからな」
「………」
「もちろん、死ぬ気はねえよ。命は惜しいからな」
「……じゃあ、一つだけ約束して!……死なないって約束して!……ずっと一緒にいるって約束して!……もう、大好きな人が死ぬのは……」
千秋の言葉を聞いて思い出す。
明日夏に聞いた事だが、元来千秋は甘えん坊で自分のお父さんとお母さんが大好きだったらしい。
いつも両親にべったりだったらしい。
……でも、その大好きな両親が死んだ…。
……しかも、目の前でだ…。
当然千秋のショックは大きく、引き込もってしまったらしい。
当時の俺は、そんな千秋を放っておけなく、いろいろと話し掛け、人見知りなところがあり、両親の死のショック等で周りを拒絶していた為、俺に全く心を開かなかったが、その内段々と俺に興味を持ったのか、俺と話すようになった。
それから徐々に俺になつき、今の関係となる。
たぶん千秋にとって俺は明日夏や冬夜さんとは違う兄みたな存在に思っているんだろう。
そしてもう、両親を失った時のような思いはしたくないのだろう。
「ああ、約束するよ!俺は死なない!て言うか、ハーレム王になるまで死んでたまるか!!」
もちろん、なっても死ぬ気はないが。
俺の宣言を聞いて、千秋もようやく笑顔になった。
「……約束」
「ああ!」
俺達は約束を交わし、再び帰路につく。


二人の会話を聞きながら、俺は笑みを浮かべていた。
俺は心の中で「……約束を破ったらぶっ飛ばす…」と告げ、これ以上はいいかとヘッドホンに手を掛けながら手に持つ缶コーヒーに口を着ける。
すると、二人の会話が外し掛けているヘッドホンから耳に入った。
『「……ねえ、イッセー兄…」』
『「ん、何だ?」』
『「……イッセー兄は上級悪魔になって眷属をハーレムにするんだよね?…」』
『「うん、そうだけど」』
『「……じゃあ、私が立候補してもいい?…」』
『「え」』
「ぶっ!?ゲホッゴホッ!!」
千秋のまさかの言葉にイッセーは素っ頓狂な声を上げ、俺は飲んでたコーヒーで噎せてしまった。
さっきの告白まがいな約束と言い、今のと言い、やけに大胆になってるなあいつ?
『「え、え~と」』
『「……私じゃダメ…」』
『「いや、むしろ歓迎だけど、いいのか?」』
『「……うん。……それに一緒にいるって約束したし…」』
『「え~とじゃあ、いつになるか分からないけど、上級悪魔になったら真っ先に千秋を眷属にするよ」』
『「……うん。……じゃあ、これも約束…」』
『「ああ、約束だ」』
やれやれ、兄貴、姉貴、俺達の妹が将来悪魔になる事になってしまったよ。
ちなみに余談だが、後日鶇と燕もイッセーとデートに行く事になり、千秋は尾行組の仲間入りをしたのは言うまでもなかった。  
 

 
後書き
次回からエクスカリバー編です。 
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